狩り大会③

狩り大会③


※頂上戦争後、新世界前の時間軸

※イマジナリークルーのイルカ、クラゲ、ゴンドウもいる

※野性味は遺伝じゃなくて特異体質という設定

※画像はネットのフリー画像

※エミュがうまくいってない

※捏造だらけ超注意!



 援護チームは自分たちの仕事を終え、オキアミ海賊団の沈みゆくさまをノンビリと眺めていた。仕事といっても、クルーたちがシャンブルズで戻って来られるように海に捨ててもいいものを甲板に出しておくことと、戦利品の運搬準備などの簡単なものだ。新人や戦闘が専門ではないクルーが割り当てられる役割である。

 オキアミ海賊団の奴らがゴミクズのように海に落っこちるたびにポーラータングの甲板では歓声があがり、賭け金が行き交う。賭け事は海賊のマナーのようなものだから、よほどのトラブルがない限りはローも目をこぼすのだ。BGMに敵船員の汚い悲鳴が響く。聞こえるたびにシャチの遊びの激しさに覚えのあるクルーたちは「げェ…」と顔を歪ませた。

 ジャンバールはその光景を見ながら、たしかにこれは新人の出る幕ではないなと思った。船上や海中での戦いはもとより、短時間での制圧を可能にするチームごとに統率のとれた効率的な仕事運びに、船長経験のあるジャンバールも舌を巻かざるをえなかった。

 感心して思わず唸りをあげると、先輩クルーのゴンドウがツンツンと袖をつついた。ジャンバールから見るとだいたいの人間はずいぶんと小さく、ゴンドウも例にもれない。だからジャンバールは彼に合わせて少しだけ頭を下げた。

「おれもさ、入団してひと月は援護すらさせてもらえなかったんだ。だから落ち込むなよ、ジャンバール」

 そのうちいいことあるって、とニコニコ笑って遠慮なしに背中をバシバシと叩く。彼の気遣いはジャンバールにとって少しズレたものだったが、底の知れない暖かさを感じた。

「ああ、励むとしよう」

「マ、励んだとしても戦闘に出るのはおれが先だろうけどね。なんたっておれのが先輩だからな、2ヶ月と3日も!」

「……そうだな」

 ずいぶんと年若いゴンドウの謎の自信に苦笑していると、援護チームリーダーのクリオネから声がかかった。

「おーい!手ェ空いてんのか?コックの様子を見てきてくれよ」

「クリオネさん!おれです!おれ行ってきます!」

「頼むぜゴンドウ。あ、ジャンバールはここにいろよ。今日は見てるのが仕事なんだろ?」

 バタバタと船内に駆け出すゴンドウを見送りながら、クリオネが「お前は何も賭けねーの」とジャンバールに問いかける。ジャンバールはそれに興味なさげに肩をすくめて答えた。

「キャプテンの手腕に感心していたところだ」

「わかるか。すげェんだ、あの人」

 このハートの海賊団のクルーは船長のローをずいぶんと慕っており、そのファンのようなノリに入団当初は戸惑った。いまの海賊はこんな感じなのかと海を離れた年月を改めて実感したし、じつは今でも少しついていけていない。

 だからこそ、ジャンバールはなにか成さねばと焦っていたのだ。確固たる居場所がほしかった。

「さっきはああ言ってたけど、キャプテンはお前のこともかなり信頼してると思うぜ。じゃなかったらその『図鑑』は渡さない」

「これか…」

 ジャンバールは手に持ったひとつの冊子を見つめた。何度も何度もめくった跡があり、そうとう読み込まれているようすだ。表紙にはポップな字体で『海のいきもの図鑑』と書いてあるが、これをローだけは頑なに『カルテ』と呼ぶ。

 パラパラと適当にめくると、ペンギンやシャチなど仲間の名前が載っているページには大量の書き込みがされており、付箋までついていた。動物の説明のほかに人間である彼らの性格や気質、生活指導の記録までもが丁寧に書きおこされている。

 ジャンバールは大きな指でそのひとつひとつをそっとなぞった。これは船長の戦いの軌跡であると、心で理解できた。

「あれ見たらお前もわかると思うけど、おれらってけっこう特異な体質でさ」

 クリオネが困ったように眉を下げながら、海で楽しげに人間を引きずりまわすシャチを指さした。

「だいたいみんな海賊やる前は生きるのに苦労してた。売られたり、捨てられたり、悪いことに利用されたり、家族に監禁されたり…力加減を間違えて親兄弟を死なせてしまったやつもいる」

 ジャンバールがハッと息を飲み、もう二度と味わうはずのない奴隷だったつらい日々を想った。波の音がやけに小さく遠くに聞こえる。冷たい汗が一筋、背中のまんなかをツウとなぞった。

「ずっとバケモノだって言われて、モンスターだってののしられて生きてきたんだ。でも、キャプテンだけは違った」

 ふたりして沈みかけた船に目を移す。きっとお互い、人生で一番つらかった時期にはこんな未来があるだなんて思ってなかったのだろう。思えなかったのだろう。

「あの人だけは、こんなおれらを人間として扱ってくれた。おれたちはあの人に救われたんだ」

 クリオネが力強く言った。他のクルーと比較しても小さめな体格のクリオネが、とてつもなく大きく感じた。ジャンバールが「いい船だな」とポツリと言うと、「だろ?」と彼が笑顔で返した。

 賭けに勤しむクルーたちがワッと歓声を上げる。どうやら相手の船長がぶっ飛んだらしい。単眼鏡を回し見して、どこだどこだと騒ぎ出す。

「クリオネさん、コックも準備は万端だって」

「狩りの様子はどうだ?」

 ゴンドウがコックを連れて顔を出したちょうどそのとき。ゴミと引き換えに甲板に現れたのは、ウニ率いる略奪チームの3人だった。

「ウニ!イルカ!クラゲ!」

「うっす、ただいま」

「シケてやんの、あいつら宝なんてほとんど積んでねー!」

「食糧買い込んだばっかりだね、あれは。酒とスパイスと野菜は大量大量」

「いいねえスパイス、おれにゃ何よりの宝だ」

「こづかい期待してたのによォ、これは整備費にまわるパターンか」

「オーノー!さっきの賭けで全部使っちまったのに!」

「へー、武器はけっこういいのあるじゃねぇか。この銃なんて最新モデルだぜ」

 食材に目を輝かせるコックのかたわら、宝を期待していた援護チームの面々は膝から崩れ落ちる。まるで天国と地獄だ。そんな好き勝手しはじめる連中に、クリオネが順繰りにゲンコツを落としていった。

「待て待て物色は後にして船内に運べ!まだ狩りはこれからなんだ!邪魔になる!」

「ん?これから?」

 敵船員は全滅、船は沈む寸前で略奪も済んだとなれば、狩りはもう終わりでは?そう思ったジャンバールが不思議そうに首をかしげると、単眼鏡を覗いていたクルーが大きく手を振りあげながら叫んだ。

「かかったぞ!大物だー!」

 それを合図に、海面が山のように大きく持ち上がった。ジャンバールは目の前の光景にあんぐりと大きな口を開けたまま、かぶった波に盛大にむせることになる。




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