無気力ムツキと眼鏡のアル

 無気力ムツキと眼鏡のアル

イッチ

 

今日この頃、ムツキは珍しくどこか無気力気味な様子が続いていた。

いつもならば「今日はどんなイタズラしようかな?」と小悪魔みたいな可愛らしい(大体は私に被害が及んだりする)笑みを浮かべているのだが、最近になってムツキはどこか遠くを見るようになっていた。

私が目の前で手を振ってみてようやく「あ、アルちゃん」と蚊の鳴く声で反応する程度。

これは我が便利屋68の大事件だ。社員の問題は社長であるこの私、陸八魔アルの問題でもある。

早速、ムツキが何故そこまで無気力となってしまったのかを探ってみようと思う。

追記:目星すら付かなかった。一体どこにいるのかがまるで見当がつかない……

 

「と言う訳なのよ……何か心当たりはないかしら?」

対処法が思いつかなかったので、カヨコに相談してみた。

「うーん……」

流石のカヨコも頭を悩ませてしまっている。カチコチと秒針の刻む音が大きく聞こえてくるような気がした。

「本人がすぐそばにいるんだから、訊いてみれば?」

カヨコが指さした先にはソファにムツキが寝転がっている。何をするでもなく、ただ天井を眺めているようだ。

「……重症だね」

もはやどんな顔をすればいいのかにすら困っているようだった。

 

「ア、  アル様……」と遠慮しがちにハルカが声をかけてきた。

ハルカが言うにはムツキはよく眼鏡と呟いているようだ。

「眼鏡……ね」

学生証の写真が思い浮かんだ。そういえば先生からコスプレ用眼鏡をもらった時とても喜んでいた。

「もしかすると……?」

試してみる価値はあるのかもしれない。

 

眼鏡を掛けてみたら、ムツキが復活した。

「アルちゃん!」

電池が切れた玩具から一転、水を得た魚のように活発になった。

もしまたムツキが無気力気味になったら眼鏡を掛けてみるのもアリかもしれない。

ただ、悪戯の被害を食らうのは大抵私なのだ。そう思うとたまには電池切れしてほしい気がしないでもないような……?

ムツキが元気ならそれでいい。今のところはそう思う事にする。

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