“火災”と“海賊狩り”
・ゾロがルナーリア族
・くまに飛ばされた先がシッケアールではなく鬼ヶ島
・CP要素なし
・キャラ崩壊の可能性
以上の要素でお送りいたします
おれが奴に出会ったのは、二年前になる
カイドウさんの命で付近を彷徨いていた海賊共を討伐した帰り、突然空から降ってきた
白ではなく鮮やかな緑の髪、褐色ではなく日に焼けたような肌をしていたが、背中にある黒い翼がこいつを「同族である」と否応無しに認識させた
そして一度同族と認識してしまったら、放っておく事もできなかった
こうしておれは奴を島に連れて帰った
意識を取り戻した奴は起き上がるなり「ここはどこだ」「シャボンディ諸島に戻らねェと」と騒ぎ始めたが、カイドウさんが留守にしている間は絶対に部屋から出さなかった
それから暫くして新聞を読んだ奴は騒ぐのを辞め、「おれを鍛えてくれ」と頭を下げてきた
もっと強くなりたい、新世界で通用する強さを手に入れたいと
奴が百獣ではない海賊団にいる以上、この先おれ達へ戦いを挑んでくる可能性もあるだろうと、おれは“大看板”としての立場から警告した
おれ個人としては、数少ない同族と戦うという事態を避けたかったのかもしれない
だが深酒で笑い上戸な状態だった上、奴に何かを見出したカイドウさんが「おもしろいじゃねェか。それにたったの二年だ」と言った事で、期限付きで奴の面倒を見ることが決まった
この二年間、おれが奴に呆れない日はなかった
ちょっと散歩に行ってくると言って部屋を出たと思ったら、ページワンの部屋やササキの部屋で昼寝をしているところを発見されたなんて事はしょっちゅうだった
クイーンのバカの研究室やブラックマリアの部屋、ヤマトのいる部屋に入ろうとしていた時はさすがに止めた
まァ、どんな時でもおれの部屋以外ではフードとベールを外さないという言いつけを守ってくれたのはありがたかったが
奴を憎いと思ったこともあった
己が“何者”なのかを全く知らなかったという事に対して、そしておれが持っていなかったものを持っていた事に対して
奴は平穏を知っていた
友を持ち、愛を与えられ、親から貰った名を捨てることもなかった
おれは同族たる奴が穏やかに生きていられた事に安堵し、同時に強い憎しみに駆られた
そして、奴を「もったいない」と思った
同族の贔屓目もあるだろうが、奴は強くなる
ちゃんとした訓練を積めば飛び六胞…いやおれと同じ大看板になれるだろう
だがそんな事は奴の頭の中にはない
何せルナーリア族特有の発火能力を制御したい理由が「カレーが焦げないようにしたい」だからな
何より、どんな時も奴の答えは決まってこうだった
「おれを仲間にしたいのか?なら、答えはノーだ」
ああ、本当にもったいない
そんな今日は奴が鬼ヶ島で過ごす最後の夜
夜明けと共におれ達はシャボンディ諸島に向けて出発する
「ゾロ」
おれが声をかけると、奴は口を付けようした酒瓶を置いて振り返る
二人っきりでいるからか、フードもベールも付けていない
「なんだ?」
「本当に、行くんだな」
おれの問いかけに奴は「アンタも随分しつこいな」と返す
「何度も言ってるだろ。おれは百獣海賊団に入る気はねェ。そもそも、海賊自体好きか嫌いかでいうなら嫌いだしな」
「なら何故海賊になった?」
もう一つ投げた問いかけに、奴は「約束したからだ」と答えた
「ゾロ」
「なんだ?」
「この先、おれとお前は戦う事になるだろう。お前の船長が海賊王を目指すというのなら」
「だろうな」
おれの言葉に奴はなんの気もなく応える
「その時は、たとえ同族だろうと容赦はしない。お前に遠慮は無用だと、この二年間で理解した。百獣海賊団として、大看板として、必ずお前を叩き潰す」
その言葉に奴は頷き、「ああ、そうなった時は必ずお前を倒す」と返して酒を煽った
その後、おれ達は予定通り鬼ヶ島を出発し、無事シャボンディ諸島に到着した
「キング、ありがとな」
「ああ、気をつけて行け」
「おう、じゃあな」
そう言って歩き始める奴の背中を見送る
そして何を思ったのか、おれは奴を呼び止めた
「ゾロ」
「?」
「おれは、アルベルだ」
誰かが聞いているかもしれない中、おれは奴に名乗った
奴は立ち止まって少しだけ振り返ると、また歩き始めた
奴は何も言っていなかった、だが確かにこう言った
「じゃあな、アルベル」と