漬け置きシュン

漬け置きシュン


 山海経の訓育支援部「梅花園」の教官を務める春原シュンは、ある事件をきっかけに時たま身体が9歳にまで若返る体質となった。

 すでに解毒剤もあることから本人はその体質を苦にしておらず――というよりむしろ若返ることを歓迎していた。9歳の身体になった際には『シュエリン』を名乗り、日頃の鬱憤を晴らすが如く遊び回っており、その日も例に漏れずシュンはシュエリンとして昼過ぎまで遊び倒した。


(でも……そろそろ戻らないといけませんね)


 身体はそのままだが、心は急速に『シュエリン』から『春原シュン』へと戻っていく。


(みんなのご飯と、来週の分のプリントも作らないと。『シュエリン』で英気は養えましたし、今晩も頑張るとしましょう)


 シュエリンは土管の中で自らの頬を軽く叩いたのち、解毒剤を手に取った。今飲んでおけば家に帰ってから少しする頃にはシュンに戻れる。そういう算段の元、彼女は解毒剤を飲み込んだ。

 そうしてシュンが土管から這い出し半身を出した時であった。シュンの視界が突然真っ暗になった。次の瞬間土管から引きずり出され、体が上下逆さまになる。藻掻こうにも周りは柔らかいもので覆われており踏ん張りが効かない。

 袋か何かに詰められている。そう気が付いたときにはけたたましいスキール音がシュエリンの耳をつんざいた。

 わずか数秒の出来事であった。スライドドアが開いたまま走り込んできたワゴン車にシュンを袋に詰めた三人組が飛び乗ると、ワゴン車は急発進でその場を去っていった。

 空き地には静寂が戻り、そしてその場にシュンがいたという痕跡は何も残されていなかった。


+++++++++++++++


 山海経の自治区はお世辞にも治安がいいとは言えない場所であった。とはいえゲヘナのように毎時爆炎が飛び交うようなことはなく、そういう意味であれば割合平穏な自治区であったが、裏では表に出てきづらい組織立った犯罪が蔓延っていた。

 詐欺、賄賂、脅迫、薬物、密輸、資金洗浄、そして――人身売買。


「きゃっ」


 しばらく走っていた車が止まり、また袋ごと運ばれていたかと思うと突然放り投げられた。床に腰を強かに打ちつけたシュンが憤慨しながら顔を出したときには、すでに部屋の扉は閉まっていた。


(ここは……)


 シュンは状況を把握しようと振り返り、この部屋に閉じ込められているのが自分だけではないことを知った。

 薄暗く殺風景な部屋の中で、何人もの小さな子供が床に寝転んだり、隅で膝を抱えていたり、身を寄せ合っていたりした。皆新しく入ってきたシュンに目を向けてはいたが、そこに子供らしい好奇心などは見て取れない。疲弊と諦念によりただただどんよりと曇っていた。

 シュンの奥歯がぎりりと鳴り――しかしすぐに彼女の口は優しく弧を描いた。


「皆さん、こんにちは。私はシュンと言います」


 シュンは偽名(シュエリン)ではなく本名(シュン)を名乗った。子供たちから返事はないが、気にせずシュンは続ける。


「私は皆さんを助けに来ました。いっしょにここから出ましょう?」


 その言葉に何人かの子供たちが反応する。目を丸くしてシュンを見つめる子供。隣の子供と何か話している子供。その中でついにシュンに向かって口を開く子供が出た。


「ど、どうやって」

「あそこに窓があるでしょう? 一先ずあそこから出られないか試してみましょう」


 シュンが天井近くにある窓を指差すと、部屋は一気に落胆の雰囲気に包まれた。


「……無駄だよ。あんなところ手が届かない。あなただって全然届かない身長じゃない」

「ふふ、大丈夫ですよ」


 胡乱な目で見つめてくる子供にシュンは微笑んでみせる。その時、ドクンとシュンの心臓が一際強く鼓動した。同時にシュンは身体が熱くなるのを感じる。我がことながら、あまりに出来すぎたタイミングにシュンは笑いそうになった。視界がぶれ、ふらつきそうになる足を懸命に踏みしめる。

 子供たちから驚きの声があがる。シュンの身体はみるみる内に大きくなり、やがて『9歳のシュエリン』から『梅花園教官の春原シュン』へとその姿を変えた。


「さて。それじゃあまずはお姉さんと肩車をしましょうか」


 そう言ってシュンが手を伸ばす。シュンの前にいた子供はぽかんとした表情のままその手を取り、それでようやく現実感が湧いてきたのかくしゃりとその顔を歪めた。


 その後の詳細は省くが、シュンは見事子供たちを犯罪組織から逃がすことに成功した。

 ただしその身を犠牲にして、であったが。


+++++++++++++++


「いやあ、やってくれたなあ」


 湿っぽい地下通路を進む三つの人影があった。


「あんたのお陰であの拠点はパァだ。急いで撤収しようとはしたが、半分終わったところでどこかに襲撃されてもう壊滅したらしい。相手は玄龍門辺りかね。忌々しい」


 ぺちゃくちゃと喋っているのはスーツ姿のロボだった。その横では手にロープを持った戦闘用に装備を固めたロボが静かに歩いていた。

 そしてそのロープの先にはシュンの姿があった。顔にいくつか擦り傷を作り、いつもつけている髪留めは片方がなくなっていた。そして体には薄汚れた白い拘束衣を着せられていた。


「そういうわけで相当な被害額だ。到底足りはしないだろうが、あんたにはその補填をしてもらおうと思ってね。……おい、何か喋ったらどうなんだ。ん?」

「……子供を攫って売るような卑劣な人たちと話すことは何もありません」

「はっ。随分高潔なこって。……いや待てよ」


 スーツはシュンの顔をまじまじと見る。


「……お前まさか梅花園の教官じゃないか?」

「……だったらなんですか」

「おいおいマジかよ大物じゃねえか! そりゃ玄龍門があんなに早く来るわけだ!」


 スーツはオーバーリアクション気味に手を広げたあと、そのまま横にある扉を叩いた。重々しい音とともに扉が開き、中から衛生服を着た人物が出てくる。


「お待ちしておりました」

「こいつだ。ぶっ壊していい」

「よいのですか?」

「梅花園の関係者だ。万が一にも逃げられたら間違いなくうちは跡形もなくなる」

「ばっ……梅花園への手出しはご法度では」

「だから隠蔽するんだよ」

「……承知いたしました」


 シュンは部屋の中につれられ、土下座のような恰好をさせられた。床に金具で固定されると、下を向いた胸の先に空のバケツのようなものを置かれた。さらに床から伸びる鎖と首元にある輪が繋がれる。続いてシュンの胸元に手が伸ばされ、パチンと何かを外す音がする。


「……っ」


 胸を覆っていた布がめくれ、中からゆさりと剥き出しの真っ白な乳房が現れた。シュンの顔が羞恥で赤く染まる。

 布が背中側で留められると、首の鎖が巻き取られ始めた。シュンの大きな胸がすっぽりとバケツに入ったところで鎖は動きを止めた。

 衛生服は最後にシュンの拘束を再度チェックすると部屋の外へと出て行った。

 扉の閉まる音の残響も消え、部屋にはぽつんとシュンひとりだけが残された。


(ココナちゃん、梅花園のみんな……先生。私、みんなの顔をまた見ることはできるのでしょうか。……いけないいけない! 弱気になっては駄目。あの子たちが知らせてくれたのか、玄龍門が動いているのです。あとは時間の問題、それまで耐えればいいだけ)


 唯一まともに動かせる頭を振り、シュンが弱気な心を振り払っていると、突然部屋にゴボゴボと水の音が響いた。どこからの音なのかシュンが目を左右にやっていると、真下から一際大きな音が鳴った。

 見ると、バケツの底にある穴から赤く透き通った液体が泡立ちながら出て来ていた。思わずシュンは身を引こうとしたが、どこもかしこも固定された身体が動くことはなく、ただ柔らかな胸がふるふると揺れるだけに留まった。

 赤い水はぐんぐんと水位を上げ、ついには胸の先端、色素の薄い乳頭が呑み込まれた。


「ひっ……」


 ぴりっ、と胸の先から背中にまで刺激が走った。シュンの口から声が漏れる。


(今のは……いえ違います! 絶対に違います!)


 赤い水は止まらず、さして大きくもない乳輪をあっという間に呑み込み、少し縦に伸びた乳房本体も呑み込み、胸の付け根まで浸からせると溢れる直前でようやく止まった。

 その間にもぴりっ、ぴりっ、とシュンの神経は刺激され続けた。水が止まってもなお、液体が触れている部分から刺激が与えられる。


「ふぅーっ、ふぅーっ……」


 シュンは大きく呼吸をして落ち着こうとするが効果はなく、むしろ荒いものへと変わっていく。


 ぴりっ。ぴりっ。

(違います……違います!)


 ぴりっ。ぴりっ。

(そんなはずがありません……!)


 ぴりっ。ぴりりっ。

(この刺激は、例えば唐辛子を舌に乗せたときのようなもので……!)


 ぴりっ♡ ぴりりっ♡

(『気持ちがいい』なんてことは、絶対に……っ!)


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 ――きっかり24時間後。部屋の扉が開いた。むわりとしたメスの匂いに軽く頭を振りながら衛生服の人間が中へと足を踏み入れる。


「ぁっ……ぅ……♡」


 あれからずっと胸からの刺激に炙られ続けたシュンは意識を朦朧とさせていた。部屋に人が入ってきたことも、入ってくる直前に赤い液体がすべて排出されたことも気づかず、ヘイローを明滅させる。

 衛生服はシュンの首元の鎖を外し上半身を起こさせると、今度は別の鎖でその体勢に固定した。シュンの胸に残った赤い液体を脱脂綿で優しく吸い取ると、壁にかけてあるチューブに繋がった金属製の筒を手に取った。それをシュンの右胸の先端に宛い、手元のリモコンを操作した。

 シュゴッ、と急激に空気が吸い込まれる音がした瞬間だった。


「――っぉぉおおおおぉぉぉおおっっ!?♡♡」


 シュンは目を見開き、身体を仰け反らせ――ようとしたが、固定金具によりそれは失敗した。


(何、なに、っが♡♡ お゛っ♡♡)


 覚醒したシュンは状況を把握しようとしたが、バチバチと頭の中で何かが弾けるような感覚に襲われ、あっという間に脳はピンクで埋め尽くされた。

 右胸には金属の筒が食いついており、その中で何が起きているかは見えなかったが、左胸を見れば自然と窺い知れた。

 小さくて少し分かりにくいが、シュンの左乳首は何も刺激を受けていないにも関わらずピンと固く尖っていた。そしてその先端からはとろとろと白濁した液体を零していた。

 あの赤い液体は組織が新しく開発した媚薬、それも薄めて使うものを逆に濃縮させた劇薬であった。そんなものに一日中漬けられたシュンの胸はもうすっかりバカになってしまっており、妊娠もしていないのに母乳を出し、母乳を出すと脳を灼き尽くす快感を送り出す欠陥器官となってしまった。

 衛生服は左胸を持ち上げるとそちらにも筒を当て、リモコンでスイッチを入れた。


「ぉ゛――――――っっ♡」


 ほとんど声になっていない声をあげ、シュンはガクガクと身体を揺らす。理性は起きたと同時にずたぼろにされてしまったため、残った本能が少しでも快楽から逃れようと身体を捩ろうとした。しかし固定具によりすべての試みは失敗に終わり、シュンは余すところなくその快感を一身に受け止め続けた。

 時間にして3分ほど経った頃、ピーという高い電子音が鳴り、右の搾乳機が停止した。程なくして左も同じように止まる。

 衛生服は首を傾げる。壁のパネルをタッチし、数値を見てまた首を傾げる。

 しばし勘案したのち、電話を取り出した。


「もしもし。彼女のことなのですが。……ええ、そうです。新薬に対して耐性があるようでして。……サンプルが少ないので確かなことは言えませんが、恐らくただの個人差かと。ですので少し時間はかかりそうです。……ええ、時間がかかるだけです。……わかりました。それでは」


 衛生服は電話を切ると、シュンの胸から搾乳機を外した。「ぉ……♡」と小さく喘ぐ声を気にする様子もなく、またシュンを土下座の体勢にすると部屋を出て行った。


+++++++++++++++


 ピリッ♡ という刺激でシュンは目を覚ました。シュンが目を開くとバケツの中の真っ赤な液体に根本まで浸かった自らの乳房が目に飛び込んできた。それを見て、これまでのことを思い出したシュンは目の前が暗くなったように錯覚した。


(こんなことを続けられて、耐えられるのでしょうか……。私が壊れる前に、どうか、誰か……)


 ピリッ♡ ピリッ♡

「んっ……♡」


 次の日。シュンの胸は5分で搾乳が止まり、母乳の量は前日の倍になった。

 次の日。シュンの胸は10分で搾乳が止まり、母乳の量は前日の4倍になった。

 次の日。――――

 次の――――

 ――――


 7日目。


「お゛ぉぉぉっ♡ お゛っお゛~~――~~っ♡♡」


 シュンは今日も両胸に搾乳機をつけられ、低音の喘ぎ声をあげていた。

 シュンの乳房は元と比べると明らかに一回りは大きくなっており、それに比例するように母乳の出る勢いは初日の比ではなくなっていた。もはや「噴く」という表現が適しているような出方をしており、搾乳機のボトルの目盛りがみるみる内に乳白色に染まっていった。やがてメモリを超えるとピピッと短く二回電子音が鳴り、搾乳機が停止した。これは初日の「搾るものがなくなったための停止」ではなく、「ボトルがいっぱいになったための停止」であった。


「ぉ゛……ほォ゛ー……♡ お゛っ♡」


 ボトルを替えれば引き続き搾乳はできるのだが、今使い終わったのが予備のボトルであった。衛生服は仕方なしにシュンから搾乳機を外した。外した刺激でぶぴゅっ♡と乳首から母乳が飛び出す。


「へっへっへっへっ……♡♡ ふぅーッ♡ ふぅー……ッ♡」


 シュンは必死で息を整える。まだたっぷりと蓄えてられている母乳が呼吸に合わせて先端から滴り落ちる。


(まだ……大丈夫です。私は、私。なんとか、今日も乗り切りました……)


 シュンの忍耐力は驚異的なものであった。元よりかなり忍耐強い気質であり、「姉」という立場と「梅花園」という環境がそれをさらに強固にしていた。


(帰ったら、みんなには寂しい思いをさせてしまったでしょうから、目一杯一緒に遊ぶとしましょう。ココナちゃんもとても不安に思っているでしょうから……ふふっ、久しぶりに姉妹だけでお出かけするのもいいかもしれませんね)


 そしてそのふたつは「帰ったあとのこと」を考えるシュンの心の支えにもなっていた。さらにシュンには最近もうひとつ心の支えとなるものができていた。


(先生には……目一杯甘えさせてもらいましょう。いつもよりわがままを言ったって許してくれるかもしれません)


 そんないじらしい恋する乙女のような思考は、しかし唐突に中断させられた。


「あっ……んぅぅっ?♡♡」


 今までにない胸からの刺激に、シュンの口から困惑した喘ぎ声が漏れる。シュンが目を開くと、胸にゴム手袋をつけた手が乗っていた。


「え? んっくぅっっ♡♡」


 これまでになかったことに戸惑うシュンは、乳輪をすりすりと擦ってくる手に母乳を噴き出した。

 シュンの後ろに回って胸に文字通り手を出しているのは、衛生服であった。

 しかしその顔は不服そうなものであった。「あの薬液だけでどうなっていくのか経過観察したかった」とか、「こんなこと自分の役割ではない」とか、「そもそも自分は異性愛者だ」とかそんなことをつらつら考えながらも、上司に命令されたので仕方なしにこんなことをしていた。


「何か期待しているようですけどね」

「ふぅー、ふぅー……?♡」

「玄龍門が捜索を打ち切ったようですよ」

「えっ……ンぁっ♡♡」

「一週間経っちゃいましたからね。うちの組織の逃げ切り勝ちです」

「そんな、ぁッ……♡ 嘘、で……っっ♡♡」


 衛生服の指がシュンの乳首を捉えた。シュンの言葉が強制的に途切れさせられ、びゅっ♡と母乳を噴く。


「……っ♡ ……っ♡」

「なのであなたは母乳生産機になることが確定しました。一生ここで母乳を搾られるんです」

「い、いやぁ……♡♡」

「だいたい今更ここから出てどうするんですか。おっぱいに何か当たったら母乳を噴いて、母乳を噴いたら頭真っ白になりながらイく身体になっちゃってるんですよ」

「お゛っっ……ほォ♡♡」

「もう治らないんですよ。薬液が染み込みすぎちゃって。園児の相手なんてできませんよ」

「あっ♡ あっ♡」

「考えてみてください。園児があなたに駆け寄ってきて、その胸に飛び込んで」

「あ゛ひぃっっ♡♡」


 タイミングを合わせて衛生服はシュンの乳首を捻る。薬の影響で多少大きくなったとはいえ、まだまだ小さめのそれを衛生服は捻った拍子にぷりゅん♡と母乳で滑らせてしまった。その刺激でシュンは母乳を噴き散らかす。


「その衝撃で今みたいに母乳を噴きながらイくんです。園児になんて説明するんですか? いや、全身びくつかせてるあなたに説明する余裕なんてないですか」

「はへッ♡ はへェッ♡」


 舌を突き出しながら震えるシュンの脳に、衛生服の言葉が沁み込んでいく。衛生服はシュンの乳首を再度探し当てると、くりくりと弄ぶ。


「妹さんもそうです。二度と抱き合ったり一緒のベッドで寝たりできません。今のあなたは寝返りを打ったが最後、自重でおっぱいを潰して母乳をシーツに吸わせながら絶頂による気絶と覚醒を繰り返すオモチャになっちゃいますからね。見せられませんよね、そんな姿」

「ほぉ゛ー……っっ♡♡」


 実演のようにシュンは胸を押し潰され、ゴム手袋と皮膚の隙間から白濁液の飛沫をあげた。乳腺を潰される感覚にシュンはヘイローを点滅させる。

 もういいかな、と衛生服は手の力を緩め、だいぶ母乳を出したことで柔らかくなってきた乳房をたぷたぷと揺らしてその感触を楽しんだ。本人は気づいていないが、最初嫌がっていたのとは裏腹に衛生服は結構ノリノリになっていた。


「……ふぅー、ふぅー」


 シュンが息を整え始めたのを聞き、衛生服は固まる。え、まだ折れてない。だからこういう洗脳みたいなのって門外漢って言ったのに。と頭の中でぐるぐると考えている内に、ひとつのことに思い当たった。


「もしかして『シャーレ』に期待してます?」

「っ!」


 反応は顕著だった。これだ、と衛生服はほくそ笑む。


「そっかー。そうですよね。知らないですよね。実はシャーレの先生はですね、昨日――」


 突然耳をつんざく警報音が鳴り響く。同時にすぐ外から怒号と銃声と爆発音がいっぺんに押し寄せてきた。


「うえぇ!? う、嘘でしょ!? なんでいきなり!?」


 衛生服は飛び上がりながら銃を抜く。そして手早くシュンを床の固定から外し、縄を掴んで隠し通路の扉を開け――9ミリパラベラム弾が何発も体に突き刺さり、もんどりうって床に倒れた。


「シュン!」


 隠し通路から人が飛び出てきた。シュンの耳に最早懐かしくも感じる男性の声が入ってくる。


「せん、せい……」


 シュンの目に涙が溢れ、自然と足が動き――縺れて倒れそうになる。


「危ない!」

「~~~~――っっ♡♡」


 倒れそうになる身体を抱き留められる。先生の硬い身体を感じながら、先生の匂いに包まれ――そして胸を潰されて母乳を噴き出しながら絶頂した。


(――ッッ♡♡ 先生っ♡♡ ~~~~♡♡)


 シュンの脳みそは一瞬でオーバーフローを起こし、先生の胸の中で気絶した。


「先生! まだどこに敵が――シュン教官!?」

「ミナ、本部まで護衛をお願いできる?」

「ああ、もちろん! こっちだ、先生!」

「いや、ナビゲートは私の方でするから!」


 こうしてシュンの一週間にも渡る長く過酷な監禁生活は、ひとつの犯罪組織とともに終わりを告げた。


+++++++++++++++


 結局衛生服が言っていたことはすべてシュンの心を折るための出任せであった。

 玄龍門は捜索を打ち切るどころかありとあらゆる人員と傘下の組織を動かし、さらに玄武商会にまで協力を要請しており。

 媚薬は「ぼく様にかかればこんなもの一週間で治るのだ!」と天才薬学者があっという間に解毒剤を作ってしまい。

 シャーレにも先生にも特に何か起きてはおらず、泣きじゃくるココナから電話がかかってきた日より、先生がシュンの捜索に駆けずり回っていただけであった。


 その後ココナと梅花園の園児たち、それに助けた子供たちと再会を果たしたシュンは、わんわんと大泣きする子供たち(ココナを含む)の頭を撫でながら、やっと帰ってこられたのだと胸を温かくするのであった。






 ただ、練丹術研究会の天才発明家である薬子サヤが「一週間で治る」と豪語していた母乳の出は、結局完治までに一か月以上を要した。「おかしいのだ……。母乳を搾るような刺激を与えさえしなければ長引くことはないはずなのに……あっ」とはサヤの言である。

 なお完治するまでの間、シュンが4度もシャーレの当番に泊りがけで行ったことに関係性があるかどうかは分かっていない。


<<終>>

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