温泉旅行攻防戦

温泉旅行攻防戦



特賞大当たり!温泉旅行券ペアが出ました!!!


「やった!当たった…!」

「やったねシュヴァル!」

「それでトレーナーさん、温泉旅行なんですけど…」

「シュヴァルにあげるから好きなように使っていいよ!私に気を遣わなくていいから仲のいい娘といっておいで!」


 有馬記念の出走を終えた私達は、次のレースの準備に立ち寄った商店街の福引で温泉旅行券を引き当てた。正直出ると思っていなかったから当たった事は嬉しいんだけど、シュヴァルと2人きりで温泉旅行なんて耐えれる気がしない。だから誘われるよりも前に強引に押し付けて、安心していた。この選択がシュヴァルの闘志に火を点けるなんて、知る由もなく……


「トレーナーさんと一緒に行きたいんです!」

「だからそれは無理って言ってるでしょ!私じゃなくて他の娘と行きなさい」

「トレーナーさん…」

「なーに?どうした…のっ!?」


 いつものようにトレーニングを終えた私達は低レベルな言い争いを繰り広げていた。どうしても私と一緒に行きたいシュヴァルと、そんな事をさせたくない私の攻防はいつも時間切れで終わっている。だから今日もそうなると思っていたけど、今のシュヴァルはどこか様子が違っていた。


「僕はどうしてもトレーナーさんと一緒に行きたいんです。ダメ、ですか?」

「ゔっ、そんな可愛い顔してもダメなものはダメです!」

「そう、ですか…」


 いつものカッコよく私に迫ってくるシュヴァルとは一転して、出会ったばかりのどこか放っておけない雰囲気を纏った可愛い上目遣いでおねだりしてくる。ギャップと不意打ちで承諾しそうになるのを理性で抑え込みなんとか断ることに成功すると耳はヘタり、目に見えて落ち込んだシュヴァルの姿が目に入る。罪悪感に苛まれ思わず目を逸らして後ずさり、自分に悪いことはしていないと言い聞かせていた。


「トレーナーさん」

「ぴゃっ!?ひゃ、ひゃい!!」


 そんな事をしていたから近づいてきてた事に気が付かず、あっという間に私は壁に追い込まれていた。いつの間にか私より大きくなっていたシュヴァルに上から見られながら、やさしい手つきで壁ドンをされ乙女心が激しく揺さぶられるのを実感する。


「ファン感謝祭でも言ったとおり、僕にとってトレーナーさんは何よりも大事な人なんです。だからトレーナーさん以上に一緒に行きたい人はいないんです」

「は、はひぃ……」


 いきなりカッコよく距離を詰めてくる姿に、半分悲鳴のような返事を返すのでいっぱいいっぱいだった。絶対に逃さないという鋭い視線と、少し上がっている口の端をみればわかる、自分の勝ちを確信しているんだって。同時に自分がこのまま敗北してしまうことも理解していた。


「でも、トレーナーさんが行きたくないというなら無理に頼むのはやめにします」

「ぇ……ひぁっ!?」


 予想外の言葉に一瞬思考が固まる。その瞬間を見逃さなかったシュヴァルは足の間に膝を入れて無理やり開かせ、少し姿勢が崩れたところに追い打ちをかけてくる。もう私の負けでいいから、一緒に行くから許してと、そう言いたいのに吐く息は言葉にならず消えていく……


「これから出る予定のレースで全部1位を取ります。もし実現できたらご褒美に…」


 その言葉を聞きながら顎クイをされる。視界に入ってきたのはとても優しい笑顔のシュヴァルだった。断らなきゃいけないと警鐘を鳴らす心臓に反し、私の心は次の言葉を待ち望んでいた。


「僕と一緒に温泉旅行に行ってくれませんか?」

「は、はいぃ…」


 情けない声をあげながらなんとか肯定の意を示す。上機嫌な様子のシュヴァルは、力なくその場にへたり込みそうになった私を優しく抱き留め耳元で囁く。【楽しみにしてくださいね】と。これから先どうなるんだろうと想いながらシュヴァルに力なくもたれかかる。


 本当に温泉旅行に行く事になるまで後──日


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