その実を貫くのは

その実を貫くのは


 ちりりとした痛みが耳朶に走る。

 噛まれたと分かったのは、首筋に吐息があたったからだ。

「え、エランさん!?」

 噛まれた耳を押さえる私に、彼が笑いかける。

「ずっとピアスを見ているから、付けたいのかなって思って」

「だからって、噛むことないじゃないですか!」

「ごめんごめん」

 怒る私に、笑いながら謝る彼。

 少し前なら、彼がこんな風に笑うなんて知らなかった。彼の新しい一面を知るのが嬉しいと同時に、頭の奥に何か靄がかかったような感じがする。まるで、何か重大なものを見落としているような――。

「それで、そんなに気になる?」

 白く先の尖ったそれは、以前付けていた物とは違い、ひどく鋭利な印象を受ける。

「前の、ふさふさした物から変えたんですね」

「似合わない?」

「いえ。今のピアスもエランさんにとても似合ってます!」

「ありがとう。凄く、嬉しいな」

 そう言って、抱きしめてくる彼。いくら部屋の中で二人っきりだとはいえ恥ずかしい。

「スレッタも、付けてみる?」

「え?」

 先程、噛まれた耳朶に口づけるように囁かれる。首筋に当たる吐息がこそばゆく、思わず身をよじり、離れてしまった。

「冗談だよ。いくらお揃いとはいっても、君の身体に傷はつけたくないな」

 でも――

 手袋をしていない彼の手が、耳を撫でる。

「それでも付けたくなった時は、僕にあけさせてね」

 熱を持った瞳が近づいて、額がぶつかる。

「駄目?」

 綺麗な緑色の瞳がこちらを貫く。

 触られた耳がとても熱い。

「そ、そのときは……よろしくおねがいしま、す?」

 なんとか絞り出した言葉に、彼は嬉しそうに笑った。

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