無神論者よ、盲目を射れ

無神論者よ、盲目を射れ


私は、いわゆる宗教二世というものでした。


母はどうも事故にあい精神の弱った時につけこまれたようで、それはもう心から神とやらを信じ込んでおりました。父は教祖から紹介された相手だったようです。

小さなころから教義を脳に刻まれ、ムチで躾けられてきた私が染まらずいられたのはほかでもない呪霊の影響です。さまよい歩くかつて人であったバケモノが教会には所狭しとひしめいておりましたから、神の浄化の力など信じられなかったのです。


うちは貧乏でした。入ってくる金はほとんど教会への献金に使われてしまいましたから、給食費すら払えずにいました。幸いクラスメイトは善良な子ばかりで私に優しくしてくれましたが、どうにも罪悪感が募っていました。

それで、小学校中学年くらいになったころだったと思います。クラスの好きな子にバケモノがしがみついているのを見て、思わずひっぱたいてしまったのです。そうしたら今まで見てみぬふりをしていたバケモノがチリになって消えていったのですから、それはもう驚きました。

初恋のその子は何が起きたのかわからずあたふたしていた気がします。それでも朝からずっと悪かった体調がよくなったと、お礼を言ってくれました。ええ、本当に優しい、きれいな心を持った子だったのです。


バケモノを殺すことに自分の価値を見出した私は、見かけたバケモノを片っ端から殺すようになりました。そのうち何かの力のようなもの…呪力の存在にも気づき、コントロールをひたすら練習しました。それを全身に回すとムチで叩かれてもあまり痛くならないと分かってからは、生きるのが少々楽になったと思います。

初恋の子とは、それからも仲を深めておりました。田舎で一学年に一クラスしかないようなところでしたから、六年生になるともう恋人のような距離感でした。


そして、中学に上がってからついに正式にお付き合いをすることになりました。この時が、私の人生の絶頂だったのでしょう。相変わらず小遣いもない貧乏だったので豪華な場所には行けませんでしたが、近所の公園でも二人でいれば最高のデートスポットでした。

そんなある日、教会の集会に行かなかったことが母にバレ、私は久しぶりにムチで叩かれておりました。それだけならよかったのです。タイミングの悪いことに、あの子がうちに来てしまったのです。忘れ物を届けに来てくれた彼女に、母は包丁を持ってそのまま…………


結局、彼女の顔には消えない傷が残ってしまいました。刺されなかったのは、私が初めて術式を使い、母に事故の記憶をフラッシュバックさせたからです。

母は精神病院に入れられ、父は蒸発し、私は遠くの児童養護施設に入れられることになりました。彼女には、謝れませんでした。会う事すら許されませんでした。

バケモノなんかより狂人の方がよっぽど怖いと知った私は、バケモノを殺し術式を鍛えることに全力を注ぎました。もうあんなことにならないよう、守る力が必要だと思ったのです。その結果、高専に目をつけられてスカウトされ、今の術師としての私になりました。


話が長くなってしまいましたね。自分語りに付き合わせてしまって申し訳ありません。

…ああ、例の教会ですか?教祖や上層部が軒並み精神病を患ってしまったらしく、もう存在しないそうですよ。

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