かつて正義”だった“男
観光業が盛んな温泉島【セカン島】
来島した観光客を温かく迎えるその島は
突如として発生した異常噴火によって地獄の様相と化していた。
ウワ-!? キャ-!
ニゲロ-!! ドイテクレェ!
オトウサ-ン! オカアサ-ン!
「ハッ...ハッ...ハッ...」
森林部でNEO海軍の雑兵を引き受けていたウタは傍目から見える崩壊していく街並みと見聞色の覇気によって聴こえてくる島民達の悲鳴と慟哭でウタの内心は不安と焦りが徐々に募っていく。
...今となってははっきりと思い出す、かつて自分が無知であったが故に引き起こしてしまったウタにとっての第ニの故郷エレジアの『悲劇』。その時の光景が今現在崩壊が進んでいるセカン島と重ね合わせてしまっているのだ。
「くたばれー!海賊がー!」
「ッ!」
自分に殺気を向けてきた雑兵の声によって現実に引き戻されたウタはヒポグリフで攻撃を受け止めウタウタの実の能力を駆使していく。
「ペンタグランマ!」
「うわぁ!」「な、何だこれは!?」「外れない...!」
「このぉ...吹っ飛べぇぇ!!」
「「「うわああぁぁ!?」」」
ハンマー投げの要領で五線譜に拘束した雑兵達を海岸の方向まで投げ飛ばし周囲に敵が居ない事を確認したウタは落ち着きを取り戻そうとする。
「...ルフィの所に行かないと、まだ海岸でゼットと戦っている筈」
海岸に向かう途中行き先から拳銃の発砲音が鳴るのと同時にウタは違和感を感じる。
「ルフィの気配が、弱くなった?」
しばらくして森を抜けたウタが見たのは...右肩から大量の血を流しながら倒れていたルフィの姿だった。
「!ルフィ!?」
直ぐにルフィの傍に寄ったウタは懐からスカーフを取り出しチョッパーから教わったやり方で止血をしていく。
(なんで?ルフィに鉄砲の類は効かない筈なのに...)
...考えても仕方ないとルフィの手当てを行なっていたウタはふとある事に気づいた。
「...帽子は?」
違和感の正体はもはやルフィの身体の一部と言っていい程馴染んでいたシャンクスから託された麦わら帽子を身につけていなかった。
何処かに飛んでいった?そう考えたウタは周りを見渡すとこちらに背を向けて歩く人影を見つける。
...その人影はNEO海軍の総帥にして先日チョッパーが治療したのにも関わらず自分達が海賊だと知るや否や恩を仇で返すかの如く襲い掛かった男"ゼット"であり、そのゼットの左手にはルフィとシャンクスを繋ぐ麦わら帽子が無遠慮に持っていかれようとしていった。
「!! おまええええええ!!!!!!」
ヒポグリフを構えゼットへ向けて突進するウタの叫びにゼットは振り向き忌々しく唸る。
「まだ来るか...海賊がぁ!」
「“激しく即興曲「アジタート・アンプロンプチュ」”!!!」
ヒポグリフから繰り出す連続刺突を失った右腕代わりに装着されたバトルスマッシャーで受け止めたゼットであったがウタの気迫の後押しもあり少しずつ後退りしていく。
「ちぃっ...!」
「返せ!それはルフィと...シャンクスにとって大事な帽子だ!返せぇぇぇ!!!」
"また赤髪か...!"ゼットの中に宿す海賊の怒りが彼に力が振るわれスマッシャーを大きく振りかぶりウタを強引に引き剥がす。
「お前も赤髪に執心してるようだな...小娘!お前にとって赤髪は何だぁ!」
「...私は麦わらの一味の歌姫”ウタ” 元赤髪海賊団の一員で、赤髪のシャンクスの娘だ!」
娘と聞かされ何かを思ったのかゼットの表情に若干の困惑が見えたがまた直ぐに切り替わって情念を吐き捨てる。
「赤髪のシャンクスに娘が居たとはな...親子共々海賊の道を歩むとは、アイツはどこまでも罪深く...愚かしい奴だ」
「シャンクスを...私のお父さんを侮辱するなぁ!!」
愛する父親に屈辱的な言葉を放つゼットに対しヒポグリフの槍先を向ける、もしこの場にシャンクスが居ればゼットの言葉を只静かに聞き入れるかもしれない。だがウタは目尻に涙を浮かばせながらゼットに牙を向いた。
「アンタの言う通りシャンクスは大海賊だよ、自分を倒そうとする相手には容赦しないし政府や海軍と戦うことだってある!...けれど...けれど!」
「赤髪海賊団は決してロクでもない海賊団じゃない!自分の身を犠牲にしてでも弱い立場の人を必死に助けるし自分達だって巻き込まれた立場なのに進んで自分達のせいにしようとする!私にとってシャンクスは立派な海賊だ!...アンタはどうなのよ!」
そう叫ぶウタは槍先をゼットからセカン島の火山に向ける、火山は今もなお溶岩が吹き出し打ち出された噴石が容赦なく街を破壊してく惨状が広がっていた。
「この街で会った青キジが言ってた。アンタは元海軍大将の男だって!...アンタ達海軍は正義の味方を名乗ってるんでしょ!なのに...何で...何で...」
涙を流し嗚咽が止まらないウタはただ真っ直ぐにゼットの瞳を見て叫んだ。
「何でこんな事をするんだ!!!アンタは大将だったんでしょ!?だったら見聞色だって扱える筈だ!街の人達が泣いて、苦しんで、怖がって、震えてる声が聴こえる筈!この街の人達が一体何をしたんだ!アンタ達の勝手な都合で街の人達の自由な日々を奪って故郷を滅ぼして...アンタ達がやってるのは私が大っ嫌いな海賊達とおんなじ事だ!!!そんな事をする奴に私の家族を貶す資格なんてない!!!」
ウタの叫びを聞き懐かしい二つ名を聞いたゼットは納得したような笑みを浮かべていた。
「ふん...クザンめ、余計なことを」
「答えて!!」
「...なぜこんな事をするか、貴様ら海賊が自由を謳えば世界各地で無法な事態を好き勝手に生み出す。海軍が正義を掲げた所で結局は屑の手を借りなければそれが成り立たない!そんな現状で真の平和が訪れるのか?俺はエンドポイントを破壊し"ひとつなぎの大秘宝"に群がる海賊共を新世界諸共全て滅ぼす大破局噴火を引き起こす!それが俺の『グランリブート』だ!!」
...何よそれ。
海賊だからって何でそうするかも知らずに問答無用に滅ぼすの?
海軍は力不足だからって言ってそれを変えようとする努力もしないで全部見限るの?
その計画で関係ない人ごと巻き込むことも分かっててそれをやろうと言うの?
...ふざけないでよ。
...アンタの言ってる事...やってる事は結局...
...ただ現実から目を背けてるだけじゃない!!
「...俺はこれから最後のエンドポイントへ向かう。...安心しろ、今は別れているようだがグランリブートが完遂したその時に親子共々あの世へ行ける」
「...!待て!逃げるな!」
立ち去るゼットの背を見て逃がさないとばかりにウタは駆け出そうとした...が
パシッ
「?!ルフィ!?」
後方で倒れてた筈のルフィが弱々しくも決して離さないとウタの肩を掴んでいた。
「ハァ...ハァ...止まれ...ウタ...この島は...もうやばい...ハァ...ハァ...ゾロ達と合流して...ここを出るぞ!」
「ルフィ、でも帽子が...」
「...大丈夫だ...アイツは...ゼットは...帽子を破いたりしねえ...おれは...そう思う...ハァ...」
「ッ!けど!」
「...頼むウタ!...ハァ...帽子だけじゃねえ...お前に何かあったら...おれはもう二度と...シャンクスに...ハァ...顔向け...でき...ねぇ...」
「ルフィ!?」
とうとう力尽きたのかルフィはウタに倒れ込むように気を失っていく。
「おーい!ルフィー!ウター!」
遠くからウソップが叫ぶ声が聞こえ並んで走るゾロとサンジも必死にこちらへ向かっていた。
...もう時間が無い事を悟ったウタは最後にゼットが向かった方角を見つめる。
...本当にグランリブートという計画で全てを滅ぼそうとするのか、ウタの内心はゼットに対する怒りと同時に不穏な感情が渦巻いていた。
“激しく即興曲「アジタート・アンプロンプチュ」”
ヒポグリフに内蔵されてる風ダイアルの噴出力を利用して放つ連続刺突攻撃。
ヒポグリフ自体が大型の武器である為攻撃スピードはゴムゴムのJET銃乱打と比較すると若干劣るが前面に立ち塞がる敵や防御を固めた敵を切り崩すのに有利になれる。
「...」
「随分と物思いに耽るじゃねえか頭...ルフィとウタの2人か?」
「ベックか...そうだな随分としてやられたようだが、何あの2人なら仲間達と一緒に切り抜けられる。このくらいどうってことないさ」
「そうか...なら俺からは何も言わねぇさ」
「ふっ...」
ダッダッダッダッダッ
「お頭!副船長!御耳に入れたいことが!」
「ロックスター、動きがあったか?」
「はい、先程傘下の船を交えたビッグマム海賊団の船5隻がピリオ島に向かっている姿を目撃したとセカン島近辺の縄張りを守ってるリーダーから連絡が入りました。船の進行速度を考えるとピリオ島に辿り着くまでそう時間が掛からないかと」
「流石の情報収集能力だな、動きが早い」
「まぁダイナ岩なんて代物あの婆さんからすれば手中に収めようと躍起になるだろうさ、カイドウの奴がでしゃばろうとしないだけマシってもんだ」
「...お頭、本当に俺たちはビッグマムの奴らだけに集中すれば良いんですかねぇ?俺たちが奴らを退けたとしても肝心のNEO海軍の奴らがピリオ島のエンドポイントを破壊する事態になってしまったら...」
「...それについては心配ない。俺に心当たりがある、そいつらがきっとゼファーの計画を止めてくれると俺は信じてる。ベック」
「了解だ頭。そういう事だロックスター、俺たちは予定通りビッグマム海賊団を迎えうつ。お前は新入り達を叩き起こして全員を纏めあげろ」
「...分かりました、お頭が信じるなら俺もその人達を信じます。」
「頼むぞ2人共」
「おう」「うす!」
ダッダッダッダッダッ
「...」
(ルフィ、ウタ...面倒な奴らは俺たちが引き受ける。お前たちはただ目の前にある壁に向かっていけばそれでいい。...お前たちならきっと乗り越えられる!)