煩悶①
「諦めたら?」
患者と医者という関係に比べると、兄妹関係は遠慮が無くなるものらしい
互いに特殊な間柄すぎて比較できない、という一般論は、この妹、星野ルビーに関しては例外である
「それが出来たら苦労は…」
「何もしなくていいじゃん、お兄ちゃんはあかねさんにとって『元恋人』であって今は『何回か共演しただけの人』なんだからさ」
妹からの言葉がグサグサと突き刺さる
普通にめちゃくちゃ苦しい、言葉に毒性があるならとっくに致死量に到達しているだろう
「これがあのさりなちゃんの生まれ変わりとは信じ難い…」
「都合のいい時だけ先生面しないで、少なくともうじうじしてる間はダメお兄ちゃんだよ」
相談相手として有馬は論外、監督は頼りにならない、ミヤコさんもこれ以上胃を痛めさせるわけにはいかない
というわけでルビーを当たってみたのだが、思いっきり叩きのめされてしまった
食卓に突っ伏していると、頭上から死ぬほど冷めた溜め息が聞こえる。
「一区切りついてからいよいよクールキャラを維持できなくなったお兄ちゃんにアドバイスしてあげるけど、あかねさんが『アクアさん』って呼んだのって最後だけなんだよね?」
「あぁ、まあな」
「その直前に失言は?」
「いや、名前を呼びかけただけで…」
「うーん…」
ルビーはしばらく両手を頭に当てて考え込んだ後、口を開く
「多分なんだけど、まだお兄ちゃんが思ってるよりチャンスはあると思うよ」
いきなり希望的な観測が出てきた。飛びつきたくなる気持ちをグッと堪え、続きを待つ
「思わぬ地雷を踏んじゃったって可能性もゼロじゃないけど…あかねさんは『区切り』を付けたがってるんだと思う」
「『区切り』…」
「そう、お兄ちゃんとの関係性を友達、あるいはそれ以下として定義し直すために、敢えてわざわざ呼び方を変えたんじゃないかなーって」
「全然ダメじゃねーか」
チャンスがあるとは何だったのか
「違うよー。さっきも念押ししたけど、元々お兄ちゃんとあかねさんの関係ってとっくにその状態に戻ってるの。別れて半年以上経ってるんだからさ」
そう言って、ルビーは結論を伝えてくる
「なのにわざわざ切り替えるってことは、『関係性を変えなきゃいけない』って、自分に言い聞かせてるんだと思うなー」