無題

無題


ここはメカぐるみと呼ばれる不思議な生き物が暮らす星。装甲のような金属の外殻を身にまとった姿をした彼らは、どれも個性豊かな姿をしています。今日はそんな彼らの生活を覗いてみましょう。


きゅーきゅー、と寂しそうな鳴き声が聞こえてきました。どうやらエアリアルの幼体が群れからはぐれてしまったようです。

メカぐるみエアリアルは白い装甲に包まれた姿で、成体になるとガンビットと呼ばれる器官を飛ばせるようになります。通常は家族単位の小さな群れで暮らしているのですが、群れからはぐれた個体がどうなるかスレッタと名前をつけて観察していきましょう。

はぐれた仲間に位置を伝えようと、か細い声で鳴きながらぽてぽてと歩き続けるスレッタ。しかし耐えられなくなったのか、立ち止まって泣き出してしまいました。隠れる場所がない野原の真ん中で泣いていたら、格好の餌食となってしまうかもしれません……

突然キーンと甲高い風を切る音が聞こえました。スレッタも涙目で空を見上げると黒い影が二体、上空を飛んでいます。

あれはメカぐるみファラクト、メカぐるみの中でも珍しい重力下での自由飛行が可能な種族です。普通は2~6体の群れを作って暮らすファラクトは大まかに分けて原種と2つの亜種が存在します。

原種は高い知能を持つ代わりに運動性能はそれなりになっています。亜種のファラクトの修復を担当していることが多いため、基本的に巣に籠っていて外で見かける機会は少ない希少な存在です。

4号種は原種から戦闘に特化して派生した亜種で、高い運動性能と戦闘力を有しています。ガンビットを扱うことも出来るようになって、相手を拘束するガンビットで行動の自由を奪って仕留める戦い方をします。

一見、大人しそうな印象に反して性質は荒く好戦的な面があります。気が立っていると八つ当たりで多くのメカぐるみディランザの四肢とブレードアンテナが犠牲になってしまいます。

5号種は生存重視に派生した亜種で、ガンビットは完全に退化して名残を残すのみで使えなくなっています。代わりに基礎性能は4号種より高くなっているようで、連携する際は5号種が相手を追い立てる姿をよく見かけます。

外見は4号種とそっくりですが、無益な争いは好まない平和主義者です。追い詰められない限りは温厚な性質をしています。


黒い影の一体がスレッタに狙いを定めて急降下してきます。気付いたスレッタはトコトコと走って逃げようとしますが、到底間に合いません。急降下の加速を乗せて思いっきり蹴り飛ばされたスレッタは勢いよく吹っ飛んで、地面に叩きつけられる前に空中で掴まれて空に連れ去られてしまいます。

スレッタの頭を鷲掴みにして、青い尾を引きながらぐんぐんと上昇するファラクトは4号種のようです。鳴き声が悲痛な叫び声に変わって泣きわめいても4号種は意に介しません。

元と同じ高度に達すると鷲掴みにしていたスレッタを急に放してしまいました。飛ぶことのできないスレッタは為す術もなく落下するのみです。突然の4号種の行動にもう1つの影が慌てて近づいてきました。こちらは5号種のようです。

何事か4号種に訴えかけているようですが、4号種は適当に聞き流しています。そうこうしている間にもスレッタの落下速度は増して地面に近づいています。

聞く耳を持たない4号種を置いて、5号種は落ちていくスレッタ目掛けて肩部のブースターをたたんで弾丸のように飛んでいきます。ブースターの青い輝きが尾を引いてスレッタとの距離が縮まっていき、速度を合わせながら地面に衝突する寸前にスレッタを抱きとめました。


ピーピーと胸に縋って泣くスレッタを降ろすことなく、そのまま飛んでいく5号種。どうやら巣に持ち帰るつもりのようです。

今回はここまで、次回はファラクトの巣からお届けします。


~特別意訳~

これはメカぐるみ視点で進む話です。


地上を見下ろしながら巡航速度で上空を飛ぶ。代わり映えのしない野原が流れては視界の端から消えていく。

「4号、特に異常は見つからなかったし帰ろうか」

退屈そうな5号があくびを堪えながら話しかけてくる。縄張りの見回りは特に問題なく終わりそうだ。黒い装甲が風を切る音を聞きながら思っていると、小さな白い何かが視界に映り込んだ。

白い何かにピントを合わせると、それはエアリアルの幼体であることが確認できた。周囲を気にせずに泣きじゃくっている姿には警戒心というものがない。幼体故にパーツをそのまま使うことは無理だろうが、コアをはじめとした内装系であれば流用も効くだろう。

「何か見つけたの?」

一点を注視する4号に相変わらず退屈そうな5号が声をかけてくる。

エアリアルの幼体を仕留めることに決めて、5号の呼びかけを無視して地上へと飛んだ。飛ぶといってもほぼ落下しているようなものだ。重力に従って速度を増しながら空を落ちていく。

天から地へと空を裂き大気が金切り声を上げる。警戒心皆無で泣きじゃくっていたエアリアルの幼体も流石に気付いたのか逃げ出し始めた。だが、止まって見えるほどに遅い。

軌道計算なんて片手間でも出来そうだが、一応白い姿を常に視界に捉えながら、接触する寸前に頭を下に向けていた姿勢を起こして、落下による加速を乗せて思いっ切り蹴り飛ばした。

蹴られた箇所の装甲は砕け、衝撃が伝わった他の装甲も割れたりひびが入りながら、白い欠片を散らして吹っ飛んでいく。しかし幼体でも割と頑丈なのか蹴りを食らってもまだ息がある。確実に息の根を止めるために吹っ飛んでいく幼体に向けて飛び、空中で頭を掴んでそのまま上昇する。

「うええぇぇん!!やだ!たすけて!」

来ない助けを求める、あるいはこれから自分を殺そうとしている相手に助けを求めているのか、いずれにしても哀れではあるが獲物にかける慈悲はない。肩部と背面のブースターから青い光を噴き上げながら上昇していくと、すぐに元の高度に戻ってきた。

相変わらずけたたましく泣きじゃくる幼体の頭を放すと、絶叫と共に地面に吸い寄せられるように落ちていく。空中でもがいているようだが、飛行能力のないアレにはどうすることも出来ずに重力に引かれて加速するのみだ。

「いきなり何やってるんだい!」

一瞬の出来事に茫然としていた5号が慌てて近づいてきた。見れば分かるのに何かにつけて鬱陶しい。

「何って、仕留めようと思った」

「他にやりようがあるだろ!」

「知らない」

適当に返事をしていると5号は落下する幼体を追って、弾丸のように空を落ちていった。


落ちる、落ちる。高空から重力に従い落下する。距離が離れた白い幼体に追いつくためにブースターを噴かせて更に加速する。

抵抗を減らすために装甲を体に沿わせるように折りたたむ。それでも責め立てるように強風が吹きつけ、甲高い風切り音を響かせる。

風切り音に混ざって叫び声も近くに聞こえてきた。白い姿が手を伸ばせば届くくらい近くなった。こちらを見て悲鳴を上げた幼体を追い抜いて、下に回り込んだ。

落ちてくる幼体を衝撃とともに受け止めて、地表に衝突する前に空に舞い上がる。

「ふええぇぇ!こわいよぉ!いたいよ!」

「よしよし、大丈夫だよ」

火が付いたように泣き出したのを宥めるためにギュっと抱きしめると、ひっく、ひっくとしゃくり上げるだけに抑えられた。

「どうして助けたの?」

4号が合流して近づいてきた。心底どうしてこんなことをしたのか分かっていないという顔をしている。

「この娘、見たところメス型だろ。コアを取る以外にやりようはたくさんあるってこと」

「ふーん……」

4号はあまり興味がなさそうな様子だ。なら独り占めしてしまってもいいか、と考えながら巣に向けて巡航速度で飛んでいく。エアリアルの幼体はいつの間にかスヤスヤと寝息をたてながら寝てしまった。

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