無題
スレッタは高い木の上にある巣に連れてこられました。
ファラクトの巣は木の上や岩壁の横穴など、他のメカぐるみが近づけない高所に作られます。そうすることで外敵の侵入を防げるうえに、攫ってきた獲物や番の脱走を防げるようになっているのです。
巣といってもこの群れの巣はツリーハウスのような造りでかなり豪華な見た目をしています。と、巣の中から二体のファラクトと瓜二つの姿が出てきました。ピカピカの装甲に外の光を浴びて眩しそうに細められた目、あれは原種でしょう。
「縺薙�螽倥�菫ョ逅��シ繧薙□繧�」
5号種は抱きかかえていたスレッタを原種に渡して、何かを伝えています。原種は面倒そうな様子ですが、巣の中に入って何やら作業を始めました。
どうやら修理をしようとしているのか、寝台に寝かせたスレッタをあれこれと診ています。5号種は心配そうに4号種は退屈そうに様子を見守っています。
しばらく診察が続いて内部に異常がなかったようで、原種はスレッタにエネルギーを分け与えるだけで修理は終わりました。メカぐるみの装甲は修理ですぐに直すことも出来ますが、時間が経てば自己修復で徐々に直るのです。コアが残っていてエネルギー切れになっていなければ大抵の傷は直ります。
装甲が少し直ってきた頃、スレッタはまだここの暮らしに慣れていないようです。見回りに出掛けようとしている5号種に縋りついて止めようとしています。原種のことが怖いのでしょう。
最初に助けられたのもあって5号種には懐いているのですが、4号種のことはとても警戒していて姿を見かければ即座に何かの影に隠れてしまうのでした。4号種と姿がそっくりな原種もスレッタは警戒して怖がっているのです。
しかしスレッタが懇願しても5号種は4号種とともに飛び立って、原種と二人っきりで巣に残されてしまいました。
スレッタは原種からなるべく距離を取ろうと対角線上の隅っこに縮こまって様子を窺っています。原種はスレッタのことは気にせずにガチャガチャと何かの作業を始めました。
カチャカチャ、カチカチ、と機械を弄る音のみが沈黙が落ちる巣に響いています。警戒はしていても原種が何をしているのかは気になる様子のスレッタ、チラチラと作業の様子を盗み見ようとしています。でも距離が遠くてよく分からないようですね。
おや、隅っこで目立たないように縮こまっていたのに立ち上がりました。とてとてと作業をしている原種に近づいていきます。
後ろから様子を見ていますが、視線に気付いた原種に見つかってしまいました。ぴゃっと飛び上がって驚くスレッタ、それでも勇気を出して踏みとどまります。
何をしているのか聞いているのでしょうか、原種に何事か話しかけています。原種もそれに答えてあれこれと教えているようです。それから今の作業を中断して別の物を作り出しました。
暫く待っていると二挺のビームライフルが出来上がりました。引き金を引いてもビームは出ないのでおもちゃの銃のようですが、貰ったスレッタは大喜びです。
それから原種への警戒心は無くなり、打ち解けられたみたいです。
装甲がほどほどに直ってきた頃、スレッタは5号種に甘えて鳴いています。お腹が空いて餌をねだっているようです。5号種は袋から黄色い果物を取り出して皮を剥いて、口を開けてねだっているスレッタに与えました。スレッタはもぐもぐと咀嚼して飲みこんだら、また口を開けて待っています。
メカぐるみは有機物、無機物問わず取り込んで養分やエネルギーに出来ます。装甲の生成には金属元素が重要でメカぐるみの装甲が適していますが、幼体のスレッタはあまり食べられないので他のものを与えています。
食事はスレッタが満足するまで続いて、満腹になってから元気いっぱいに遊び始めました。
装甲がほぼ直ってきた頃、スレッタは相変わらず4号種に怯えています。4号種は5号種にも原種にも懐いているのに自分だけ怯えられているのが面白くないのか、プレゼントで気を引こうとしています。
怯えて物陰に隠れて様子を窺っているスレッタの前にごとりとプレゼントを置きました。それはマゼンタ色をしていて先端が幾本かに分かれた立派な角、グエルディランザのブレードアンテナです。
ちなみに八つ当たりでディランザを襲う4号種ですが、ディランザの中でも順位があるようでグエルディランザを狩れるものは一目置かれるようです。
4号種は受け取らないのかじっと見つめていましたが、スレッタは更に怯えてしまい腑に落ちない様子です。
今度は真っ赤な一本角、ダリルバルデのブレードアンテナを置きました。補足するとダリルバルデは下手すれば返り討ちにあう相手なので、これを狩れるものは優秀な個体の証明になります。
スレッタはぴぃっ!と悲鳴を上げて震えあがっています。流石に逆効果だと分かったのか黒い宝石のようなものを置きました。
ピカピカと光る宝石にスレッタは目を丸くしています。許可を取るように4号種を見つめるスレッタに4号種は頷きました。スレッタは光にかざしたり手の中で転がしたりして遊んでいます。嬉しそうな様子に4号種も満足そうです。
それ以降、突然近づいたり話しかけたりしない限り、怯えられたり物陰に隠れられることはなくなりました。
~特別意訳~
これはメカぐるみ視点で進む話です。
巣の中で交換用の装甲を弄っていると、ブースターを噴かす音が聞こえてきた。あいつらが帰ってきたのだろう。出迎えてやるかと腰を上げて巣の外に出る。眩しさに目を細めていると、突然5号が何かを押し付けてきた。
「この娘の修理頼んだよ」
無理矢理押し付けられる形で抱きかかえさせられたものを見ると、エアリアルのメスの幼体のようだ。また面倒な拾い物を……と顔に出しても、5号は意に介さずにさっさと巣の中に入ってしまった。4号はあまり興味が無さそうだ。
どうしようもないのならバラしてしまえばいいかと思い直して、修理を始めることにした。
すやすやと眠るエアリアルを観察する。装甲は所々ひしゃげたり砕けたりひびが入っているところはあるが、その下の内装の部分に特に問題は無さそうだ。
エアリアル用の装甲などここには勿論置いていないし、自己修復に任せてエネルギーを直接流し込むだけで終わった。
エネルギーを流し込んでから暫くして、エアリアルの幼体が目覚めて名前を聞けば”スレッタ”と名乗ったので、スレッタと呼ぶことにした。
それから少し経って、スレッタは5号の足に縋りついて駄々をこねている。
「やだ!いっちゃいやです!」
「絶対帰ってくるから、ね?いい子で待ってて」
「早くいくよ」
4号がスレッタを一瞥して急かすと涙目で怯えたスレッタはサッと離れた。
「お前らがいると落ち着いて武装を作れないからさっさと行ってこい」
その隙に4号と5号を追い出すと悪態をつきながら飛んでいった。いつも一言余計なんだ。
うるさい奴らもいなくなったことだし作業を再開する、4号の無茶ブリには困ったものだ。遠くから様子を窺ってくるチビはいるが気にしないことにした。
黙々と大型のビームライフルを弄っていると背後から視線を感じる。警戒しながらこちらを窺う視線に一体何だと振り返ればチビがいた。
「ひいぃ!」
悲鳴を上げてぴゃっと飛び上がったが、震える足で踏みとどまって逃げ出す気配がない。
「な、ななな、なにしてるんですか?」
「ロングビームライフル、ビームアルケビュースの改良をしてるんだよ」
何をやっているのかはっきりと答えたが、スレッタはよく分かっていない様子だ。少し手を止めて説明をしてやる。
「ビームアルケビュースは4号がいつも持ってる武器だ。あのデカいやつな」
「4号って……あの、怖いヒト……」
4号のことを思い浮かべてかスレッタは身震いしている。最初はバラして食うつもりだったのかマジで殺しにかかったと聞いた。怯えようを見てよく分かる。
「その怖いやつがダリルバルデの装甲もぶち貫ける武器をくれってうるさいんだよ」
「だりるばるで?」
幼体のスレッタは他のメカぐるみの種族について詳しくないらしい。もしかすると自分の種族も分かってないのかもしれない……がそれはそれで好都合かと思い直した。
「ダリルバルデってのは、真っ赤な一本角で足とか腕とか飛ばしてきて硬い装甲のおっかねえやつだよ」
「どれくらいかたいんですか?」
「そうだな……今の俺らの手持ちの武器だと何発か同じところに当てないと装甲を壊せないくらいには硬いな。それを一発で貫けるようにしろって言うんだから、滅茶苦茶だ」
スレッタはぽけーと話を聞いていて半分も理解出来てなさそうだ。とりあえず4号のやつが無茶ブリしたと分かればいい。
また作業に戻ってもスレッタは離れることなく様子を見つめてくる。ここらで気分転換も兼ねてスレッタの好感度を稼いでおくのもいいかと思った。5号と同じ発想、行動をしている気がするのは少し癇に障るが。
ビームアルケビュースは一旦置いておいて、予備として作っていたが仕上げていなかったビームカリヴァを取り出す。少し弄ってやればビームなど出ないおもちゃの銃の完成だろう。
興味津々なスレッタが見守るなか、ビームを射出する機構を取り外してから組み立てて完成だ。
「お前にやるよ。ビームカリヴァ、5号が使ってる武器と同じ型だ」
「わあ……!がったい!がったいするんですか!?」
受け取ったスレッタは目を輝かせている。確かこうやってたよな……と思い出しながら、合体の手順を説明するとスレッタはガチャガチャと合体と分離を繰り返して遊びだした。
やっぱりおもちゃとしてはビームカリヴァの方がいいな、ギミックがあって楽しいし、と考えているとスレッタがギュッと抱きついてきた。
「えへへ、ありがとうございます!」
どうやら4号に似た姿のなんか怖いヒトからは脱却出来たらしい。
帰ってきた5号が距離感の縮まりに驚いたのは言うまでもない。
「おなかへりました!」
スレッタが甘えた声で餌をねだってくる。袋から摘んできた黄色い果物を取り出す。僕らは飛べるから高いところに生っている果物や木の実も簡単に採れるのだ。
スレッタは果物を差し出しても受け取ろうとせずに、口を開けて待っている。どうやら甘えたい気分らしい。
「しょうがないなぁ」
口ではそう言って笑いつつ果物を剥いて、実の一つをスレッタの口に入れた。
「おいしい?」
「おいしいです」
目をキラキラとさせて答えたスレッタはまた口を開けた。微笑みながらまた実を食べさせてあげると、幸せそうな表情で頬張った。
「いっぱい食べて大きくなってね……」
僕のためにも、とは口に出さないでおいた。
しばらく果物を食べさせてもらって満足したスレッタは遊び始めた。お気に入りのおもちゃはビームカリヴァと同じ型のおもちゃの銃だ。
一緒に遊んであげていると、恨めしさと羨ましさが入り混じった視線を感じた。どうせ4号が見ているのだろうけど、第一印象が重要なのにマイナスの方向に強烈な印象残したらねえ……自業自得だよね。
4号は怯えて物陰に隠れているスレッタにじりじりと近寄っていた。
傍から見ると奇怪な行動だが理由はある。未だに自分だけスレッタに怖がられているのが面白くないのだ。
最初は正直言って怯えられても怖がられてもどうでもよかったが、オリジナルにまで懐くし、5号やオリジナルに甘える姿を見ていると羨ましくなった。
笑いかけられたり甘えられたいのに、返ってくるものといえば悲鳴だけで、それを変えたくて今に至る。
一定の距離は開けたままで、スレッタの目の前にプレゼントを置く。マゼンタ色のグエルディランザのブレードアンテナだ。
「な、なんですか……これ」
「グエルディランザのブレードアンテナ」
「い、いやです……」
「何故?」
本気で意味が分からなかった。どうして?グエルディランザのブレードアンテナだぞ。
説明しよう!何故4号が腑に落ちないのか。稀によくディランザを襲う4号だが、ディランザごとに点数をつけて襲っているのだ。逃げ惑うディランザは1点、立ち向かってくるディランザは5点、ラウダディランザは10点、グエルディランザは20点という具合に。グエルディランザのブレードアンテナは4号の中では価値のあるお宝なのだ。
じゃあこれはどうだと真っ赤なブレードアンテナを置いた。
「こ、これ……もしかして、ダリルバルデ……」
「うん、ダリルバルデのブレードアンテナ」
「ぴぃっ!や、やだ……こわいです!」
「えぇ……」
グエルディランザが20点ならダリルバルデは100点なのに……
よく分からないけど、この娘にはこれの価値は分からないらしい。仕方ないので代わりにピカピカに磨いて宝石のようになった装甲を置いた。
「これ、きれいです」
夜空を切り取った色をした丸く磨かれた装甲を興味深そうに眺めている。何故かブレードアンテナと違って好感触だ。
「これはファラクトの装甲を磨いたものだよ」
「え!そうなんですか?……あ、あの、触って、いいですか?」
スレッタが恐る恐る聞いてきたので黙って頷くと、光にかざして観察したり手の中でコロコロと転がして見つめたりしている。
黒光りする装甲は内部に入った傷や不純物が光を反射して星のように見える。ファラクトの装甲としか言ってないので、5号かオリジナルを思い浮かべているのだろうが、実のところあれは僕の古くなった装甲から作ったものだ。別に言うつもりはないが、嬉しそうにしているスレッタを見てると満たされた気分になった。
これがきっかけで過剰に怯えられることは無くなって4号の八つ当たりの頻度は減ったという。