身代わりの部屋
・「if世界でifローを助け出した」〜「ifドフラミンゴと決着をつける直前」くらいの間の時間軸イメージ
・ifロー、味方のおもちゃ達、正史世界から来た麦わらの一味、ハートの海賊団がifドフラミンゴの城を駆け回っているところ。
・ローは「正史ロー」、"ロー"は「ifロー」
・「身代わりの亡骸の山」概念を使用
その部屋を"ロー"が見たとき、驚愕以外の感情が消え失せた。
倒れ伏す人間。赤く染まった衣服。もはや何も映すことのない瞳。なのに全く腐臭はしない。全てが右腕を切り落とされた、夥しい数の人間であったものがそこにあった。
それだけならば。故郷の滅亡を目前にし、恩人の死が刻み込まれ、人の死が付き纏う海賊を長くやってきた"ロー"には、"ただの死体の山"であるならば、強烈な刺激程度で済んだだろう。
「なんだ、これ」
「…………」
あとに続いた誰かがそう呟いた。部屋を見たサンジがすぐに戻る。恐らくこの部屋を女性陣が見る前に止めるためだろう。
ならば当然、止められない野郎共はこの部屋に入るわけで。その誰もが言葉を失った。そして……。
「ギャ~〜〜!!死体の山だ〜〜!!」
「何だよこれ!!何で――――――――!!」
そして、その中にあるものを正しく認識したウソップとチョッパーがありえないものを見たように叫ぶ。ありえないはずなのだから仕方ない。耐え難い屈辱を受けてきた自分だって、こんなものを見たことが無かった。
「こんな数の……、いったいどうやって……」
ペンギンが震えた声で絞り出す。悲惨な光景を前に、二人のローが同じ答えを弾き出した。
ヘルメスの力は世界を超えるもの。そして、あのドフラミンゴはヘルメスを使い世界を超えて、自分のトラファルガー・ローを探していた。ならば、この死体は恐らく、辿り着いた世界から連れてきて、違ったから全て捨てられて……。
「狂ってやがる」
ようやく"ロー"が吐き捨てることの出来た言葉は、今までに何度も出したものだった。吐き出す度にドフラミンゴの持つ狂気が更なる狂気へと塗り替えられていくと感じる。
これほどの感情を、自分はぶつけられていたのかと、体の震えが止まらなくなる。
いや、違う。自分に逃げ出されてから、より重く、より強く……。
でも、それよりも……。
「人の命を、何だと思ってやがるアイツは!!」
死の外科医が、他でもない"俺"が、消えていった命を前に叫んだ。
………………
死体の山の中でまだ生きている脚――悪魔の実の不可思議な力なのか、はたまた死に損なっているだけなのか――を能力で移植し、代わりにもう使えない"自分"の脚を置いていく。とてつもなく嫌そうな顔のローを強引に押し通して手術は開始された。右腕も頂戴したかったが、無いものは仕方がない。
かつてパンクハザードで海賊達に行った『移植手術』を"自分相手"にするとは互いに思っていなかっただろう。
「"ものは一緒"だ。すぐに慣れるだろう。だが、違和感が出たらすぐに言え」
「わかった。ありがとう」
ローによる手術を終えて少し歩く。軽くジャンプしても全く問題ない。その場で出来る限りの動きを試した。これならいける。戦える。
同時に、元の脚が力を失ってコトリと音を立てた。
もう、"ロー"を縛る脚は無い。
「行くぞ、トラ男、トラ男2号」
麦わら帽子の男は、それだけしか言わなかった。それだけを言って、この部屋から出ていった。激しい怒りを抑え込んだことだけは"ロー"にはわかる。
麦わらに続きローが、続いて一人、また一人と部屋を出ていく。動くことを確認したばかりなのに最後まで脚が動かなかった"ロー"は積み上げられた彼らに、小さな声で言う。
「ごめんなさい。巻き込んでしまって」
そして、ウソップ達の悲鳴と、目の前の光景がグルグルと頭を回し続ける。それをエネルギーとして、怒りと悲しみを"ロー"は生産し始める。
(こんなもので、俺はこんな感情を思い出したくなかった!!)
なかなか動かない"ロー"を見たおもちゃ達が押し出して、"ロー"はその部屋を出た。
『何だよこれ!!何で全部トラ男なんだよ!!?』
他の世界の"トラファルガー・ロー"が捨てられていた部屋を出た。
終