無題_01
久々に浮上した船の甲板で、久々にベポと共に昼寝を堪能していた。
数日潜水航行してたのもあって、日の光を浴びるのは気分が良い。溜まっていた洗濯物も全て干し終え、あとは暫しの自由時間。船長室に籠っていた間、碌に構っていなかったベポから「一緒にお昼寝しよ~」と誘われ、特に断る理由もなかったのでその誘いに乗った。喜ぶベポに和みつつ、いつも通りにベポの腹を枕にして、二人で昼寝に興じた訳だったのだが。
僅かに感じる重みで、目を覚ましてしまった。折角の休息を邪魔されたとあって、自然と眉間に皺が寄る。誰が邪魔をしてくれたのか。久々の安眠を妨げた不届き者の正体を見てやろうと視線を下げると、紅白に分かれた髪が腹の上で広がっていた。
人の腹を枕にして眠っている、安眠妨害の犯人。そうか、コイツが。人の眠りを妨げておいて、当人はぐっすり眠っている。いっそ起こしてやろうかと、指先で頬を軽く突くと、むにゃむにゃと口元を動かした。
「ふふ……ろぉくん……」
あまりにも嬉しそうに名前を呼ぶものだから、それ以上指を動かすことも出来ず。驚き固まっている間に、不届き者は頭の位置を動かして、寝るのに最適な場所を探し始める。気付いた時には、先程よりも顔の位置が近づいていた。そうなると、今にも涎を垂らしそうになっている間抜けな寝顔もハッキリと目にする事が出来る。
「……ガキか」
口から出たのは悪態交じりの言葉ではあったが、自分の口元が僅かに緩んでいる事は理解している。指先で長い前髪を払うと、普段は鬱陶しいくらい見つめてくる菫色の瞳は閉ざされている。それが少しだけ残念だと、そう思ってしまう程度には、この子供っぽさが抜けない彼女に絆されているようだ。
無理に起こしては後が煩いし、このまま寝かせておこう。誰にも聞かせない言い訳を自分自身について、体勢を戻して眠りにつく。このまま寝てて寒くないかとも思うが、どうせペンギンたちが様子見ついでに掛布を持ってくるだろう。他の船員たちも、様子を見こそすれ、邪魔をするような真似はしないだろう。なら自分は、日が落ち切る前にベポとこいつを起こせば良いだけだ。
(俺も甘いな)
だが、こんな日があるのも悪くはない。
久々に浮上した船の甲板で、そのまま久々の昼寝の時間を満喫する事にした。