漁師
~とある晴れの日、ゴーイングメリー号~
船の上で男二人が肩を並べて釣り糸を垂らしていた。
二人のうちの一人、鼻の長い男ウソップの糸が張る。それを見逃さずウソップは勢いよく竿を上げ見事に魚を釣り上げた。
「よし!!……なぁ、ルフィの兄さんや」
「…………どうした」
「おれ、20匹目なんだけど、ルフィは…」
「言うな!」
似たような姿勢で釣りをする二人であったが、近くに置かれたバケツの中身はまるで違っていた。
ルフィのバケツの中には2匹の魚が優雅に泳いでおり、対してウソップのバケツの中は魚が身動きとれない程に入っていた。
「なぁ、ルフィの兄さん…」
「………………どうした」
「あんた元漁師じゃなかったのか?」
「言うな!!」
つい先ほど、一味の料理人であるサンジが昼食をどうしようかと話をしていた時、漁師のおれが釣ってきてやるよ、と手をあげたのがルフィだった。それを聞いていたウソップもどうせ暇だしと付き合った結果、今に至る。
ちなみにサンジは、もうウソップの方から魚を数匹持って船の中へと戻っていった。
「1つ聞いていいか?」
「……なんだ」
「本当に、漁師で生活できてたのかよ?」
ウソップの疑問にルフィは、気まずそうに目を外側に向ける。
「悪魔の実を食べる前は最悪、素潜りで取っていたが。まァ後、釣れない時はマキノ…幼馴染の酒場の雑用をしたり…」
「したり?」
「八百屋のおっちゃんのペットの散歩をして野菜や果物貰ったり、山賊が暴れないように警備を引き受けたり…」
「それ漁師じゃなくて村の便利屋さんじゃねェか!!」
薄々感じていたことをズバリと言われルフィは、ぐぬ、と押し黙る。
しばらく唸っていると、急に顔を上げた。
「待ってろウソップ!大事なのは数じゃない!今からデカい海王類を…」
「いらねェよ!ほら飯が出来たぞ」
料理を終えたサンジが後ろから声をかける。
しかし漁師としてのプライドが傷ついているルフィは、
「待てサンジ!先にみんなで食べててくれ!今、デカい海王類の釣れる気配が…」
「だからもういらねェんだって!そもそもそんなの釣ったところで船が沈むだろ。おいウソップ手を貸せ」
「おう!」
「おいやめろ!離せ!は~な~せ~!!」
———
「ふふ…」
ルフィが二人に腕を掴まれて運ばれている様子を、遠くから見ていたウタは笑い声を漏らす。
「何、見てるのよ?ウタ」
そんなウタにナミが声をかける。
「ん?かわいいなと思って」
「…子供っぽいだけだと思うけど?まあ確かに、かわいいと言えなくも…ない?」
「あげないよ」
「え~?お兄ちゃんは、あんたのもんじゃないでしょ?」
「ナミィ~~~!!」
「ほら私たちも、ご飯食べに行くよ」
「待ってよナミ!駄目だよ!駄目だからね!!」
———
「今日も、平和だな」
騒がしさに目を覚ましたゾロがそう呟いた。