無双願望2──ライターと肝臓

無双願望2──ライターと肝臓


なんとなく、自分がやっていることが本質から逸れているのだと諭されているのは分かったが、試行、つまり「同じことを繰り返す」のに対して咎められた理由が分からなかった。

(お前が『何度でもやれ』って言ったんだろうが……!)

「納得いってない?あー……」

苦悩の表情を覗き、言葉を探している様子だった。紙を放り投げた勢いで、腕で顔を隠していたのに。

「なんていうか、やり方が違うんだよ」

トライ・アンド・エラーに「やり方」もクソもあるものか。そういうのに取り組むのって、脳死で考え無しにやるものじゃないのか。

「やっぱ納得いってないか。うーーーん……」

これまでにどの試行より踏み込んで助言しようとする姿勢に、何か心を打たれる感覚がした。諦めず取り組む姿勢を感心されたのか。


試行とは、脳死で同じことを繰り返すことではない。同じ……つまり何も変えずに取り組むのでは、結果が変わらないのも当然であったということ。

やはり俺が間違えていた、履き違えていた。やれと言われたことをできていなかったのだ。


少しずつ、意識する対象をずらす。頭の中に熱に関連する道具、現象、行動を、体のあらゆる部位を列挙し、片っ端から組み合わせて念じる。


「ライター」「摩擦」と「肝臓」。初めて感熱紙を黒化させるのに成功した、熱に関する概念と体の部位の組み合わせである。


「お!」

試行が成功した途端、待ってましたとばかりに師匠が解説を入れ出す。先にやってほしかったが、一度成功しないと直感と結びつかないのだろう。

あとで本でも読んだが、直に説明を聞く方が気が引き締まって分かりやすかった……気がする。



ライターは、知り合いとバーベキューに行ったときに着火係を任されて、使ったことがある。摩擦は、父親に教えられて感熱紙レシートを、噛み癖で常人の半分もない爪で擦ったときの体験。これは個人差のある、体験によるもの。

魔法の本質は肝臓だ。消化サイクルの中で数百もの役割を担う肝臓には、「この世界」では魔力の行使に関わる、生命維持に直接は関わらないような余分な役割が担わされているらしい。

「魔素」の造成。これは普遍的に存在する食物全般に含まれている、特定の栄養素から造られる。造成された「魔素」はすでに死んでいるものを含めた生物のほかに、特定の鉱物にも貯蔵される。そして、「魔素」は他の「魔素」によって押し出すことができる。つまり、新たに魔素が造られ続ける限り、体の中を魔素が流れる。

その魔素を、体のあらゆる細胞が代謝することで、いわゆる「魔法」が起きる。そして、その代謝する力の大小を「魔力」と呼び、魔法の種類は科学的なエネルギーの数だけ存在する。


「疲れた……」

ご存じの通り、なにかを達成するのは楽しいものだ。結果さえ見合えば、達成までの間にフラストレーションが溜まるほど喜びも大きくなる。

それでも達成のために頑張ることはどうも好きになれない。楽しいのは一瞬、苦しむのは一瞬よりずっと長い間だからか。

「長話が?」

決してそんなわけじゃない。むしろ科学には他の学問よりも興味があるし、食いついて聞いていたはずだ。それに、長くはなかった。

「特訓の方ですよ。……できないとイライラするから」

何か、俺が持っていた悩みの要因に気づいた様子だ。

「これはそもそも、いきなりできる方がおかしいタイプのあれだよ。普通は何ヶ月もかけてようやく──」

「そうじゃなくて、もうできる人に『君にもできる』って言われても、『お前ができるだけだろ』って……」

対話は時に、秘めた本心を引き出す。

「あー、『周りができてるんだから自分だって……』って?でもスタート地点違うんだから、そこは仕方ないんじゃ」

「理屈じゃわかってるんですけど……うーん」

整然としないことを喋ると嫌な気分になる。癇癪ぎみに爪を噛み始めた。

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