潔黒
「潔は北極星、ポラリスが何等星か分かるか?」
風呂上がり、髪をタオルで拭う潔に黒名が問いかけた。ベッドに胡座をかいて座る黒名の手元にはタブレット。黒名はそれを操作しながら潔の回答を待っている。
「え〜星って一等星が一番明るいんだろ? なら一等星じゃねえの?」
「それが二等星らしい」
黒名は普段は三つ編みにしている髪を弄びながらタブレットで検索した画面を覗き込む。北極星を中心に、満点の星々が円を描くような、見事な写真が映されている。
ポラリス。こぐま座のアルファ星。旅人を導く星。正確には天の北極そのものに位置するわけではないらしいが、それはともかく。回る星々の中で中心にあるのも、人々に導とされるのも、潔とよく似ている、と黒名は思った。
「へー。黒名って星詳しいの?」
「いや詳しくはない。普通普通。ただ、なんとなく調べてたら知っただけだ」
この青い監獄では、多くの人間が潔に惹かれている。才能の、強さの、あらゆる輝きを放つ人々が集まるこの檻の中で、他にも強烈な光を放つ者もいる中で。皆潔世一に目を奪われている。周りを回るもの。それに触れようとするもの。目標とするもの。反応はさまざまであるけれど。
サッカー中は青を深めるその目が、本物の星のように瞬いて。天から覗き込むようにフィールド全体を見下ろす。それを無視できる人間はいない。
丁度席を外しているが、同室の雪宮だって、氷織だって、潔に光を見ている。
ただ、黒名は潔の惑星という席を、他の誰にも譲る気はない。これは黒名が掴んだ特別だ。
今は苛烈な光をすっかり潜めている潔の目が黒名の手元、タブレットに表示された写真に向けられる。
「綺麗だな〜。あ、そうだ。次の休みのとき、プラネタリウム行かねえ?」
「良いな」
「誰か他に誘っても良いし、二人でも良いよ」
黒名はちらりと潔を見上げた。タブレットを覗き込むため身を屈めている潔の頭から、拭いきれていない水滴が落ちる。
潔のその顔から、発言の意図は読み取れない。潔が黒名と二人を望んでいるのか、それとも大人数で遊びたがっているのか、黒名にはわからない。だから、自分の好きな方で答えることにした。あの時潔に一点賭けをしたように、ここで勝負をするべきだと、本能で感じ取った。
「……じゃあ、二人で行こう。惑星ホットラインで星座鑑賞だ」
「ん、二人で、な。楽しみだな」
「楽しみ楽しみ」
どうやら今度の勝負も黒名の勝ちのようだ。潔につくと決めた時から、黒名の勝負感は随分と冴えているらしい。
潔が力強く黒名の頭を撫でた。
「そのためにはこれからも活躍しないとだ。頼むぜ、俺の惑星」
「ああ。俺の恒星」