無題

無題


サウザンド・サニー号に乗り込んで、パンクハザードを出発した後。

漸く事態が落ち着いた中、その甲板上にて感動の再会を果たす二人がいた。


「ウタ~~~!」

「ルフィ~~~!」


お互いの名前を叫びながら、思いっきりハグをする男女。ルフィが自分から女性にハグするのは珍しいので、麦わらの一味は少なからず驚きの表情を見せる。また、同盟を結んだ事もあって一時的にサニー号に乗船したローも、その様子を甲板で船縁に背を預けながら見守っていた。


「おっまえ、どうしてトラ男といるんだよ~! シャンクス達は? 会えたのか? いきなりいなくなって、俺すっげぇビックリしたんだからな!」

「うぇえええええ……ルフィいいい、生きてて良かった~っっっ」

「おう、ちゃんと生きてるぞ俺! だから泣くなよ~」


実際にはパンクハザードの研究所内部で再会したのだが、状況が状況だけに碌に言葉も交わせなかった。なので改めて再会出来たことを喜び合い、ウタに至っては両目からボロボロと涙を零している。そんなウタにルフィは安心させるように笑いながら、ウタを抱っこしてクルクルとその場で回り始めた。

そんな様子を見ていた麦わらの一味(ルフィ除く)は、自然と声を小さくして言葉を交わし始める。


「ねぇ。今ルフィ、シャンクスって言わなかった?」

「言ったな」

「シャンクスって、ルフィの恩人だよな?」

「『赤髪のシャンクス』だな。確か四皇の一人だ」

「あの子、その四皇の関係者なのかしら?」

「んん? そしたらそれこそ、どうしてトラ男と一緒にいるんだ?」

「さぁ……?」


彼らからすれば、同盟相手の船長の連れである女性と、何故か自分達の船長が親密である様子を見せられているのだ。まさかその二人が、十二年も前に別れの言葉も言えずに離れ離れになった幼馴染同士であり、加えてウタが赤髪のシャンクスの娘なのだとは知りようもないので、困惑するのは仕方がないだろう。その間も、ルフィとウタは再会を喜び合って、今では互いに笑顔ではしゃいでいる。

しかし、微笑ましく見える戯れが長引いていくにつれて、ある一人の機嫌が徐々に悪くなっていく。


「……」


先程から無言のまま、ルフィとウタの様子を見守っていたローであったが。段々とその気配は剣呑さを帯びていき、それに気付いたチョッパーが半泣きでゾロに飛びついた。他の面々も、ルフィ達を除いてローの様子の変化に気付き始める。帽子に隠れてよく見えなかったが、眉間にはくっきりと皺が寄せられており、どう見ても機嫌を損ねている事が察せられた。

そこまで機嫌を損ねる何かを、自分達はやらかしていただろうか。ナミやウソップが内心冷や汗を流す中、ゾロ達は黙ってローを見る。少しすると、ローは船縁から体を離し、無言のまま未だに戯れている二人へと近づいて行く。


「お、トラ男! どうした?」

「ローくん?」

「……」


近づいてきたローに対して、ルフィは満面の笑みを浮かべ、ウタは不思議そうに首を傾げる。ローは無言で二人をジッと見下ろすと持っていた大太刀を抱え直して、ウタの両脇に手を差し込んだ。


「ん?」

「へ?」

「……」


そのままウタの体をルフィから引き剝がすと、甲板に立たせ、ウタとルフィの間に自身の体を割り込ませる。ウタを背に隠す様にし、ルフィに対しては鋭い視線を向ける。


「……」

「……」


ルフィはそんなローに目を瞬かせた後、ウタと話そうと体をずらしてローの背後に回り込もうとした。だが、すぐにローが同じ方向に体をずらす為、ウタは変わらずローの背後に隠されたまま。


「……」

「……」


もう一度、今度は逆方向にルフィが移動しようとすれば、やはり同じようにローが体をずらす。何度か同じ事が繰り返され、二人の無言の攻防に、ウタは戸惑いながら疑問符を飛ばし続けている。外野の面々も、一体どうしたのか、と首を傾げる。本当にどうしたのか……まさかこのままやりあうつもりでは……と一部がハラハラしながらも、状況を見守るに徹していた。

そうして、とうとう痺れを切らしたルフィが不満の声を上げた。


「何だよ! なんで邪魔するんだ!」

「黙れ。いい加減引っ付きすぎだ」

「いいじゃんか! ウタと会うのは久々なんだぞ! 俺もっと話してぇ!」

「話だけならくっ付かなくても出来るだろうが。幾ら昔なじみとは言え、俺の目の前で堂々とベタベタすんじゃねぇ」

「なんだよケチー! トラ男ばっかずりぃぞ!」

「うるせぇ! そもそも人の女に無暗矢鱈にハグすんじゃねぇバラすぞ!」


ルフィの不満一杯の言葉に対し、我慢の限界だったらしいローも声を荒げる。折角の幼馴染の再会だからと、初めは黙って見守っていたが、何時まで経っても離れる様子がない二人……特にルフィに苛立っていた様だ。今にも能力を行使しかねないローの怒りっぷりではあるが、それを間近で目にしたウタの反応はと言うと。


「ローくん……っ!」


感激のあまり、頬を赤く染めてときめいていた。

普段から目立って好意を口にしないローが、自分がルフィとハグしているのを見てこれ程機嫌を損ねているのだ。実は私、ローくんに物凄く大事にされているのでは……?! と嬉しくなるのも致し方あるまい。

そしてその様子を、傍観していた麦わらの一味はと言うと。


「あ。あーーー。そう言う事?」

「え。え? あの子、トラ男の番なのか?」

「らしいな。くっだらねぇ」

「あんな可愛い子と付き合ってるだぁ?! 羨まし~~~っ!!!」

「おいおいサンジ、落ち着けって」

「ふふ。何だか可愛いわね、あの子たち」

「おぅおめぇら。喧嘩は良いが、暴れ過ぎてサニーを傷つけんなよ」


なんだぁ、単に彼女が他の男と仲良くしてて嫉妬してただけかぁ。はー、ハラハラした。と、続々とその場を離れていく。その間も、ウタと話したいルフィとウタに近寄らせたくないローによる攻防が繰り返され、ウタは楽しそうに「ルフィもローくんも頑張れー!」と二人を応援していた。

第三者からすればくだらない、しかし当人たちからすれば大真面目な攻防が落ち着くのは、まだまだ先の様だ。

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