鬼の子トリオ

鬼の子トリオ


ーインペルダウンLevel6ー

 永遠の退屈を与えるこの地獄は今、何処からか侵入した1人のニューカマーにより退屈なんて言葉と最も離れた場所となった。その理由はただ1人の人間。

「ルフィ〜〜〜!!ウタ〜〜〜!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜!!」

 火拳のエースが撒き散らす覇王色の覇気が壁や檻をうつ。Level6に収容されるような凶悪犯ですらその半数がそれに当てられ気を失う。監視用の電伝虫ですら今はその機能を失っているだろう。

(なんでお前達が死ななきゃならなかった。なんでおれだけが生きてるんだ。なんで…なんで…なんで…)

 エースがその心中で反復する度に覇気は強くなり檻は軋む。そして…

ガキン!!

 その音は唐突に響いた。火拳のエースを拘束していた海楼石の鎖。それがエースの覇気と力に耐え切れずに砕け散ったのだ。怒りで動いていたエースはその勢いのまま床に投げ出される。その衝撃でエースの叫びが止まる。

(そうだ。この時代が悪いんだ。こんな時代を起こしたあのクソ親父が悪いんだ。)

 深い悲しみの中で昔聞いた話の意味をやっと理解する。こんな時代を作った男の息子なんて嫌われて当然だろう。今、エースの身を焦がしていた炎のような怒りは内側に向き、静まったLevel6を異様な雰囲気が包み込む。自らにつけられた手錠を外し完全な自由を手にする。静まった世界でエースは自らを包む視線の雨を認識する。狂気に歪んだその顔にはかつての火拳の面影は無い。その顔はもはや悪鬼だった。

「出してやる。好きに暴れろ。」

 その言葉と同時にLevel6を炎が包み込む。焼き尽くそう、この世界を。この時代を。親の罪は子の罪だ。それは皮肉だった。今まで親を否定する為に海賊をやってきた。おれはあいつと違うと証明する為に。大切な物を失って初めて親の血と向き合う。この時代はゴール・D・エースが終わらせる。大罪人の息子として。

 その日、絶望に包まれた世界にさらに追い討ちがかかる。『インペルダウン陥落、大炎上。主犯はあの逆賊ルフィの兄。火拳のエース!!』情報は瞬く間に世界に広まる。世界政府三大機関の一角の内側からの壊滅。凶悪犯の脱獄。

「なァ。どうしてあんたはおれについてきたんだ?」

「わからない。」

 その新聞を見ながらエースはただ1人の同船者に話しかける。そして、エースの問いに同船者は答える。

「何処に行く?」

「ワノクニ。迎えに行かなきゃならねェ奴がいる。」

 同船者の問いに今度はエースが答える。その背中にあった髑髏はもはやただの焼け跡に変わっていた。


「よォ。かわらねェな。ヤマト。」

「君はかわったね。エース。」

 ワノクニについたエースはヤマトと再会する。少ないやり取りをし、ヤマトのその枷を外す。口数の少ない同船者は一言も話そうとしない。ヤマトは変わってしまったエースの雰囲気を肌で感じ取っていた。まるで人が変わってしまったように歪んだエースの顔も。気配も。だから聞こうと思った。

「ねェエース。君は一体何をする気なんだい?」

「まずはマリージョアを襲撃してこの旗を刺す。」

 エースが見せた旗はASULの文字が入った旗。その旗の意味はきっとこの世界でもはやエースにしかわからないだろう。だからヤマトは言う。戻ってくれる事を信じて。たとえらしくなくても。

「復讐は何も生まないよ。エース。」

「復讐じゃねェ。宣戦布告だ。」

 ヤマトの言葉に対しエースは返す。そして徐にかつての兄妹達の夢を語っていく。全て崩れ落ちたもの。ただ、今の彼に残った物。今の彼を動かすのはいつかの肉親への恨みでも。いつかのオヤジの言葉でもなく、幼くして交わした約束のみ。この大海賊時代を焼き尽くす。その考えのみ。

「お互いに道は違うんだ。敵同士になってもどんな最期でも受け入れようと話してたんだ。だがよォ。これは違うだろ。」

 自由を求めた友はその羽を折られ神に焼かれた。平和と平等を願った妹は神に目をつけられその身を焦がした。守護を誓った弟は守る事も出来ずに灰となった。彼らは生まれを喜ばれた。生きてる事を望まれた。なのに生き残ったのは望まれなかった自身だけ。

「復讐なんざしねェ。あいつらはそんな事望んでねェ。その上でこのクソッタレな時代を終わらせる。クソ親父のせいで始まったこの時代を。」

 背後の2人に話しかける。ヤマトと、バレット。鬼の子と鬼の跡目。

「海賊王におれァなる。ついてくるか?地獄への片道切符だ。」

 ヤマトは何もいえなかった。その身の内にある怒りも狂気もヤマトには理解出来なかった。けれどもやりたい事ははっきりとわかった。だからだろう。

 バレットは未だになぜこの青年について行こうと思ったのかわからなかった。彼は確かに彼の子でその覇気は確かに彼を感じられた。けれどもそれだけだ。家族なんて弱い繋がりだ。目の前の青年もここであったこの女も。世界最強には程遠かった。海賊王なんて似合わないと思うぐらいには。ただ、何故かその手を取りたくなった。理由はわからない。

 差し出されたエースの手を2人は静かに取る。ここに、1つのチームが出来た。組織というには規模が小さすぎる。たった3人だけのチーム。それだけで世界を大きく揺るがす事となるチームが。

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