照井竜と照内イサム(達磨)のSS

照井竜と照内イサム(達磨)のSS


(照内イサムは『平成ライダー知らない俺が妄想で語るスレ』に登場する幻覚キャラです) 

(猥談スレで生まれた、照井と四肢欠損イサムの共依存概念に基づいたSSです)


 照井竜の家に居候ができた。

 別世界とかパラレルワールドとかSFじみた噂を引っ提げて現れた別組織の青年。職業・仮面ライダー(自称)、照内イサムである。年齢はまだ二十歳と若々しいが顔立ちは自分にそっくりだ。照井をもう少し若く細身にしたような青年だと真倉が言っていた。

 そんなイサムの四肢が仮面ライダーシステムによって形成された義肢であることは、今のところ照井しか知らない。彼は指先まで覆うオーバーサイズのパーカーを着て、人体には無い色の義肢を隠している。雑な隠し方ではあるが、もっともっと大きな問題が目立ちすぎて、真倉も刃野も服装など話題にさえしなかった。

 イサムはキャリーケースに生活用品を詰め込んで現れ、捜査協力の間は超常犯罪捜査課本部の空きスペースで寝泊まりすると宣言した。ホテル代を経費で落とし続けることも覚悟していた刃野は二つ返事でこれを承諾。だが二日後、イサムがカップラーメン(毎食ラーメンならまだしも二日間で一つだけ)しか食べていないと発覚し、書類整理の徹夜も相まってキレた照井は、抵抗するイサムを自宅に連れ帰ったのである。

 しかしイサムは案外尽くす性分らしく、食べる人がいるならと自主的に料理を始めた。元々技術はあったらしい。

 そんなわけで照井は今朝も、青い義肢から渡された皿を受け取った。

 エプロンのまま隣に座ったイサムは雛鳥のように口を開けて、目玉焼きがいい、とねだる。義肢を動かし続けるのは常に変身しているようなもので、消費が大きい。戦闘が主な任務のイサムとしては、いざというときのため温存しておきたいそうだ。だから彼に食事を運んでやるのは合理的な判断。決して甘やかしているわけではない。照井は何十回目かのエクスキューズを脳内で捏ね回して、小さく切った目玉焼きをイサムに食べさせてやった。

 戦闘で体力を使い果たせばバイクに乗せて帰る。

 姉を喪った日の記憶にうなされていれば、悲鳴が収まるまで隣で寝ている。

 いきなり死者の名を使い始めても──彼は非常に不安定で、姉が死んだ事実を忘れるため姉のふりをするときがある──「ノゾム」と呼んでやる。

 出張先でこんな生活をさせてしまって、帰ってからどうするのだろうと思うときはあるのだが。

 彼と目が合うたび、胸の奥が焦げ付くような不快感を覚えつつも、彼の世話を焼くことをやめられない。


 風都署の照井さんに恋人ができた。いや親戚だ、顔がそっくりだから。女の人と歩いていたのを見た。自分は若い男だと聞いた。

 都市伝説に事欠かない風都が新たな噂で盛り上がっている。

 鳴海探偵事務所にも「どうなんですか」と聞きにくる女子たちがいたけれど、三人は曖昧な答えしか返せなかったので、やはり謎は謎のままだ。

 あれは「恋愛」には見えないね、と本を携えた少年。

 守られるだけが依存じゃないよな、とハードボイルドな声音の探偵。

 一線を越える前に止めようというのが三人の約束だが、そんな日は来ないだろうということを、朗らかな所長はなんとなく感じていた。

 


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