爆弾魔だよ全員集合!

爆弾魔だよ全員集合!






街のはずれにある廃ビル。もう捨てられてから数十年経つような代物だ。そこへ、白石たち網走署の面々は足を運んでいた。

白石が脇に抱えた拡声器で廃ビルに呼びかける。

『えー犯人に告ぐ!お前のことはビルごと包囲しました!大人しく出てき…』

ピー、ガガーとノイズが走り、白石の声はかき消された。

「なんだよー、最後まで喋らせろよー」

ガンガンと古い拡声器を叩く白石の横で、牛山がつかつかとビルの方に歩き出す。

「柄にもなくそんなまどろっこしいことするからだろ」

「へいへい」

結局いつものように正面突破の流れとなった。


入ると、いかにも手入れの行き届いていない建物、と言った感じであちこちヒビが入っている。あちこち軋む階段を登る。

「うーん、素人が考えそうな隠れ家、って感じですね」

「ここで爆弾なんか作って保管しようってのか?建ってるのも奇跡だろ、こんなん」

一緒にやってきた辺見と稲妻も辺りを見回しながら思い思い感想を言う。今回は爆弾魔の確保に向けての行動だ。爆弾どころか海風で倒れそうなこのビルで、一体何がしたかったのか。1番後ろにいた岩息はふと部屋の隅を見た。

「でも、ホコリはほとんどたまってませんね。チリでも入ったらまずいんでしょう」

突然、バタン!と近くのドアが開いた。全員臨戦態勢に入る。そこにいたのは、一人の真っ黒な服のガスマスクをした男。

「動くな!」

その手には拳銃が握られている。それを真っ先に見つけた辺見は一気にテンションが上がって、白石の両肩を掴んで強く揺さぶる。

「白石さん見てください!本物の拳銃ですよ!しかも護身用じゃなくて殺傷用の!ああ僕幸運ですよ拳銃を使うなんてこの国じゃあ終ぞ見る事の無いと思ってたのに!」

ガクンガクンと前後に頭を揺らしながら、白石は犯人の方を見る。犯人はと言うと予想外も予想外のリアクションに若干引いている。

仕方がないので後ろの稲妻が声をかける。

「お前が爆弾魔か。面倒くせえな…銃火器まで持ってやがるとは…」

犯人の出てきた部屋の奥には、日本では禁止されているはずの武器が山ほど積んである。

「見たところ、機関銃、ライフル、拳銃も数丁あるな」

「爆弾だけでは無いとなると、処理が面倒ですね」

焦る様子もなく牛山と岩息が話す。とはいえ、さすがに生身で銃に勝てる気はしない。

「うるさい。動くなと言ったはずだ」

ブレる視界の中で、白石は犯人が引き金を引くのが見えた。その銃口は、なぜか何もしていない白石に向いている。

いきなり、勢いよく辺見が方向を変え、犯人の懐へ飛び込んだ。まさに弾が発射されそうな拳銃をまっすぐ持った男の腕ごと真横に払い除ける。

パアン!

発射された弾は、誰もいない方の壁にまた穴を開けた。

「は?…クソッ!」

辺見にうろたえる犯人に、牛山が飛びかかって抑え込む。その手に握られた拳銃を岩息が弾き飛ばす。

「観念しろ。辺見は武器持ってる奴ら相手だと無敵だ」

「ち、くしょう…」

悔しそうに犯人が吐き捨てる。すると、置いてあった拳銃に手を伸ばし、めちゃくちゃに引き金を弾いた。

ボン!と小さく爆発したような音がして火花が散る。

「「「ん?」」」

銃口は一応牛山に向いている。不発だったか。そう全員が思った時。

ボカン!と音がして銃身が爆発した。その火花は床や壁に付いてあっという間にメラメラと燃え上がっていく。

「おい!これ暴発してんぞ!」

「やべえ!逃げろ逃げろ!」

奥には爆弾がある。あの量がうっかり引火でもすれば間違いなくビルが更地になるだろう。白石が急いでその爆弾を抱えると、犯人もろともダッシュで離れた。

しかし大の男6人では、ビルの耐久が先に限界を迎える。踏んだ側からミシ、とかパキ、とか嫌な音がする。不意に、廊下の一部が崩落した。

「うお!っと、危ねえ」

爪先まで差し掛かっていた牛山が急いで後退りする。下はもう延焼が早かったのか火の手が回っている。

「おい、そっち大丈夫か?」

先を走っていた辺見と稲妻、犯人が向こう側に取り残されてしまった。

「なんとかな。防火扉が閉じてるが、非常階段が向こう側にあったはずだ。そっから行け!」

「わかった」

「なになに!なんかあった?!」

奥から白石が走ってくる。と、

「痛ッ!」

がれきにつまずき、ベシャッとその場に倒れ込む。その手から爆弾の入った袋が放り出され、ポンポンと跳ねて、燃え上がる下の階に落ちた。

「逃げろー!爆発するぞー!」

稲妻、辺見、犯人と、白石、牛山、岩息はそれぞれ逆方向に走り出す。

「あー、もう面倒に面倒重なりやがって…」

辺見と犯人を小脇に抱えると、稲妻は階段に向かってすごい勢いで走り出した。


「本当に何やってくれてんだ白石!」

「しょーがねーだろ!あんな足場悪いところで!」

一方ギャーギャーと口喧嘩しながら三人は進む。すると、程なく固く金属の大きな扉のある突き当たりについた。

「防火扉か。階段はこの向こうだな」

「なるほど、お任せあれ」

岩息が防火扉の前に立つと、思いっきり殴りつけた。

ガコォン!と音を響かせて大きく扉が歪む。もう一度殴りつけると人一人入れるほどのスペースができた。

「どうぞ」

さっさと三人とも隙間をくぐって階段を降りようとする。白石が一段目に足をかけたとたん、

「え」

ネジがもろくなっていたのだろう、クルンッとステップの板がひっくり返り、斜めになる。それを皮切りにどんどん下の階のステップもバラバラと斜めになり、階段はあっという間に傾斜40度の滑り台になった。

「おわあああ!」

牛山と岩息も足を滑らせ階段だったものを滑り落ちていく。

「危なッ!」

勢いそのままで踊り場に突っ込むのを、牛山と岩息は壁を蹴って対処する。後ろから体育座りのまま滑ってきた白石が、そのまま壁にゴン、とぶつかった。

衝撃で崩落した天井の一部が白石の頭に直撃する。

「イテッ」

「早く行くぞ」

頭をさする白石とそれを心配する岩息を尻目に牛山は歩き出した。慎重に階段を降りていき、やっとこさ外に出る。振り返って見れば、窓からもメラメラと炎が見える。

「うへー、俺らも早くここを離れねーとな」

「そういや、辺見たちがまだだな。大丈夫か?」

「…爆弾は一応袋に入れてたから、仮に火がついてても袋が燃えるまでのラグはあるし、稲妻いるから多分大丈夫だと思うけど」

とにかく、三人は下で待つことにした。



「あー、こっちにも火の手が…階段は使えねえな」

稲妻が下の階を見て言う。3階までは降りてきたものの、そこから先は火の海だ。

「これはもう降りれませんねえ。僕も焼死は嫌です」

辺見も後ろから覗き込んで残念そうにつぶやく。犯人はというと。

「おしまいだ…ここで全員焼け死ぬんだ…」

廊下の方で頭を抱えてしゃがんでいる。苛立ち混じりで稲妻が振り返る。

「うるせーな!もともとお前が爆弾作ってたんだろーが!…ん?」

犯人の頭の上にはボロボロの窓がある。まだ火は回っていない。

駆け寄って外を見ると、地上でたむろする白石たちを見つけた。

「…辺見、この高さ、いけるか?」

呼ばれた辺見も窓から外を見る。

「うーん、まあいけますね」

「よし、白石ー!」

大声で下に呼びかける。白石たちも気づいて上を見上げた。

「どーした?」

「下でキャッチできるか?!」

「キャッチ?…なーるほどね」

合点のいった白石は牛山と岩息の方を見てから、大きくマルをつくって見せた。

「辺見!いけるぞ、先よろしく」

「はい」

辺見はうなずくとなんのためらいも無く窓に足をかけて飛び降りた。下には牛山がいる。間違っても死ぬことは無いだろう。

「行ったな…よし、次お前いけ」

辺見が着地したのを見届けて、稲妻は犯人を立ち上がらせる。

「嫌だー!死ぬー!」

「死にゃしねーよ、たかが古いビルの三階だ」

「正気じゃないだろ!三階から飛び降りるなんて!」

「じゃあお前焼死にしたいか?」

「それも嫌だ!」

「なんなんだよお前」

渋る犯人をどうにかして脱出させようとする稲妻。その時、二人の真横で燃える天井が崩落してきた。

「ダメだ!もうここで死ぬんだ…」

「あーもう、ラチ開かねえ!行くぞ!」

稲妻はおもむろに犯人を担ぎ上げると、窓の縁に立つ。

「どうせ担ぐなら野郎じゃなくてお銀がよかったんだけどな…牛山!行くぞ!」

「え、お前ら二人で、ちょ」

制止の声も聞かず、稲妻は窓枠を思い切り蹴って飛び上がる。

「おらあああ!」

ふわっと一瞬だけ二人は宙に浮いた。瞬間、みるみるうちに地面が近づいてくる。

「わああああ!」

叫ぶ犯人。地面はもう目の前だ。

「よ、っと」

直前、稲妻は即座に受け身の姿勢をとって衝撃を逃がす。そして、スタっと地面に着地した途端、背後でビルから轟音が鳴った。

ドガアアアと派手にビルが爆裂四散する。

「間一髪だったな」

岩息が犯人に手錠をかけるよこで、牛山が稲妻に言う。

「全くだ。アイツがグズるから手こずった」

さっきまで入っていた廃ビルだったものはすでにガレキの山となっていた。

「しかしどーする?証拠品全部燃えたぞ」

「銃なんかは多分、残ってますが、これを探すのはさすがに時間がかかりすぎますしね」

牛山と辺見が頭をひねる後ろで、白石はずっと含み笑いを続けている。

「なんだよ、気味悪い」

「フッフッフッ、実はねえ、あるんですよ、証拠品が」

白石がポケットから暴発した拳銃と爆弾を取り出した。

「お、でかした白石!これでまあ、一応は通せるな」

「ついでに科捜研に爆弾の解析頼まないとですね」

ガレキの山をバックに、白石たちは犯人を車に乗せる。白石の頭には、すでにタンコブができていた。



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