狩り大会①

狩り大会①


※頂上戦争後、新世界前の時間軸

※オリジナル海賊団(敵)がいる

※エミュがうまくいってない

※画像はネットのフリー素材

※捏造がいっぱいです注意!!!



 白波うねる大海原よりさらにその下、水深300mを航行するポーラータング号の無機質な廊下に、調子のはずれた鼻歌が響く。鼻歌の主は肩をはずませ、軽くステップをふみながら指パッチンまで繰りだした。ごきげんなままに向かう先は食堂だ。とうとうサビにさしかかり、勢いにまかせて華麗にターン……は決まらず、出張ったパイプに足をひっかけ盛大に転んだ。

「シャチ、なにやってんのお前」

「…愛すべきおれらのタング号とハグ」

「ばかじゃん」

 シャチが転んだちょうどそのとき近くの部屋から出てきたウニが、呆れたようすで転んだシャチを見下ろした。いつもならばシャチは「バカって言った方がバカなんだ、バーカ」と噛みついてくるのだが、今日は違った。むくりと体を起こして立ちあがり、汚れたツナギをパンパンとはたきながらニヤニヤ笑って言う。

「お前の暴言を許しましょう。おれはいま気分がいいんだ。感謝しろよ」

「ありがとう」

「素直かよ!」

 へらへらと二人で笑い合っていると食堂の扉からペンギンがニョキッと顔を出した。

「シャチ、ウニ。なにやってんのお前ら」

「シャチがコケたから指さしてわらってた」

「バカじゃん」

「うるせー!」

 ペンギンに早くこいと手招きされた食堂には、もうすでにクルーたちが集まっていた。操舵室にいるハクガンとべポ、動力室で仕事しているイッカクら数人とキッチンの準備を担うコックを除くとこれで全員。すべての目が、シャチたちの数秒あとに食堂入りした船長のローに向けられる。ローはゆっくりとクルーらを見回してからひとつ息をおき、満を持して口を開いた。

「これより、狩り大会をはじめる」

 言い終わるやいなや、野郎どもの太い歓声が響く。終わりのこないそれをローは手だけで制し、さらに続けた。

「標的はおれたちの『真上』にいるオキアミ海賊団。船員約80ほどの中規模海賊だ。賞金首は船長が4300万、その他2500万がひとりに1000万がふたり。それ以下は…アー、四捨五入して切り捨て。まあなんと、お可愛らしいことだ」

 ローが相手海賊団の手配書をバサッとバラまき、お行儀悪く踏みつける。それを見たクルーたちから、アハアハといやらしい笑いがもれた。

 ローは少しの間それを眺め、とん…と鬼哭を床につき鳴らす。部屋に満ちていた笑いが一瞬にして引いた。それは海賊船の中という場所でなければ軍隊の精鋭と見紛うほどに、統率のとれた動きだった。

「先発はペンギンとシャチ、船底から侵入し撹乱しろ。戦闘チームは艦の浮上後おれのシャンブルズで敵船甲板へ、内ウニチームは頃合いをみて船内に侵入して金品食料を奪取。他は艦にとどまり援護を頼む。それと…ジャンバール」

「なんだ、キャプテン」

「狩り大会は初めてだったな。お前は見学していろ」

 前回の狩り大会はシャボンディ上陸前だった。それからは海軍から逃げたり、頂上戦争に顔を出したり、麦わらのルフィの治療をしたりと怒涛の毎日。それまでは数日に一度のペースでおこなっていた狩り大会なのに、ずいぶんと久しぶりになってしまっていた。

 ジャンバールはローのいう『狩り大会』こそ初めてではあるが、海賊の狩りといえばだいたい略奪行為であろう。特にジャンバールは体格が良く腕っぷしも強いし、戦闘経験も申し分ない。なによりも奴隷から解放してくれたローのために、自分にできることならなんでもしたかった。だから新人とはいえ自分だけが作戦から外されるのはどうにも腑に落ちなかった。

「だがキャプテン、雑用くらいならおれにも…」

「言い方を変えよう。見学がお前の今回の仕事だ」

「キャプテン」

「いいか、これは船長命令だ。ああそうだ、このまえ渡した『カルテ』も忘れるな」

「……了解した」

 にべも言わさぬ口調である。ジャンバールはすっかり肩を落として、背中がふた回りほど小さくなってしまった心地だった。

「はーい船長、質問いいですか?」

「シャチ」

 すこしピリついた空気に、シャチの間のびした声が抜けた。ローがあごをクイっと動かし先を促す。

「おれさァ、ずーっと今日を楽しみにしてたんだよ。なんたって狩り大会は、いち、に……えっと3週間ぶり?」

「2週間ぶり」

「それぶりだからさ」

 指折り数えたあげくに適当を言い始めたシャチに、ペンギンが横から間違いを訂正する。ローが「簡潔に」と言うと、ペンギンに肘で小突かれた脇腹を抑えながら、焦ったふうに汗を散らして続けた。

「遊んでいい?」

 ローはキュッと眉間の谷を深めた。ペンギンを見る。ペンギンもキュッと唇を引き締めて、ひとつ頷いた。対照的にシャチの口は三日月を描く。彼とは長い付き合いである。サングラスの奥に何色があるか、直接見なくてもその様子だけで理解できた。

「…認めよう」

「やったー!」

「ただし!おいシャチ聞け!……くれぐれも!くれぐれも、おれが終わりと言ったら終わりだからな」

「アイアイ!」

 小躍りすら始めそうなシャチを、ローが強くたしなめる。元気な返事が逆に恐ろしかった。

 しかしシャチも言ったように、確かに2週間ほど自由に遊ばせてやる余裕もなかった。変なタイミングで不満が爆発しないように、ここらで一度発散させてやるのがベストだろう。

「もしおれが言っても止めねェ場合は、お前の舌ちょん切ってケツの穴にぶち込むからな」

「ヒェ…」

「ウニの」

「おれ⁉」

「絶対ェ嫌だ!」

「おれだってヤだよ!」

「冗談だ」

 それが本当に冗談かどうか知るのは神だけだ。とにかくシャチは楽し気に万歳していた両手をそっと下げ、とばっちりを受けたウニはケツに手をやった。そのほかのクルーも眉根を寄せてなんとも言えない微妙な表情を浮かべる。

 シンとした空気を打ち破るように、ローがパンッと手を鳴らした。大きな破裂音は鼓膜を揺さぶり腹の底から奮い立つ。

「総員ただちに持ち場につけ!30秒で支度しろ!浮上用意!」

「浮上よーい!」

 ローが叫ぶや否や、弾かれたようにクルーたちが駆け出した。クリオネが操舵室と動力室に伝令を飛ばすと、伝声管から『アイアイ!』と声が返った。そうしているうちに得物を手にしたペンギンとシャチがそろう。

「3、2、1でいく。息を吸え…3、2、1、シャンブルズ」

 空気で頬をパンパンにした二人が消え、代わりに小魚が水を求めて跳ねまわる。援護チームが手際よく魚をキッチンに届け、汚れた床にモップをかけた。まるでサッと波が引くように、無駄な動きなど何ひとつなかった。

 ポカンと突っ立つジャンバールの腕にポンとローが手を置く。お前もそのうちな、とでも言われているようだった。それにハッと気が付いたジャンバールも、息を吹き返したようにいそいそと動き始めた。



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