無題

無題




【閲覧注意】


・全ての要素が捏造に次ぐ捏造

・著しいキャラ崩壊

・オモダカさんに旦那と子供がいる

・軽い暴力の描写

・口論の描写(長め)

・倫理観の欠如

・不完全な呼称・口調エミュ

・暗い

・長い

・駄文


本当に何でも大丈夫な方のみどうぞ。








パルデア地方・ポケモンリーグ。

各地のジムへの挑戦者が増えるアカデミーの課外授業の時期でも、ここまで辿り着く挑戦者は滅多に現れはしない。チリはその日、1人の挑戦者の面接を担当した。

…バッジの数が足りていない。何の話も聞いていなかったので薄々分かってはいたが…挑戦資格はなしか。

当然、彼がその先へ進むことはなかった。


…まったく、これでは休職している我らがトップチャンピオンの代理を一体何のために立てたのやら。

夜も更けてきた頃、チリがそんなことを考えていると、何やら入り口の方が騒がしい。


近づいて聞いてみれば、どうやら男女が口論しているらしい。…男の方が一方的に怒鳴り散らし、女の方が弱々しく反論している。

その女の声にチリははっきりと聞き覚えがあった。最近は顔を合わせていない上に声の雰囲気もいつもとはずいぶん違うが、間違えるはずがない。


声を聞きつけたハッサクとアオキも、何事かと奥から顔を出す。ポピーはもう遅い時間なので帰ってしまった。ここに居合わせなくて良かった、と思う。

3人で外へ出て声の方へ向かうと、そこにいたのは出産のために仕事から離れていたトップチャンピオン・オモダカと彼女の夫だった。

月の見えない、暗い夜だった。


ーーーーーーーーーー


子供と自分の血が繋がっていないことが分かった。

事情を聞かれて真っ先に夫がそう答えた。怒鳴る事こそ止めたものの、全身から怒りと失望が滲み出ている。

そんな夫の主張を涙を浮かべて弱々しく否定するトップの姿には、普段の覇気や凛々しさはない。そこに見えるのは、ひたすらに困惑と絶望、そして分かって欲しいという思いだけだ。


「しかし、まさかトップに限ってそんな事はあり得ませんでしょう」

口を開いたのはハッサクだった。

「トップは誠実な人間です、そのような不貞行為などする筈が」

「こっちにはちゃんとした検査結果があるんだよ!」

夫が食い気味に声を荒げる。オモダカがやめてください、と訴えると、そもそもお前の所為だろうが!と夫が彼女を突き飛ばした。

「おい!」

チリが倒れ込んだオモダカに駆け寄って支えながら夫に怒鳴る。

「いくらなんでも暴力はあかんやろ!せめてきちんと話し合ってから」

「話し合うも何もあるか!」

またも食い気味に返される。オモダカはチリを制止するが、怒鳴り合いは止まらなかった。


「第一こいつはいつも帰りが遅かったし帰ってこない日もザラにあった!どうせどこぞの男と逢引きしてたんだろ!」

「トップは毎日ずっと夜遅くまで仕事しとったわ!そんな時間なんかあるわけないやろ!自分、旦那なのにこの人の仕事の量知らんのか⁉︎」

「動かぬ証拠があるんだから男と会ってたのは確かだっつってんだろ!それとも何だ⁉︎やっぱりお前らもグルか⁉︎露骨に庇い立てやがって!」

「何やって⁉︎」

口論は激しくなる一方だ。


ハッサクが彼らを落ち着けようとするが、互いに引きそうにない。後ろを見ると、アオキはこの事態をただ黙って見ていた。

……この男はこんな時に一体何を考えているのか…大方食事のことか、あるいは「面倒ごとに巻き込まれた」「職場に夫婦間の問題を持ち込まないでほしい」といったところだろうか。


オモダカの方を見れば、彼女はもう自分で立っていたが、未だ気持ちの整理がつかない様子で、目に涙を溜めたままただ小さく震えていた。


オモダカがいくら否定したところで、確かな証拠が出ているとなれば、非は彼女にある、と考えるのが妥当だ。しかし、先程チリに支えられたまま「ちがうんです」「本当に、身に覚えがなくて」と繰り返していた彼女は、とても嘘をついているようには見えなかった。


……真相はどうあれ。

今、誰よりも支えを必要としているのは他でもない彼女だろう。これほどまでに弱ったトップは未だかつて見たことがない。

それに何より、産まれてきた子供には罪はない。

とにかくまずは、この騒ぎを収めるのが先だ。


ーーーーーーーーーー


子供ができたと告げた時、夫は本当に嬉しそうで。

ありがとう、と嬉し涙を流す彼を見て、私の喜びも一層増した。

子供は男の子か女の子か。どちらに似た子になるか。そんなことを満面の笑みで語りかけてくるたび、何だってきっと幸せになれると思い、幸せにしてみせると子供に誓った。


そうして産まれた子供はオモダカによく似ていて。

本当に、心から愛おしいと思った。


私と夫と、それに子供。

幸せな家族になるはずだった。

そのはずだったのに。


子供が産まれてしばらく経ち、体調がそこそこ回復してきたころ、夫が突然、DNA鑑定をしたいと言い出した。

ただの思いつきであろうことはすぐに分かった。私を疑っているんですか、と冗談めかして言い、いくら悪い冗談でも限度がある、なんて言いながら2人で笑いあったのを覚えている。


そして、その結果が今の事態を招いているのである。

結果が出た時のことはもうほとんど覚えていない。あの後はもうずっと心がぐちゃぐちゃで、何が起きているのか分からなくて。


本当に心当たりはない。

でも鑑定結果を見て、一体誰がそんなことを信じるというのか。

世間にこれが知られれば、今の仕事だって続けられなくなるかもしれない。実家からも見放されるかもしれない。そうなれば、私のいる場所はどこにもない。

…別に、私がいなくなったくらいで立ち行かなくなるほど、パルデアは弱くはない。


今気にかかるのは、何よりも…子供は一体どうなるのか、だ。

産まれたばかりの愛しい我が子。夫と血が繋がっていないというのなら、きっと私が育てることになるだろう。でも、居場所がなくなってしまえばお金もいつかはなくなるし、第一悪目立ちする親の元ではきっと幸せには育ててあげられない。

……今、チリとハッサクは私を庇ってくれているけれど、この2人だって、本当に私を心から信じてくれているわけが…


「……っ!!」

…庇ってくれた相手を疑うなんて。

吐き気がする。ただでさえ、私のせいで、少なくともこの場にいる全員に迷惑をかけてしまっているというのに。

身体の震えが止められない。

不安がいつまでも頭の中を渦巻いている。

これからどうしたら良いのだろう。

気分が悪い。意識がぼやけてくる。

全身から、力が抜けて………


途端に、視界ががくりと跳ね上がった。

はっ、と我に返って辺りを見れば、アオキに身体を支えられ、チリとハッサクが慌てて駆け寄ってくる。

彼らから感じたのは、失望でも、軽蔑でも、巻き込まれて迷惑だという気持ちでもなく。

ただ、確かな信頼だった。


…本当に良い人たちだ。

心配をかけて申し訳ないと思う反面、嬉しいと思ってしまう自分がいた。

彼らとなら、子供と一緒にこれからもうまくやっていけるかもしれない。

じわじわと安心感が広がり、身体の感覚が戻ってくるのを感じる。


…思えば随分と情けないところを見せてしまった。

再び涙でぼやけてきた視界に映る3人に、「ありがとうございます」と告げた。精一杯の笑みを浮かべて、「大丈夫ですよ」とも。


ーーーーーーーーーー


「とにかく!証拠があるんだから俺はそいつと離婚して多額の慰謝料も請求する!」

「さっきから証拠証拠うるさいなあ!それは分かったからそういう事はちゃんと相手と話し合って解決せえ!それと暴力振るったんは今すぐ謝らんかい!」

「否定ばっかで埒があかねえ相手と話してられるか!それにあれくらいで暴力だ⁉︎大袈裟なんだよ!俺は明確な被害を受けてんだから制裁としてはまだ優しいほうで」

「そんな理屈は通らへんわ!それを言うたらこんな夜更けに職場に押しかけて大声で怒鳴るんもれっきとした迷惑行為や!制裁受けても文句言えへんで⁉︎」

口論は激化し、とうとうチリから暴力行為を匂わせる発言が出てきた。流石に本気ではないにしてもヒートアップし過ぎだ。力尽くでも止めた方が良いかもしれない。

ハッサクがそう思ったその時だった。


怒鳴り合いを続ける夫とチリを前に、オモダカが不意に崩れ落ちた。

「トップ!!」

慌ててハッサクが向かおうとすると、いつの間に近くに来ていたのか、アオキがすぐさまオモダカの身体を受け止めた。視界の隅にそれを捉えたチリも口論を止め駆けてくる。


「……ありがとうございます…大丈夫ですよ」

微かに震えたままの声で、どこかぎこちない笑顔でオモダカが言った。しかし、彼女からは安心と信頼、そして感謝が伝わってくる。


「…まずは、トップを休ませましょう」

アオキがそう言った。

「それがええな、トップ、歩けそうです?肩貸しましょか?」

「ええ…助かります」

チリがオモダカを連れてゆっくりとポケモンリーグの建物へ向かう。

「そういえばトップ、赤ちゃんは」

「今はシッターさんにお任せしていますよ」

「なるほどな、いつか会えるのが楽しみやわ」

「近いうちにことが落ち着いたら、連れてきても良いかもしれませんね」

「そしたらポピーはお姉ちゃんになるなあ」

「…ふふ、そうですね」


ハッサクも2人の後からリーグへ向かおうとしたところで、アオキが話しかけた。

「すみませんがハッサクさん、少しトップをお2人にお任せしてもよろしいでしょうか」

「小生は構いませんですが…あなたはどうするつもりですか?」

「…軽く、その人と話をつけた方が良いかと思いまして」

アオキの視線の先をちらと見ると、怒鳴り疲れたのだろう、オモダカの夫が微かに肩で息をしている。ひとしきり感情を爆発させたためか、幾分か冷静さを取り戻したようだった。

「ああ…分かりました、ただ…これ以上、下手に彼を刺激しないようにお願いしますですよ」

「………」

せめて返事くらいはしたらどうなのか。少々不安を感じたハッサクだったが、言われた通りにアオキを残して建物内へ向かうことにした。

さて、まずは温かい飲み物でも淹れるとしよう。


ーーーーーーーーーー


「………では、世間には離婚の詳細は公表しない方針で…」

「…ええ、まあ…」

「…あとは、当人同士で弁護士でも交えて話し合ってください」

「…はい」

怒鳴り合いが終わってしまえば、人の少なさもあってかこの場所は随分と静かだ。

「…ええと…すみません、冷静さを欠いてしまい…お騒がせして…」

「………」

気まずい空気が流れている。

先程まで騒いでいた男は、落ち着いたためかひどく居心地の悪そうな様子だ。

「…………では、ひとまず話はついたので…お引き取り願えますかね」

「まあ…そう、ですね…」


3人のいる建物内へ入ろうとアオキがオモダカの夫に背を向けたところで、彼が口を開いた。

「本当に信じられないですよ…どうしてこんな…」

「………まあ…魔が差した、とでも言うしかないでしょうね…」

「そうでしょうね…」

背を向けたままで話をし、そのまま互いに反対方向へと歩き出す。

そして扉の前まで来たところでアオキが小さく呟いた。

「ええ…………我ながら、悪魔のようだと思いますよ」

果たして聞こえていたのかいなかったのか。それだけ言い残し、相手を見もせずにアオキは建物内へ消えていった。

月のない夜空は、変わらず暗いままだった。

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