無題
その指令は唐突に来た。
『ルフィ元大佐とウタ元准将が自首の連絡をした。すぐに確保に迎え。』と。
上は唐突の自首連絡に混乱の後、最も連絡の島から近い俺達に確保を命じた。
すぐにたしぎに船の進路を合わせるよう言った。
ちょうどよかった。あいつら二人には言いたいことが山ほど募っている。
特に麦わらはとりあえず一発殴らないと気が済まない。
連絡の島ははっきり言って劣悪だった。
分類で言えば夏島だが、一年中雨が降り日が指すこともなく、
食料問題も悪いため人っ子一人いない無人島だった。
こんなところに人などいるのか疑問だったが、比較的新しい打ち捨てられたボートが
連絡が真であることを物語っていた。
間違いない。二人はここにいる。
捜索をしてすぐ、一人が洞窟を発見した。付近に比較的新しい足跡もあったという。
すぐにたしぎとそこへ向かった。
薄暗く湿気のひどい洞窟だった。すぐにでも調べようと入ったときだった。
嗅ぎなれた匂いがした。海賊との戦闘。負傷者の調査。怪我人の保護。
海軍としての仕事の中でいくらでも立ち会ってきた鉄臭い匂いだ。
考えるより早く足が動いた。たしぎもすぐ後ろを青い顔でついてきている。
洞窟の奥深く。果ての壁に二人はいた。
「………嘘……」
…考えうる最悪の状況だった。
考えたくない現実に呼び戻すかのように、鉄の匂いのする赤が広がっている。
すぐに麦わらにかけより脈を調べた。
…だが、とても自分の知るやつからは信じられないほどに生気のない顔を見れば、脈など調べずともわかった。
…胸元、心臓を一突きにしていたナイフを見る。
使えなくとも持っておけと、ガープ中将が入隊祝いに渡したものだった。
赤く染まった刃と、縄の繋がった持ち手。
縄を辿れば、よく見れば洞窟の天井に軽い仕掛けがあった。
視線でその仕掛けを辿り、縄が行き着いたのは…
「…スモーカーさん……」
隣で眠る准将の右手だった。
口元に出血したあとはあるものの、こちらの遺体は傷もない。
最後にあったときより遥かにやせ細っていたが、死ぬ要因となる外傷など見受けられなかった。
そうなれば…
「…おい、左手のそれはなんだ。」
彼女の左腕にある歯形のついた茸。
洞窟内に同じ茸と思われるものがいくつか散っていた。
「…ネズキノコです、食べればで睡眠を阻害され、やがて死に至る……」
…合点がいった。
あいつらは旅立ってしまったのだろう。
この地獄を抜け、夢の先にある自分たちだけの世界に。
…歌姫の死体と比べれば、麦わらの死体は死後からの時間が短い。
彼女が永遠の夢の中に逝ったとき、縄で繋がれた刃がはじめて男の肉体の命を奪ったのだ。
けして一人にならないよう、一人にさせないよう。
彼女は現実で死ぬ直前まで戦っていたのだ。
やがて担架が運ばれてきた。
ゆっくりと、そこに乗せられて二人は運ばれていく。
「……なんなんですか、これ。」
涙を流しながら、傍らの部下が問いかけてきた。
「なんでこうなっちゃったんですか…なんであの二人なんですか………正義って、なんなんですか……?」
「………」
答えることが出来なかった。今の自分はきっと上官失格なのだろう。
今は、背中に背負ったコートが重かった。
洞窟の外に出る。
不思議なことに、ここ数年晴れの記録のなかったはずの島を覆う雲は失せ、輝かしいほどの日に照らされていた。
「…止んでますね、雨…スモーカーさん?」
「……………」
今だけは、雨が欲しかった。