無題
(青少年保護育成条例違反 児童福祉法違反 不同意性交等罪……は、ないか)
少年──虎杖を組み敷き、ネクタイで目隠しを施しながら、日車の脳は職業病を遺憾なく発揮していた。
念の為に言い添えておくと、双方同意の上での行為である。ただ、現状がそれ以前の問題であることは言い逃れの余地がない。
とはいえ、社会での名誉など今更どうでもよかった。日車の罪悪感は、有象無象の世間などではなく、今まさに何の抵抗もなくベッドに横たわっている子供のみに向いていた。
「いいのか」
「いいよ。……俺の方こそ、本当にいいの」
「言っただろう。俺を『使う』ことで君の気が済むのなら、それで構わない」
日車の返事に引っかかるところがあったのか、少年は不意にむっつりと押し黙った。
「どうした」
「……別に、なんでもねえよ。始めるぞ」
「待て、念の為の最終確認だ。今ならまだ引き返せる。君の膂力なら、俺など簡単に」
「さすがに恥ずいから早く決めてくんない!? するの? しないの?」
照れ隠しじみて声を張り上げるさまが、あまりにも年相応に子供じみていて、ふと笑いが漏れた。
あの瞳を隠してもなお、眼前の子供は眩しい。それを思い知らされたようなこころもちがした。
「すまない。始めよう」
虎杖のシャツの隙間から、そっと手を差し込んだ。
かさついた中年の指が、しっとりと湿っている子供の肌を、ゆるく往復する。そのたびに、腹筋が小さく震え、腰が揺れた。
仕事一筋の人生に、肉体での触れ合いが入り込む余地はなかった。よって、世辞にも巧みな愛撫とは呼べないはずだったが、虎杖の身体はいちいち敏感な反応を返す。
「そういう……の、やめろ、って」
だというのに、子供はそんなことを言った。言葉の合間をぬって吐き出される息は、どう見ても快楽を拾っているのに。
「いきなり勃たせるのはきついだろう」
「いいから」
「これくらいはやらせてくれ」
「じゃあアンタにも同じことするよ」
思わず顔をしかめた。目隠しの少年は、こちらの反応を見ていたかのように「嫌だろ」と言った。
「ヒキョーな言い方してごめん。でも、俺もたぶん日車と同じで、きっと」
「……俺と君は違う」
「俺はいいの。若いし」
「答えになってないが」
「それに、えっと……ああもう」
もどかしげに言葉を切り、虎杖は両足を器用に日車の腰へ回して力を込めた。されるがままに男の腰が落ち、股ぐら同士がこすれ合う。
「、」
息を吐いたのは、日車の方だった。ズボン越しでもわかる芯の通った膨らみが、いまだ兆していない日車のそれをやさしく刺激した。
思わず、喉を鳴らして笑った。
「なるほど、若いな」
「だから平気なんだって。痛いのには慣れてるし、アンタの好きに『使って』くれれば」
「駄目だ」
許容しがたい一言に、自分でも驚くほど厳しい声が出た。不意の怒声に、組み敷いている身体が一瞬こわばったのが見て取れた。
「……ごめん」
「……いや、俺こそすまない」
気まずい沈黙が落ちる。振り切るように声を上げたのは、やはり虎杖だった。
「日車は、準備してきたの」
「……ああ、見よう見まねではあるが」
どうせ最後には脱ぐのだ、早いか遅いかの違いだろうとベルトを抜き、スーツのズボンを下ろす。ついでに下着もさっさと脱ぎ捨てた。
性器の奥、平時であれば窄まっている部分から、透明な粘液が涙のようにつうとこぼれ落ちた。