狩り大会④
※頂上戦争後、新世界前の時間軸
※無駄に長い戦闘シーン
※ペンギンとシャチにオリジナル技が生えた
※画像はネットのフリーのやつ
※エミュがうまくいってない
※捏造妄想100%です注意
海から人の背ほどもある目玉が覗いた。巨大な背びれが船の周りをグルグルと巡る。背びれはやがて音もなく海に消え、少しばかりの静寂が場を支配した。
と思った矢先に現れたのは、頭だけでポーラータングの倍もあろうという海王類だった。ワニのような厚くて硬くてゴツゴツした皮膚をもったそいつが大口を開けると、海に落ちてもがいていたオキアミ海賊団の奴らが十何人か、ひと飲みで地獄へと落ちていった。
その光景を見たペンギンが締まりなく「ワーオ」と呟く。ローは鬼哭をかつぎ直しながらそのアホ面に声をかけた。
「おいペンギン」
「なんです?」
「おれはタングに戻るから、あとはしっかりやれ」
「エ!一緒にやらねぇのかよキャプテ〜ン!」
「おまえらのせいで足場が無ェ」
「えー!」
あと10分もたないと告げられたボロボロの船は、海王類の立てた大波のおかげでもはや風前の灯だ。カナヅチのローにとっては最悪なコンディションなのである。
ペンギンからの盛大なブーイングを無視して、ローが続ける。
「それにもともとおれは手を出すつもりもなかった。お前らがアホみてぇにはしゃいでバカやらかさねェか見てただけだ」
「慈悲もねェ!」
「海賊にンなもんあるか」
じゃあな、とひとこと言い残してローが消える。
ペンギンはムスッと頬を膨らませて、眼前に広がる凶悪な顔面と向かい合った。愛用している一本槍の先に付いたカバーを外し、甲板だった場所を駆け抜ける。そしてためらいも無く、デカい顔の口の中めがけてジャンプした。
海王類は目の前に飛び出した獲物に気がついた。生臭い息をはきながら自らの間合いに入るのを今か今かと待ちわびる。しかしちっぽけな人間が口に入ろうとしたそのとき、唐突に口を閉じた。
「え、うわ、嘘だろ」
ペンギンは鼻先に着地し、ヌメッた藻で足を滑らす。海王類の興味が他に移ってしまったのだ。その矛先は群青の海で目立ちに目立つ黄色い船、ポーラータング号だ。
「いや、そっちじゃねェって!」
「こっちだデカブツ!」
オキアミ海賊団の船に残った戦闘チームが、銃やら大砲やらを当てて海王類の気を引こうとする。その間にポーラータングはジリジリと間を広げるように後退した。野生の動物に突然逃げだすのは厳禁なのだ。
「おーい!おれが切りつける!援護を頼む!」
「よしきた!」
「まかせろ!」
シャチが海面から顔を出して戦闘チームに叫ぶ。応えたメンバーは銃器を構え、狙いをさだめて機を待った。
シャチが海王類の周りを縦横無尽に泳ぐと、やつは今度はそちらに目をつけた。シャチを追うように頭を動かすたびに海が揺れる。だんだん大きくなる波のしぶきに白のツナギがまぎれ、ついにはシャチを見失った。
シャチが狙ったのは、まさにそのタイミングだ。寄せた白波に合せて海から飛び出し、その勢いを利用して手持ちのサーベルで厚い皮膚を裂く。
喉元に一文字の切れ目が入り、海王類は唸り声をあげて痛みに悶えた。
しかし。
「浅かった!」
硬い皮膚の下にはぶ厚い脂肪がたっぷりとのっている。そのため斬撃は肉そのものにほんの少し及ばなかった。
援護を頼んだ戦闘チームのメンバーが間髪入れずに銃を撃つ。先ほどまで弾丸は跳ね返されていたが、シャチのつけた傷口を狙うことでやっとダメージを与えられるようになった。
「ちくしょーあのデブ……いや美味そうではあるけどさ。しょうがねェな、もう一発……ん?」
再び海に潜ろうとしたシャチの目の前に飛べない鳥が落ちてきた。ペンギンである。彼はずっと顔のあたりでバタバタピヨピヨしてたのだが、海王類がシャチたちの攻撃に大きく反応したため、ついに弾かれ落ちてしまったのだ。
無様に腹から着水したペンギンに、シャチはからかい調子で声をかけた。
「おーいペンギン、何してんだよ」
「我らが偉大なる海と熱烈キッス」
「バッカで~!」
「うるせッ」
ペンギンはプンスコ怒りながら、泳ぐシャチの背によじ登る。シャチの泳ぎの速さはハートでも随一だ。仲間を乗せて泳ぐことはよくあるため、シャチも何も言わずに受け入れた。
「飛べねェ鳥ってのはずいぶんと不便なもんだな、ペンギン」
「いや、飛べるさ。お前がいればな」
シャチの軽口にペンギンが返す。その声色は「さも当然」と言わんばかりで、一瞬呆けてしまったシャチがむず痒そうに、それでいて嬉しそうに笑った。
「だはッ!そうこなくっちゃ!」
シャチに身をあずけるペンギンはおんぶされるような体制をとり、できるだけ抵抗を減らす。それによって泳ぐスピードがグンと上がった。
海王類は喉の奥からグルグルうなりを上げ、二人を捕えようと四苦八苦。しかし二人はそんなものまるで意に介さない。
「いくぜ、相棒」
「いつでも、相棒」
たったのひと言だけ交わして二人は海へと潜った。
海の中でさらに速度をあげる。シャチの背中にいたペンギンは、いつの間にか彼の肩まで移動していた。しゃがみこむような姿勢で加速と共に増していく水圧にジッと耐える。十分な助走をつけて、やがて明るい水面に到達し。
「ハートのマリンショー開幕だ!」
どちらともなく叫びながら輝くブルーを飛び出す。
シャチはペンギンを肩に乗せたまま大ジャンプ。その速度が落ちないうちにペンギンの靴底に手をやり、力いっぱい押し上げる。
「ぶっ飛びやがれ!『鯱矛(シャチホコ)ブースター』!」
ペンギンもシャチの押し上げにタイミングを合わせて、彼の手の上でジャンプした。
シャチの泳ぎの速度と腕力、ペンギンの脚力が合わさった結果、弾丸よりも速く砲弾よりも重い一矢となったペンギンは、一直線に海王類の喉元の傷を目指した。
槍の先を頭上に構える。
斬撃と弾丸をお見舞いしたその場所から、ほんの少し血が吹き出すのが見え。
「『豪速(ファスト)ペンギン ストライク』!」
狙いは寸分違わない。
槍先は傷口を捉え、みごと肉に到達。海王類はギャー!と一声、鼓膜を破るほどの大きな悲鳴をあげた。
「あ、ヤベ」
血走った眼がギロリと動いてペンギンをとらえた。槍が刺さった瞬間に手を離していたので、彼はもう海めがけて落ちている。自由がきかない。
海王類はそんなペンギンをコバエのようにはたき落とそうとヒレを持ち上げた。巨大な影がペンギンの視界を覆う。直撃を覚悟し、歯を食いしばった。
しかし、最後の一撃がペンギンに届くことはなかった。
海王類はそのまま力なく崩れ、泡をふきながら白目をむいて倒れた。たったのひと刺しでこれであるから恐ろしい。ペンギンはぶるりと背を震わせ、唇に『へ』の字を書いた。
「ペンギン!」
「おう、シャチ!」
無事に海に達したペンギンにシャチが近寄り、二人は軽くパチンとハイタッチを交わす。完全に沈んだオキアミ海賊団の船からも戦闘チームのクルーらも泳いで来るのが見えた。
シャチが「いや~、ハハ…」と苦笑を浮かべてしみじみ呟く。
「今日も絶好調だな、ウニの毒」
ペンギンの槍にはウニ特製の毒が仕込まれていた。対海王類用に用意されたもので、どんなに大型でもあっという間に仕留められる。この毒の素晴らしいところは火を通せば無毒化されることであり、その有効性と安全性は医者であるローでさえも太鼓判を押した。
この毒のおかげで狩りは格段に楽になった。しかしそのぶん、調子に乗ってつまみ食いするやつが出てくるのが困りもので。ペンギンはゴクリと喉を鳴らすシャチにジロリと目を向け、ピシャリと言い放つ。
「食うのは火ィ通してからだからな」
「わかってるって…………いやでもちょっとだけなら」
「良いわけないだろ!」
穏やかになった海に、ペンギンがシャチの頭を叩く音がパスンと響いた。
続