無題
宇宙と言われても頷いてしまい見る者全てを圧倒してしまうであろう程膨大で広大な世界で彼は─ワイは駆ける。
左手に持つは彼が愛用し長年連れ添った愛盾、右手に持つのは今日初めては握る筈なのに何故だかしっくりくるここに落とされた時に側にあった古ぼけた日本刀。
そして相対するは────
「ほらほら!早くしないと間に合わないよ?」
ケラケラと悪童のように嗤う友奈、彼女が羽織るはウェディングドレスに墨をぶちまけ赤い血を塗りたくったかの様な色をした何とも趣味の悪い花嫁衣装。
「さっさと友奈を返しやがれ!この行き遅れ女っ!」
そう彼は悪態を吐きながら彼女が片手を振るえば現れる天の神の一撃と同じ威力を持つそれを盾でいなし横槍を入れてくる彼女が産み出した星屑擬きを切り裂く、
「…っ、やーだよ私にさえ触れられないのに返すと思う?それと…口は災いの元、だよ?」
気に障ったのか彼女が指を鳴らし射手座を彷彿とさせる無数の極光を放つ、全てが必殺、当たれば当然だが命はない。
「死にたてほやほやなら生き返せるから、安心して死んでね旦那様♪」
そう悪魔のような笑みで友奈は微笑み、ワイは舌打ちをする。
「なら即刻離婚届を叩きつけてやるよ鬼嫁が」
彼はそう言い返しながら極光に向かって駆ける。
ミギナナメヨコ ヒダリカラチョクセン
「…了解」
脳内で聞こえる【声】を頼りに極光の中から彼を狙って発射されるビームを避け走り続ける。
その【声】は友奈と話してるときや主に女子と話してるときによく『この発言はしない方がいい』とか『ここはこう褒めればいい』と助言をしたり戦闘中に動き方を教えてくれた皆には見えないし聞こえないワイにとっての相棒である。
中略
「──貰った」
そして無数の極光を掻い潜り友奈の懐に潜りこんだワイは刀に力を込め──一閃を放った。
その一撃は神を殺す焔を宿した一撃、そう三百年の妄執の果てに腐りきり神にまで堕ちた高嶋友奈という【神】には何処までも届きその身を灼きつくす絶対的な終わりを与える一撃。
それは確かに彼女の身体に届き刹那、罅が割れる。
「そこだっ!」
ワイがその決定的な隙を見逃す筈なくワイは確かに結城友奈の手を掴み高嶋友奈から引き抜いた。
そしてそのままワイは友奈を抱き寄せバックステップを取りノイズが迸り今にも崩壊しそうな高嶋友奈から距離を取る。
「友奈大丈──」「ワイ君っ!怖かったよ~!!」
そう言いながらワイの言葉を遮り泣きつく友奈、ワイは溜め息を吐きながら背中を軽めに叩く。
「ったく、心配させやがって」
「うん、本当にごめんね」
「…はぁ、説教は後だ今は戻るぞ東郷達が待って……ちっ、まだやる気か」
何かに勘づいたのかワイが目を向けるとそこには先程の圧倒的な存在感を失いながらも友奈がしないような憤怒のような絶望のような貌をした高嶋友奈がいた。
「なんでさ…」
ポツリと幽鬼のように呟く、
「あっ?」
「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでっ!貴女だけが叶うのさっ!!」
そう高嶋友奈は叫ぶまるで呪いを吐くかのように
「私だって頑張ったよ!彼に振り向いてもらえるように!皆が安心して生きれるように!何度も傷ついてそれでも!報われる時がくるってきっと受け入れてくれるって!でもでもでもっ最期には彼は私を受け入れてくれなかった……ねぇどうしてかな結城ちゃんと私、何が…何が違うの…かなぁ…」
そして最後には泣き出しそうな…少女のような声で言った。
「……だからさ…結城ちゃんも君も……私と一緒に──死んで?」
高嶋友奈が最後の力を残留した神の力を振り絞り生成した隕石が落ちる直径は天の神と同程度この空間を壊すには十分な力を持つ。
「ちっ…くそっ何か方法は……」
「壊すのは…無理だよね……」
今の二人では余りに無謀で不可能…だが
「「……だけど勇者部五箇条一つ!なるべく諦めないっ!」」
──彼らは勇者である。
故に諦めるなど言語道断その拳を天に向かい穿とうとする。
だがここに一つイレギュラーがあった、それは本来ならあり得ぬことであるがこの不安定な空間が招いた奇跡、ワイの中の因子とこの世界にありし残留と高嶋友奈が望んだ【誰か】の遺志が重なったのだ。
「…何の因果か知らんがチャンス到来ってわけか」
その奇跡は呟く、かつての心残りをかつて救えなかった少女をその双眼で捉えながら歩く
「はっ?」「えっ?」
ワイと友奈は自身らの横を過ぎ去った男を見て目を見開く何故なら──
「ワイ…君?」
高嶋友奈の呟きと共に隕石はその役目を失ったかのように砕け散る。
「あぁ、そうだ俺だお前が良く知ってる和井だよ」
「……今更、今更!何のようなのさ!私をあの時受け入れなかった癖に!ぐんちゃんや茉莉ちゃんを選んだ癖に!なのに──」「あぁ遅くなった…ごめんな友奈」
激昂し弾劾する高嶋、だが和井はその言葉を受けながら彼女を抱き締めた。
「何を…」
「やっと見つけた…あの時俺がお前を引っ張ってやれば…救えたかもしれないのに俺は…それができなかったっ!」
和井は更に抱き締める力を強くする。
「助けれたのに助けられてばっかだったのに…何もできなくて本当にごめんっ!」
瞬間、僅かに高嶋の目から怒りの色が消える。
「…そうだった……そうだったんだ」
その言葉を何度も咀嚼するように高嶋は聞く。
そして──
「……全部私の勘違いだったんだ」
彼女はそう空虚に呟いた。
「…あははっバカみたいだよ……本当に」
「あぁお互いバカ同士だ」
いつの間にか高嶋も和井を抱き締める、
ソノコロ、ワイハユウナヲツレテダッシュツシタ
崩壊する空間で二人は交わす。
「ワイ君、次があったら私達ちゃんと結ばれるかな?」
「先の事なん俺には分かんないな」
「…もうちょっとマシな返しはないのか──」「だけど」
「だけど少なくとも俺はお前を離すつもりはもう無い」
「……本当にズルいなぁワイ君は」