無題
※ギャグ?BW時代なのでルフィは登場しません。
マリアンヌを誘ったのはロビンという設定。状況は原作とずれてます。
カジノ「レインディナーズ」の一室。長身の女性が電伝虫に話しかけている。
「…という訳なのだけれど、ミスゴールデンウィークへの対応について判断を仰いでも?」
『消せ』
考える時間すらなく、電話越しの男はにべもなく返す。
女性はちらりと目線を向け話を続けた。
「良いの?悪魔の実と違ってこの子の能力は二度と手に入らないわよ」
『どんだけ珍しかろうが必要な時に使えない駒なんざ必要ねェんだよ』
「ふーん…じゃあ処分しておくわ」
女性がこちらへ向き直る。
「待って」と言おうとした口は、突然生えてきた掌で塞がれてしまった。
両腕も後ろで掴まれてしまい振り解くことができない。
「んんぅ!?んっん!んーんんむうー!!」
「ごめんなさいね。ボスの言うことは絶対なの」
ボス…Mr.0の下した判断は予想出来ていたものだった。
任務に失敗したエージェントを待つのは死のみ。
それは分かっていたけれど、私は何も言わず逃げ出す事は出来なかった。
自分を救ってくれた貴女に砂をかけるような真似だけは。
「…相手に取り入る上で、そういう情を見せるのは効果的ではあるわ」
ギチリと拘束が強まる。
ミスオールサンデーは懐から小さな布を取り出すと、何かの薬品を染み込ませた。
「でもその所為で逃げる機会を逸しては本末転倒よ?」
笑顔を浮かべたまま私を見下ろす。
首を振ることも出来ない私に近づき、鼻先に布を宛がう。
「んっ……ん………」
口を塞がれ鼻から息をするしかない私は薬品を吸い込んでしまう。
甘ったるい香りで一杯になり、手足に先から少しづつ力が抜けていく。
「次は上手くやりなさい?尤も、次があればだけど…」
ぽんぽんと頭を撫でられたのを最後に、私の意識は闇に落ちていった。
※※※
「……ぁ…」
気が付くとフカフカのベッドの上に寝かされていた。
身体を起こして部屋を見回す。
豪華なホテルの一室のようだが、見覚えはなかった。
「…まぁいいや……」
眠気に任せてもう一度枕に顔を埋めようとしたが、後頭部から生えてきた腕に阻まれてそのまま上半身を押し戻されてしまった。
「ロビン。痛いからやめて」
「それはこちらの台詞よ。仮にも殺されそうになってたのに二度寝しないで頂戴」
若干あきれながらベッド脇の椅子に腰かける。
ここはカジノ支配人としての彼女の私室であり、私はそこに匿われた形だ。
「全く、ボスが居ないときで良かったわ。直に手を下されたら助けられないわよ」
「ごめんなさい」
「Mr.3があの有様だったし心配したんだから」
「彼はどうなったの?」
ロビンは何も言わなかった。
それで察した私は短い間ながらもパートナーだった男の冥福を祈った。
「この国はもうじき大きく動くわ」
エージェントとしてバロックワークスがアラバスタに様々な工作を行ってきた事は知っている。
謳われた『理想国家』の建国がいよいよ大詰めらしい。
「幸いレインベースに戦火は及ばない。だからここに居る分には安全よ。ボスも王宮に向かっているから事が終わるまで帰ってこない」
「それは分かったけど、一ついいかしら」
「?」
「…この格好は何?」
若干名残惜しいが、ベッドから抜け出してロビンの前に立つ。
私の格好は捕まった時とは違うものになっていた。
長袖の黒の燕尾服に、同色のバニースーツ。
足元はストッキングとヒールを履かされ、ご丁寧にウサ耳と尻尾までつけられている。
「よく似合ってるわよ」
「…人を無理やり眠らせて着替えさせたの?…ヘンタイ」
「あら、人聞きが悪いわね。誰かに見られたとしてもココの従業員の衣装なら目立たないでしょ」
確かに私の服はカジノじゃ浮くかもしれないが、それにしたって他にあるだろう。
そもそもサイズが合っているのが怖い。こんな背丈の従業員が他に居るとも思えない。
「それともウサギさんならコッチが良かったかしら」
今度はクローゼットからウサギの着ぐるみを出してきた。
いや、貴女の私室にどうしてそんな物があるの?
明らかにロビンの背丈じゃ入りそうにないものだし。
「帰るから服返して」
「とりあえずお昼にしましょうか。何か食べたいものはある?」
話を聞く気はないらしい。
抵抗しようにも力は向こうの方が強いのでズルズルと引っ張られていく。
「ちゃんと逃げる手筈は整えるわ。それまでは大人しくね」
「ここのお仕事をする気は無いよ」
「じゃあ支配人の秘書で。隣に居てくれるだけでいいわ」
何が嬉しいのか頻りにウサ耳を撫でるロビンをジト目で見上げる。
自分で言いたくはないが、こんな見た目小さな秘書を連れてる人なんてこの世界に居ないと思う。
「…島を出る時の変装用と、水着は必要よね。後は……」
独り言は聞かなかったことにして、とりあえず高そうなデザートも頼んでやろうと心に決めるのだった。