『惜』

『惜』



「フー…フーッ……!!」


今まで感じたことのないような痛みに蹲る。

体を動かすこともできず、膝をついて痛みに泣くしかできない。


手を伸ばしてくれた。

あれだけ痛めつけてもなお、ルフィは手をつかもうとしてくれた。

私の新時代を真っ向から違うと言ってなお、救いの手を差し伸べてくれた。

その手を取りたくなってしまった。

そうして伸ばした私の左手は、直後に飲み込もうと上がってきた闇に消えた。


四方からの罵りすら見る余裕もなく左腕を見る。

そこにあるはずの肘から先はない。

トットムジカの中のおかげか血はほとんど出ていないが、痛みはしっかりと感じてしまう。

痛みにのたうち回りたくても、私の右手はしっかり魔王の闇に縛られてしまっている。


自業自得なのだろうか。

自分で取り返しのつかないことをして、一度エレジアを滅ぼしたこれを再び呼んでおいて。

それでもあの手を取ろうとした罰なのだろうか。

『これ以上罪を背負わせないためだ、おれ達の娘に!』

…ベックさん。


『頼むルフィ君!これ以上はあの子が不憫だ…ウタを救ってくれ!』

……ゴードンさん。


『…当たり前だろ…!』

……ルフィ。


『野郎ども!気合い入れろォ!』

………シャンクス。


みんなが、頑張っている。

ファンの皆ために、世界のために……私の、ために。


「…ウッ…グゥ!」

右腕のそれを千切ろうと思い切り引っ張る。

みんなが頑張っているのに、私だけここに蹲ってていいはずはない。

私は赤髪海賊団の音楽家なんだ。

…私だって海賊なんだ。

遊び半分なんかじゃないところを見せてやる。


「………。」

一か八かの祈りが通じたのか、あの槍が出てくる。

そのままその切っ先を、繋がれた右腕に向けた。


「…あんたを読んだのは私だもんね……せめてこれだけは残していくよ。」

そう、目も合わせられぬ魔王に微笑んで…槍を勢いよく落とした。

「ァ…ア゙ア゙…ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

体から離れた右腕が地に落ちる。

喉から自分の声とは思えないそれが出る。

左腕に続いて、とうとう右腕も失った。

…もう新曲は書けないかな、なんて呑気な考えが浮かぶ。


今は我慢の時だ。

早く出ないと、次また囚われたら終わりだろう。

闇の中を駆けていく。

両腕を失って何度もバランスを崩しそうになるのを堪える。

そのまま走り続け…後ろから闇が迫る前に、魔王の外に飛び出した。


宙に飛び出した体が、そのまま下に落ちていく。

暗くなる視界の端で、魔王が苦しむのが見えた。

能力者の私を失って実体が保てないのだろう。

…腕から温かいものが流れ落ちるのを感じる。

このまま生命の源が流れ続ければ、私は死ぬのだろうか。

そんなことを考えながら、意識が沈んでいく。


完全に意識が消える間際、誰かの温もりを感じた気がした。

Report Page