女ヶ島編おまけ1
「のう。」
男子禁制の島、女ヶ島。その島で今、ルフィは宴、正確に言えば歓迎会に参加していた。海兵の制服を脱ぎ女物ではあるが渡された衣服に身を包んだルフィは警戒する住民達の心をあっという間に引き寄せ、彼の周りには人だかりが出来ていた。そんなルフィをみてハンコックは妹達に話しかける。
「あやつは誰じゃ?」
ルフィは先程まで敵対状態にあった。なんなら殺し合いをしていたと言っても良い。ハンコックの美貌に目を奪われずにただ、静かに、冷たく冷えた表情と荒れ狂う炎のような苛烈な攻撃をするルフィをハンコックは見ていた。海軍本部の大佐としてこちらに接するのも見ていた。故に今、こうして輪の中心で鼻と口に箸を入れ謎の踊りをしている青年に困惑する。
「案外、あれが彼の素の性格ニャニョかもしれニャいですじゃ。」
ハンコックの問いに隣に来たニョン婆が答える。海軍将校として勤めを果たすルフィ。ハンコックは1人の人間として覇王の素質を持ちながら頭を下げる事を知ってるルフィを見た。そして今、それらとは全く違うルフィを見ている。ハンコックは海賊だ。男など幾らでも見てきたし奇怪な動物も多量に見てきた。だが、このような生き物は見た事がなかった。故に少し観察してみたくなった。
「小僧。明日は丸一日闘技台の復旧と近辺の整備を手伝え。早ければその日の夜には軍艦に帰れるであろう。」
「おう!わかった!」
遠くで人間ではないかのように腹を膨らませ、その上に島民を乗せて遊ばせている男に声をかける。帰ってきた返事はとても軽いものだったが気にしない事にした。そしてハンコックは静かに心の中で島民に男に関する講義を開こうと決めた。
「ルフィ!こっちお願い!」
「こっちに木材持ってきて!!」
「こっちに石材お願い!!」
「ここに柱刺しといて!」
「ちょっと測量するから腕伸ばして!」
翌日、早朝から叩き起こされたルフィは女ヶ島の中を縦横無尽に走り回っていた。と言ってもルフィに建築センスなんてものは無い。よってできるのは重い物を運ぶぐらいだ。たまに採石場や森に行き嵐脚を使い石材や木材を取り、それを加工場に持って行き出来た建材を現場に運ぶ。ゴムゴムのロケットを使えば短縮は出来るが制御が効かない可能性もあるので剃や月歩を使うぐらいだ。
「これ、ここ置いとくな。」
「ありがとうルフィ。少し休憩したら?無理して倒れられたらこっちが困っちゃう。」
「おう。わかった。ありがとう。」
ある程度建材を運び終わった所でマーガレットに声をかけられルフィは休憩をする。近場の椅子に腰掛けあっという間に建物が立っていく様子をルフィは圧巻の表情で眺めていた。
「どう?凄いでしょ?」
「ああ、すっげェ。」
差し出された水を飲みながらマーガレットと会話をする。ルフィは国の明るさと仲の良さ、そして作業の速さと正確さを誉め、マーガレットはそれを受け止めここまで手早く出来てるのはルフィが重い物を殆ど運んでくれてるからだと言う。5分ほど休み、ルフィがまた作業に戻ろうとした時に事件は起きた。
「おぬし!今すぐ九蛇城にこい!」
突然現れたニョン婆がルフィに言う。その危機迫る表情に何かあったのかとルフィはニョン婆をかかえ、九蛇城に走り出した。
「にしても"恋煩い"で死ぬなんて変な島だなァ〜」
「おぬし達には分かりにくい感覚かもしねニュがこの島は女しかおらん。故に恋の病いは命に関わるニョじゃ。」
「つまり不思議病って事だな。」
そんな事を話しながら九蛇城に着いた2人は案内を受けハンコックの寝室へと向かう。これはニョン婆に取っても賭けであった。恋煩いは通常この島では治す事の出来ない病いだ。治すには島を出て自らの心に決まる男を探さなければならない。しかし、ハンコックはその性質故か抑えてた物が大きすぎて今すぐにでも見つけないと命に関わる状態だった。そして、この島には男は今ただ1人。この若い海兵がハンコックの心を射止めなければ女ヶ島はハンコックを失い危機に立たされることになる。ハンコックの寝室まで案内された2人は静かに扉を開けその部屋に入った。
「モモンガ中将!!来ました!九蛇の船です!ルフィ大佐も無事です!!」
その日の夜、見張りに立たせておいた部下の声でモモンガ中将は目を覚ます。モモンガ中将だけでは無い。この軍艦に乗ってる全ての海兵がその報告に目を開き甲板に出てくる。そして、それを見計らったかのように腕が伸びて来て軍艦のマストに巻き付いた。飛んでくる1人の人影。
「よーお前ら。無事でよかった!ニシシ。」
「「「ルフィ大佐〜〜!!」」」
甲板に着地したルフィ大佐はまるで何事もなかったかのように笑う。が、その後に周りから飛び込んできた海兵達にもみくちゃにされる。
「ルフィ大佐が帰って来たぞ〜!」
「宴だ〜〜!!」
「ごめんなさいルフィ大佐…おれ達が弱いばっかりに…」
「泣くなって。おれもこうして生きてるんだしよ。お前らが無事で良かった。」
「う゛お゛お゛お゛ん。ルフィ大佐〜。大佐を待ってる間にモモンガ中将が仕留めた海王類の肉を焼いた物です。どうぞ。」
「おう。ありがとな。」
ルフィ大佐はくっついてくる海兵達を器用に伸びる腕で全員抱きしめ受け取った肉を頬張る。その変わらない様子を見てモモンガ中将は笑みが溢れる。
「どうやら心配は必要なかったようだ。無事に帰って来てくれて嬉しく思う。」
「モモンガのおっちゃんにも迷惑かけたな。わりィ。」
「気にするな。」
自らが最も死地にあったと言うのにこちらを気にかけて謝罪するルフィ大佐にモモンガ中将も朗らかな笑顔で返す。
「ぬしら!わらわを無視するとは不敬であるぞ!」
唐突に響いたその声に軍艦にいた海兵達は静かになる。
「あ、わりィわりィ忘れてた。モモンガ中将!"海賊女帝"ボア・ハンコック召集に応じるとの事です。」
「その代わり条件がある。会議の間ルフィ大佐をわらわの護衛として側に置く事。送迎時にルフィ大佐を護衛としてこの船に乗せる事じゃ。」
そして続くルフィ大佐と海賊女帝の言葉に海兵達は驚きをあらわにする。だが、この後にとんでもない爆弾が待っていた。
「それは良いが…何故突然。」
「ああ、なんか惚れられたらしい。」
「「「ええええ〜〜〜〜!!!」」」
海兵達の驚きの声が夜の凪の海に響いた。その後、その後に反応して襲い掛かってくる海王類を仕留めたり驚きっぱなしの海兵を落ち着かせたり、細かい説明をするのに時間をかけた為、出航はすこし遅くなる事になった。