無題
それに気が付いたのはいつのころだったか。
まずい。と。
陸八魔アル。
彼女が社長を務めている便利屋68。
彼女たちの交流を深めていくうちに、私は、その異常さに気が付いた。
思い返してみれば当然の話だろう。
なにせ、彼女たちにしてみれば便利屋にいるのは、恐ろしいほどに負担となる。
勿論、生徒たちの中にはより過酷な生活を営んでいるものもいるという。
だが、少なくとも彼女たちは、違うだろう。
彼女たちは、自分自身の力で便利屋よりもいい生活を送る力を持っている。
ならば、そこには、当然理屈以外で説明できるメリットがあった。
彼女たちは、陸八魔アルを愛し、そして、依存している。
ハルカなど、分かりやすい例であった。
暴走ともいえるそれらも、愛するアルに対するものと考えれば、納得ができるもの。
しかし、それは、ただ、ハルカが取り繕わないだけ。
表には出ていないだけで、ムツキとカヨコ。
その二人の異常性も、時折耳にしてしまう。
曰く、アルを悪く言ったものの多くは、次の日から行方が知れない。
曰く、便利屋をはめた企業が翌朝謎の爆発事故に巻き込まれて消滅した。
その他数多く。真偽不能ではあるが、たった一つ、共通しているのが、少し前に彼女に関わったこと。
詳しくは調べていない私でさえ、これほどの情報を得てしまえるのだ。
火の立たないところに、噂は立たない。
「……出てくれるかな」
数度のコール音。
そのあとに、僅かに接続を示す音が鳴る。
「どうしたの?先生」
「アル。……みんなはいる?」
「?いえ、今日は、みんな別の仕事だけれど。……もしかして、お誘い?」
「いや、そういうのじゃなくって」
彼女に、調べていたことを、話す。
その間に、彼女が何か口を挟むことはなかった。
「……もちろん、真偽は、分からないけれど……。ごめん」
「?どうして謝るの」
「だって、これは」
誰が、どう聞いても、告げ口。
仲間を大事に思っている彼女には、どうあれ、うれしくない言葉だったはずだから。
「……かわいいでしょ?」
「え?」
だから、私は呆気にとられた。
彼女から発された声。
そこには、驚きも、私への失望も。
そこにある感情は、喜び。というべきだろう。
「大丈夫……ちゃんと三人とも、私の子、先生は心配しなくていいわよ」
そんな、何でもない風に、彼女は笑う。
いつも通りの彼女の声が、端末越し響く。
「それじゃあね?先生」
そんな、いつも通りに返す彼女に、私は、返事を返すことができなかった。