無題2
衣擦れの音が聞こえたのだろう。虎杖は慌てたように「待って、俺も」と上体を起こす。
日車が制止するより早く、視界を奪われているとは思えない動きで、ぽいぽいと景気よく衣服が取り払われていく。
そうして現れた、年齢にそぐわぬ筋肉質な身体は、しかし大人のそれとは全く違う。隠しきれない瑞々しさが、あちこちから溢れ出ていた。
吸い寄せられるように眺めていると、少年はもじもじと身じろいだ。
「……あんま見るなよ」
「わかるのか?」
「人の視線って意外と感じねえ?」
話しながら乱雑に畳まれた衣類を、男はさっと取り上げる。
「シワになるぞ。こちらに置いておく」
「あ、え」
おそらく取り返そうとしたのだろう、困惑の声とともに伸ばされた手は一瞬遅れ、つい先程まで服があった場所のシーツをひっかいた。
「……ありがとう」
やがて、諦めたように手を戻す。目隠しを外せば簡単に奪えるものを、律儀にそのままでいるのが健気だった。
二人分の服を綺麗に畳み、サイドテーブルに置いて戻れば、思い詰めたように俯く子供の横顔が待っていた。
「あのさ……俺も調べただけだけど、下の方が大変なんだろ? やっぱ俺の方に突っ込めば」
「君も人のことは言えないな。俺が先、君が後。そう決めただろう」
つとめて淡々と返しながら、ベッドに乗り上げる。
「挿入される側の感覚がわかっていれば、こちらが逆の立場になった時、君の負担を配慮して動ける。この話も納得してもらえたと思ったが」
「でもそれじゃ、」
「いいんだ、気にするな」
肩を軽く押せば、しっかりした体幹に跳ね返される。もう一度、より強く押し込めば、虎杖は渋々ながらおとなしく倒れ込んだ。
少年期と青年期の間を生きる、一糸纏わぬ裸体を、目を覆う黒い布だけが彩っている。背徳の光景と、それに兆し始めている自分自身に目眩がして、思わず口元へ手をやった。
(児童福祉法 第一章第一条)
男の記憶が、無意識的にその一文をなぞった。
(全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する)
無機質な条文が、日車の良心に鋭く牙を突き立てる。捨て去ったと思っていたモノがまだ自分の中に残っていることに、自嘲の笑みが浮かんだ。
喉元までせり上がってきた苦い酸を、目の前の子供に気取られぬうちに飲み込む。ひどい罪悪の味がした。
「日車?」
「……大丈夫だ、続けるぞ」
腹筋の下へ視線を走らせれば、先程より少し萎えた性器が映る。このうえなく尊いものへ触れるように、そうっと手の中へ包み込めば、「ひぇっ」と裏返った声が漏れた。
「どうした」
「や、びっくりしただけ」
ならば良かった、と安堵する。他人の男根に触れるのは初めてのことだったが、自分で触る感覚を思い出しながらやわやわと上下させると、たちまち快感をにじませる吐息が頭上から聞こえてきた。
「痛くはないか?」
「へい、き、だけど、ン、やめ、ぁ」
「悪いが、それは聞けないな」
裏筋を辿り、睾丸をすくい上げるように愛撫すれば、両腿がびくびくと震える。
先端をくすぐるように撫で回せば、尿道口がぱくぱくと開閉しながら先走りを溢れさせる。
指で輪を作り、我慢汁を広げるように竿を滑らせれば、腰が宙へ向けて何度も突き上がった。
丁寧に高みへと至らしめる動きは、どれもこれも気持ちがいい。一時的に視界を奪われた虎杖の頭は、すべての刺激に対して感度を上げていた。
それを知ってか知らずか、日車の空いた片手が子供の肌を滑る。腰骨から脇腹を辿り、胸の頂きへ。半ば埋もれている飾りを爪でかりかりと刺激されれば、甘い痺れが腰を襲った。
「やだ、やめろ、それいらない……っ」
「嫌だったか」
「……ぅ、」
(何の羞恥プレイだよこれ!)
口ごもる虎杖の反応を肯定と捉えたのか、胸を弄る手はあっさりと引いていく。ほっとしたのも束の間、勃ち上がったままの性器を握り直されて思わず息を詰めた。
「少し強くしてもいいか」
「……いい、けど……ァッ」
気持ち強めに扱き上げられながら、先端をくじるように撫で回されると、もう堪らなかった。
(あ 出る でる で るっ)
一度目の射精。反り返った陽根からぱたぱたと白濁が飛び散り、腹筋の上へ落ちていく。
絞り出されるようにとろとろと溢れた残りの精液が、日車の手を濡らした。