渾沌に呻く者と死の神の出会い:マガラ視点

渾沌に呻く者と死の神の出会い:マガラ視点


「───でこの音響弾を合図にマガラが……マガラ?聞いてるの?」


目を輝かせながら嬉々として強盗の計画を語る小娘を一瞥し、以前の姿とのあまりの違いにため息をこぼして思い返す。一体どうやってこの小娘と出逢い、どうしてこんな日々を送っているのかを。


出会いは……ハッキリと覚えていないが酷い物だったのではないかと思う。

なにせ、当時は苦しんでいる理由すらも理解出来ないまま、感知できる存在全てに殺意を向けていた頃だったのだから。

脱皮に失敗してどれ程移動したのか……気付けば苦しみを紛らわす為の獲物すらいない砂漠にまで辿り着いて倒れ、この苦しみが続くくらいならばいっそ死を受け入れて楽になろう。そう思い至った時だった、この小娘に命を拾われたのは。


あの頃の小娘は非常に不安定な状態だった。なにせ命を救われたのはこちらなのに、自分自身が救われたように泣き出したのだから。

当時目が見えていれば今とは違い、さぞ酷い目をしたこの小娘を見る羽目になっただろう。とにかくそれほど酷い状態だった。

少し逸れたな自分の話に戻そう、その時は命を拾えたとはいえ苦しみから解放される訳でもなく、依然として身体を蝕む苦痛は続いていた。

ただし、延命処置"だけは"この小娘と同行者の「先生」なる人間によって行われ、死ぬ心配は無くなった……だが当時は楽になる事も許されず、みっともなく生にしがみつく事を強要されている。そう受け取り、何度も延命を拒もうとしたが、その度にこの小娘が泣きついて来るものだからあまりにも哀れに感じ、結局苦しみを受け入れる日々を過ごした。そうして過ごしている内に気付けば小娘からは「マガラ」と呼ばれていた。


「───マガラ?もしかして寝ちゃった?……せっかくだから翼から鱗粉を採s…じゃないちょっと鱗を磨いておいてあげるね」


何やら人様の鱗粉をよからぬ事に使おうと画策している馬鹿がいるが、どうせ後でシバけば問題無い。むしろ眠っていると勘違いされていた方が好都合と考え、無視をする。


延命も限界に近くなり、戦える回数も数回が限度なほど衰弱した頃だったか。「色彩」とやらの先兵としてこの世界へ襲撃した。

当初は地上での攻撃にも出される予定だったが、結局地上に降ろされることは無く箱舟でのみ戦闘を行うことになった。

この小娘は「地上に出てもその身体じゃすぐに限界を迎えることになる。ならダメージを受けても自分から撤退を行い易い箱舟で戦う方が良い」と言っていたが……単純に死なれるのが嫌だったのだろう。実際、あの火竜から手痛い反撃を受けた直後、すぐ回収しに来た時点でそれは明白だ。


そういえばこの世界へ渡ってきた直後から妙な存在から干渉を受け続けていた気がする。今ならはっきりしているがアレが「色彩」とやらなのだろう。幾ら衰弱していたとはいえ、あんな存在に頼るのは不愉快だった故に最初は拒んでいたが……最終的に振り払えたとはいえアレに頼って延命したのは一生の汚点としか言えない。


後は……この世界に来てからは色々あったな……。

火竜に奇襲を仕掛けて返り討ちにあったり、異様な強さの轟竜に殺されかけた直後に延命の為「色彩」の影響を受け入れてその轟竜を瀕死まで追い込んだり、「色彩」による変質と「先生」の助力で脱皮に成功して苦しみから解放された上に左眼が形成されて目が見えるようになったり、火竜を倒したと思ったらいつの間にか起き上がっていた轟竜に拘束されて、過剰な電撃を纏った電竜からの一撃が直撃したり、身体が動かなくなったと思ったら気付けばこの小娘と共に地上にいたり、こちらの世界の自分と会話した後コイツが突然強盗するとか言い出したり、脱皮の助力してくれた「先生」から託された存在で元より命の恩人でもあるコイツの更正を試みても……失敗続きだったり……。

────まぁ……本当にとにかく色々あったが、今こうして生きている。


「グルゥ……」


「ん、起きた?おはようマガラ。早速だけどさっきの計画について続きを───」


『◾︎◾︎◾︎……』
『───キミも、独りなの?』


あの時、コイツに拾われなければあのまま砂漠で朽ち果てていただろう。呻き苦しんだ果てがこんな小娘の御守りなんてふざけた結末だとは思うが……。


「───っていうのが今回の計画。準備は寝てる間に済ませてあるから、早く行って終わらせようマガラ」


だがこうして誰かと共に過ごす日々はとても刺激的で───案外悪くない。

Report Page