狩人

狩人


「クソッ!!どこ行きやがった!!」

「先にあちらの路地に目を咲かせておいたのだけど…見失ってしまったわ」

「秋水ごとか?」

「ええ…もしかすると、彼らの使っている抜け道があるのかもしれないわね」

「ゾロ!ロビン!抜け道っつうのはこいつじゃねえか?」

手を振るフランキーのもとへ向かうと、死角になっていた樽の影には細い排水口。

たしかにこの形なら、金網を外さなくても刀を通せそうね。

「人間サイズじゃどうやっても追っかけられそうにねえな」

「下はどうなってる?」

「ずっと降りて行けば、広い下水道に出るみたい。でも、すごく暗くて詳しい様子は分からないわ」

首を横に振った私に、ゾロが腕を組んで低く唸る。

物を盗む"妖精"といえばドレスローザでは古くから人間と共存してきた存在として認識されているはずだけれど、食事をとったお店ではあまり良い印象は持たれていないように見えた。これ以上は、現地の人たちに聞き込みをした方が良いかもしれない。

「あんたらもあの泥棒共にやられたのか?」

「"あんたらも"ってこたァ、ニィちゃんもやられたか」

「おれだけじゃないさ。あいつら誰からでも何でも持っていきやがる」

「それでも"妖精"はこの国の守り神でもある。そうでしょう?」

守り神と言った私に、声をかけてきた若い男の人は我慢ならないという風に大きく鼻を鳴らした。

「おれだってそう聞かされて育ったさ。例の病気が流行る前まではな!連中の本当の名はトンタッタ。守り神なんざ嘘っぱちだ!」

「トンタッタ?」

「おうよ!奴らバカ高ェ野菜やらを売りさばいて、金をどっかに貯め込んでやがる。リク王にゃ盗みを禁じられたってのに、未だにこの手癖の悪さだ!!!」

「取り返しに行きゃいいじゃねえか」

「それが出来りゃ苦労はねえ!もしあいつらの根城さえ見つけ出してくれりゃあ、皆あんたらに感謝するだろうよ!!」

まさに憤懣遣る方なしといったところかしら。タイルに革靴の底を打ち付けながら、こんな日は一杯やるに限ると、往来を行く人の肩を組み路地へ消えた姿を見送る。

「しっかし、思ったより面倒なことになってるみたいだな」

「野菜を売ってると言ってたが、そっから居場所を辿れねえのか?」

「王が盗みを禁じているなら、王国軍が何か情報を手に入れているかも…」

「君達、トンタッタ族の居場所が知りたいのかね」

ふっと落とされた声に、ゾロが残る二本の刀に手をかけた。

音もなく私たちを見下ろしたその顔は、独特な形の帽子に遮られて窺い知れない。

「……何モンだ」

「私は…トゥール。ヤーナムの、狩人だ」

不釣り合いに小さく見える医療教会の狩人証をつまんだ手は、関節のひとつ多い、細長い腕に繋がっている。ヤーナムは各地の移民や避難民を受け容れていると聞くけれど、狩人という決して人数の多くはない組織にすら珍しい種族がいるものなのね。

「狩人…ドフラミンゴの部下か」

「そう呼ばれることは、あまり多くはないがね」

「あんた、トンタッタの居場所を知ってんのか?」

「いや…だが、それを知るであろう人物に心当たりがある」

「ぜひ教えていただきたいわ」

夢のエレジアで出会った彼らの長と同じように、ほとんど肌の見えない装束を着込んだその人に笑顔を向ける。ゾロもフランキーも意外そうな顔をしているけれど、彼ら狩人はとっても特殊な立場の人たちだもの。

「…信用できんのか?」

「ええ。彼らが今私たちと敵対する理由は無いわ」

医療教会の傘下にある狩人は、"獣"を狩ることを使命としている。世界政府との繋がりから多くのことを許可されていても、"政府の管轄下にはない"ことが特色の組織。

そして狩人は、人を狩ることをしない。

「何より…狩人は秘匿の担い手よ。彼らは、見聞したことを絶対に他言しない」

「じゃあ居場所を知ってたとしても、教えちゃくれねえってわけだな」

「それでも私たちに声をかけたということは、トンタッタ族の件と狩人の仕事に関係があるということ。協力しましょう?彼、大切なものを盗まれてしまったの」

彼、と目線で示した私に、ゾロが苦虫を嚙み潰したような顔で応える。それを見た狩人さん、トゥールは、長い長い腕をお腹の前で組んで軽い笑い声を上げた。






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