濁世は毒まみれ、悪世は鬼ばかり。

濁世は毒まみれ、悪世は鬼ばかり。

189氏より


「君に声をかけるおじさん達はね、みんな君のことが好きなんだよ。だっておちんちんは好感度メーターだから。君を前にして上がれば上がるほど、それだけ君への愛の証なんだよ。人からの好意を否定するなんて駄目なことだと思わない? 自分はたくさんの人に愛されてるんだ、ありがたいな、嬉しいなって笑って受け入れるべきよ。そして愛へのお返しに股くらい開けば良いじゃない」


 親のすすめでカウンセリングを受けに行った精神科の先生にそんなことを言いきってから苛立ちの籠った溜息を吐かれた時、糸師冴はどんなストレスを抱えていても2度と怪我や病気以外では病院に行かないことを決めた。

 ハズレを引いただけだ。世の中のお医者さんの殆どは立派な人だ。あんな輩は例外の中の例外だ。わかっているのに、自分の中の精神科医への信頼をあの医者1人が食い潰してしまった。

 後から噂好きの主婦たちに教えられたことだが、どうやらあのアラフォーの女医には好きな異性がおり、こともあろうにそいつが冴への性的暴行未遂で捕まったのだという。心当たりが多すぎてどいつのことかは分からなかったが、だからあんなに癪に触る態度で対応されたのかと腑に落ちた。要するに嫉妬と八つ当たりだ。

 私の好きな男がこんなガキを好きで、こんなガキのせいで私の好きな人は服役することになった。それが許せなかったに違いない。知るかそんなこと。変態だけでも手一杯なのに、変態の家族や親戚や友人のことまで気にかけていられない。ましてや片想いしていただけの女の物語に勝手に悪役として登場させられて堪るか。

 濁世は毒まみれ、悪世は鬼ばかり。理解してはいたが忌々しい。ただ被害を受けているだけなのに、世の中にはそれを『モテている』と解釈して良い気になるなと悪意を向けてくる者さえいるのだ。あの女医だって、たぶん冴からの相談をモテ自慢アピールか何かとして浅い受け止め方をしていた。ハナから真面目に取り合っちゃいなかったのだ。


「あんなもんが愛なワケあるかよ、クソったれ」


 吐き捨て、冴は久方ぶりに夢に出てきた女医の記憶を振り切るように寝起きの頭髪を掻き乱す。

 自分と凛の間にある兄弟愛。自分たちと両親の間にある親子愛。愛とはああいう暖かで優しいものだ。性器を膨らませることじゃない。

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