無題

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『少年と少女とあかいかみの海賊』 著者:不明 作成年:不明

むかしむかし、あるところに

少年と、あかいかみの海賊とその娘がいました。


少年はあかいかみの海賊が大好きで、何度も何度も遊んだり、船に乗せてとせがみました。

もちろん娘もおとうさんのことが大好きで、冒険の話を少年に語り、自慢していたのです。

娘は歌うことが大好きで、少年も、あかいかみの海賊も、その歌が大好きでした。


しかしある時、急にあかいかみの海賊は娘を置いて、何も言わずどこかへ旅立ってしまいました。

娘は大層怒り、かなしみ、捨てられたと思い、ついにはおとうさんを恨むようになりました。


けれど少年は、あかいかみの海賊がそんなことをするはずがないと思っていました。

立ち去る前。不思議な実を食べて、体がゴムになって泳げなくなってしまった少年を、あかいかみの海賊が助けてくれたからです。

あかいかみの海賊の海賊は、自慢の麦わら帽子を少年に託し、『娘を頼む』と言っていたことを知っていました。


けれど、娘の怒りようと哀しみから、言い出せなかったのです。


娘はやがて少女になり、世界を守る海兵に言い出しました。少年は複雑に思いながらも少女を追いかけて、海兵になりました。


少年と少女は沢山の人に愛されました。赤い犬のおじさん、青い雉のおじさん、大仏のおじさんはやんちゃな二人を叱りながらもたいそうかわいがり、

少年のおじいちゃんと共に、二人を立派な海兵に育ててくれました。


少女の歌は沢山の人に愛されました。三人のおじさんも、少年のおじいちゃんも、少女の歌が大好きでした。


たくさんの冒険があり、砂漠の国に住む大きなワニとの戦いに勝った二人は、国の人々からたくさんのお礼を貰って、誇らしげな気持ちになりました。

三人のおじさんも嬉しそうで、沢山のひとが、二人のことを大好きになりました。


「きみのおかげで おれはつよくなれたよ!」


少年は笑いました。ゴムの体のかれは、少女の歌を聞くとさいきょうになれるのです。


海兵は、一人前になったらじぶんの『せいぎ』をきめなくてはならない決まりがありました。

少女はじぶんの『せいぎ』をきめましたが、少年はいつまでたっても『せいぎ』をきめません。


「だっておれ、わるいやつをたおせればいいもん!!」


少年はわらっていいました。『せいぎ』はいつか決めると繰り返して、きめようとしませんでした。


しかし、ある日とつぜん、わるいかみさまが空からおりてきて、少年と少女の前にやってきました。

わるいかみさまは、少女をおよめさんにするためにやってきたのです。


「おまえ おれのおよめさんになれ!!!」 わるいかみさまは言いました。


少年は知っていました。わるいかみさまに連れて行かれたひとは、みんな不幸になってしまうのです。

けれどわるいかみさまは、ずっとむかしに世界を救ったおうさまなので、だれもさからうことができません。


三人のおじさんも、少年のおじいちゃんも、わるいかみさまのいうことは きくしかないのです。


けれど少年は、少女のことがだいすきだったので、わるいかみさまをなぐってしましました。

たくさんのひとが悲鳴をあげました。太陽は隠れて、あめがふりだしました。


「いっしょに、にげよう!」


少年は、海兵の綺麗なマントを脱いで、少女と手をつないで逃げ出しました。

せかいは悲しみに包まれて、けれど少女は、嬉しくて泣き出してしまいました。


たくさんのひとが、少年と少女をつかまえようと探しました。わるいかみさまの命令にはさからえません。


たくさんのひとが、少女をまもろうとする少年と戦いました。赤いおじさんも、少年と戦いました。

少年のおじいさんも、泣きながら少年と戦いました。


「おまえの『せいぎ』は、なんなんだ!」 おじいさんが、たくさん泣きながらいいました。


「たいせつなひとが わらえる『せいぎ』だ」 少年は、自分の『正義』をきめました。


きずだらけになりがら、少年は少女を守りました。少女は泣いて、泣いて、泣きつかれて眠ってしまいました。


あるとき、二人は暗い洞窟のなかにかくれました。

暗い洞窟の中は、だれもいません。雨は、なりやみません。少女は「いつまで逃げれば良いのかな」と、かなしみのあまり、うたえなくなりました。

いっそ、ふたりだけのせかいに行ってしまおうかと、ふたりで話したりもしました。

それくらいつかれて、かなしかったのです。


けれど、旅立とうとしたその時に、あかいかみの海賊が、ふたりの手を止めるためにやってきました。


「ごめんな。おれのせいで、つらいことになって、ごめんな」


あかいかみの海賊は、ふたりよりもつらくて、かなしいかおをしながら何度も何度も謝りました。

ふたりのまえで、しんだら、ゆるしてもらえるかなと。あかいかみの海賊はいいました。


「そんなこと するんじゃない!!してほしくない!!」


少女は、あかいかみの海賊に怒りました。きらいだけど うらんでいたけど、死んでほしいなんて思ってもいなかったのです。

あかいかみの海賊は悩みました。じぶんは そうしなくては少女にゆるされないと思っていたからです。


おたがいの気持ちはぶつかり合って、やがて小さな、短い親子喧嘩が始まりました。


少年は、じっとその喧嘩を見守っていました。


やがて喧嘩が終わって、ふたりともぜぇ、ぜぇとつかれているところに、

少年はあかいかみの海賊へ近づいて、こわいかおをしながら、その頬を叩きました。


「この子を かなしませたばつは これで終わりだ」


「たすけにきてくれて ありがとう!○○○○○!」


そういって、あかいかみの海賊から託された麦わら帽子を返して、少年はにししとわらいました。


三人は強く、おたがいを抱きしめて、もう離さないというかのように抱き合って、みんなで泣きながらわらいました。


雨はやんで、雲はわかれて、太陽が顔を出しました。


「おーい!きみたち!!もう じゆうだぞ!!」


太陽の声を聞いた少年は駆け出して、洞窟の入口に行って、二人のほうをむきました。


「さぁ!!○○!!おれといっしょに、ぼうけんしよう!!!」


少女は泣きながら、おとうさんと手をつないで、もう片方の手で少年と手をつなぎます。


「うん!!」


三人は、洞窟から飛び出しました。


少女はとてもうれしくて、今まででいちばんきれいな笑顔を見せて

うたをうたいました。少年と海賊がだいすきな、きれいなうたでした。


少女のウタを聞いた少年は、さいきょうです。

またたくさんの出会いと助けを得て、わるいかみさまを倒しました。


せかいに、笑い声と、しあわせが戻ってきました。


「ねぇ、けっこんしよう!」 

へいわになったせかいで

少年と少女は同時にいいました。


あかいかみの海賊と少年のおじいちゃんと、三人のおじさんは、とっても喜んで、大きな教会を作って

たくさんの人を呼んで、結婚式を開いてくれました。


「おれたち、ずっといっしょだからな!」「うん!!」


少年と少女はそれからもずっと、たくさんの人に愛されながら、ずっとずっと

へいわに楽しくくらしましたとさ。


めでたし、めでたし。


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『少年と少女とあかいかみの海賊』


著者不明、執筆年不明の謎に包まれた物語。

媒体は様々であり、絵本やTDはもちろん、果ては巨大な石版に描かればものまで存在するため、当時は世界的にポピュラーな物語であったとされる。


序盤は少年と少女、そして少女の父親である『あかいかみの海賊』を中心に物語は進んでいくが

『あかいかみの海賊』は二人の前から姿を消してしまう。


少女はそれを恨みながら海兵となるが、少年は疑問を抱きつつ、それを追いかける形で海兵となっている。


中盤は海兵となった二人をたくさんの人に愛されている姿が描かれているが、途中で少年が『わるいかみさま』の手から少女を

守ったことで、逃避行となる形で中盤が終わる。

特に『暗い洞窟』に入った後の物語は少女と少年の悲しみを強調しており、死の世界への旅立ち≒心中を示唆した記述も

散見されている。


終盤は『あかいかみの海賊』が再登場し、少年と少女との和解、そして新しい冒険の三人が出発する様。

最後に『わるいかみさま』が倒され、二人がこれまで出会った人々の前で結婚式を開き、幸せに暮らして行く姿を描いた挿絵で物語が終わる。


絵本版は物語として極めて簡略化されている他、様々な媒体では多くの解釈によって、物語に違いと彩りが生まれている。

中には『暗い洞窟』の中で少年と少女が心中する……というストーリーで終わるものもあり、

媒体によって重視するものが異なっているのが特徴である。


今回紹介した物語は絵本版であり、最も代表的な『最後に少年と少女が幸せになる』ものであるがどの物語も細部が異なっているほか、どの媒体でも少年と少女、海賊の名前が最後まで明かされないという謎めいた構造から

人文学者のみながらず、言語学者、歴史学者も研究対象とすることが多い。


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