無題
※濁点喘ぎ
「困ったものだな……」
気がつけば私の身体は硬い壁に埋まっていた。上半身と下半身が分断されてしまっている。
サーヴァントであった頃なら霊体化して抜け出すことも出来たのであろうが、生憎生身の身体を得た後なのでそうはいかなかった。
壁にぶら下がって項垂れる姿が干された布団のようで我ながら滑稽だ。
「公瑾!」
耳によく馴染む声が背後から聞こえてくる。どうやら明儼が助けに来たらしい。
「いきなり姿を消したと思ったら……一体何があったんだ!」
「お前なら来てくれると思っていた」
「待っていろ。すぐに助ける」
そうは言ったもののまるで動く気配がない。声を掛けてみる。
「何か考えでもあるのか」
私に促されておずおずと申し訳なさそうに話を切り出す。
「その……穴からお前を出すには服を脱がせる必要があるのではないかと思ってな」
着ている服の枚数が多いので説得力はあった。
「そうか、やってくれ」
「い、良いのか?裸になってしまうのだが」
「ここで立ち往生しているよりかは良いだろう。幸いなことに私とお前以外に人は居ないようだからな」
私の言葉を受け入れたようで下衣が恐る恐るずり下される。素肌に触れる空気が少し冷たい。
割れ物を扱うような恭しい手つきで触れられておかしくなってしまう。恐らくサーヴァントではなくなったので気を遣ってくれているのだろう。だがそう思ったのも束の間のこと、手の動きに違和感を覚えた。
先程から私の身体に触れる手つきに良からぬ欲が混じっている気がした。臀部のあわいを人差し指でなぞられて背筋がぞわぞわと粟立つ。
「明儼、まさかとは思うがお前」
言い切るよりも先に後ろの孔に人差し指と中指が捩じ込まれた。
「あッ……ぅあ……」
ゆっくりと解されて腰を浮かせたくなるが壁に身体を挟まれて逃げ場がない。更に指を増やされて子供のように脚をばたつかせてしまう。
「ぅぐ……ぁ……あ」
準備が出来たのか指がずるりと引き抜かれる。下穿きを脱いでいるらしく衣擦れの音が聞こえる。
「ッ……何、を……」
後孔に先端が宛てがわれた。
「すまん、公瑾。存分に俺を恨んでくれ」
「止めろ、よせ───」
先端を挿れられたと思った矢先にそのままめりめりと肉壁を押し広げられた。
「か───は……っ」
(大きくて、太い……っ)
肺が潰されるような錯覚を覚える。明儼のものをこの身に受け入れるには些か私の胎内が狭かった。腸の方まで届いてしまっている。
少し時が経ってから明儼が腰を前後に動かし始める。
「がっ……あぁ"……ぐッ」
奥を突かれる度に痛みで傷を負ったかのような声を漏らしてしまう。
「ッ……止め、ろ……鄭明儼!いくら人気がないからと云って限度があるだろう!」
叫んでみたが一向に止まる気配がない。恐らく達するまで止めるつもりはないのだろう。本当に困った男だ。
硬い剛直で奥を抉られ続けて目眩がする。儀を共に戦っていた頃からこの男が私へ劣情を向けていたのは分かっていたがここまでとは……
そんなことを考えていると、ふと弱いところに先端が強く当たった。
「ッあ"───ひぅ"っ……う"」
(これが……私の、声……?)
今まで出したことのない声を上げてしまう。私からこのような声が出ることに自分で驚いた。
「あ"……あ"ぅ"ッ……そこ、は───やめ"、っ」
肉体が完成しきっていないせいなのか与えられる快楽に声を抑えられそうにない。視界が明滅する。
「め、めい"ッ、げ……ん"───これ"ッ、いじょ、う、は……よくな───あ"っ───あ"アぁ"」
完全に痴態を晒してしまっている。
此処に私と明儼の二人しか居ないのは幸いだった。
時折水音の中に低い声が混じるのを感じ取る。絶頂が近いようだ。
「お前の胎に出してしまいそうだ……」
「っ……出せ、出して……終わらせてくれ」
私が懇願するような声を絞り出すと鈍い音を立てて精が吐き出される。頭の中までも快楽に塗りつぶされるような錯覚を覚えた。
私の目線の先には明儼が居心地の悪そうな顔で正座をしている。壁から漸く抜け出した後に服を着直したが、脱がされる前と同じ装いになっているかは正直なところ自信がなかった。相当の量を出されたようで腹が重い。
「まさか動けなくなっていたところを無理矢理抱かれるとはな」
「……今回ばかりは本当にすまなかった。相応の罰は受けるつもりだ」
明儼が瞼を閉じる。
「一思いにやってくれ」
額に握り拳を軽く当てると驚きで目を丸く開いた。
「今日はこれで許してやろう」
「公瑾……本当に良かったのか?」
手酷く殴打されると思っていたようで困惑している。
何故だか説教をする気にはなれなかった。
「私としたいのであれば次から直接云ってくれ」
呆気に取られて口が半開きになっていた。どうやら私の言ったことが理解出来なかったようだ。
「すまん!公瑾、もう一度云ってくれないか」
本当にこの男は……
「二度は言わん。疾く帰るぞ」
屋敷へと踵を返す。慌てながらついてくる姿が何ともかわいらしかった。