温もりに満ちた甘えん坊
皆さん、こんにちは。歌住サクラコです。人間って想像の斜め上の事態に陥ると虚空へ向けて挨拶するものなんですねぇ。では、何故そんな事になっているかというと…
「~~~♪」
―――私いま、ナギサさんに抱きしめられています…
どうしてこうなったのでしょう。心当たりがまるでありません。同じように抱きしめ返しつつ、あれこれ思い返してみましたが、やっぱり思い当たるものがありませんでした。強いて言えば疲れ切った所に「偶には甘えてくれても良いんですよ?」と冗談交じりに言った位で、そこからどうしてこうなったのか全く分からないのです。
「~〜~♪」
その間も、ナギサさんは満面の笑みで私を抱きしめています。腕と同じように身体を大きな翼が包み込んでいる上に、首元に顔をうずめてくるせいで正直恥ずかしいしこそばゆいです。
埒が明かなくなったので直接聞いてみることにしました。
「あの…ナギサさん?」
「?」
「どうして私を抱きしめているんです?」
「…変な事を聞きますね。甘えてくれても良いと言ったのは貴女でしょう?」
「そこからどうして私を抱きしめる事に繋がるんですか…?」
「?、甘えるってこういう事でしょう?」
なんということでしょう。ナギサさんにとっての甘えるとは、ハグが伴うものだった様です。諦める事にした私は少し露骨かなと思いつつ、話題を変える事にしました。
「…ナギサさんって温かいんですね」
突然なにを、と言わんばかりに此方を見やるナギサさん。首をかしげながら訝しむ彼女と目を合わせつつ、言葉を続けました。
「思った事を言っただけですよ?貴女がこんなに温かい人だったんだって、少し驚いちゃっただけです」
「あぁなるほど、そういう…それなら、貴女達のお陰なのかもしれません」
どういうことなのでしょう。訝しむ様に見る私を柔らかい笑みで見つめながら、彼女は続けます。
「ほら、以前の私って冷たい女だったでしょう?それこそ、血も涙もない様な」
「っ!それは―」
「最後まで言わせてください」
思わず否定しようとした私の言葉を遮る ように、ピシャリと言い放つ彼女に何も言えなくなった私を優しく見つめながら、彼女は尚も続けます。
「実際その通りでしたから。理由はどうあれ、あの時の私は非情な決断を下す為に、血も涙も、貴女の感じる温もりも、全て捨て去りました」
「けれど、私が捨て去ったものをもう一度取り戻させてくれたのは、貴女達が力になってくれたから」
「こうやって堂々と甘えられるようになったのも、貴女達のお陰なんですよ?」
「久しぶりに、こうして甘えられるのが、どれだけ嬉しかったか…」
「本当に、ありがとうございます」
嬉しそうに語ってくれた彼女の言葉に、なにか熱いものが込み上げて来ました。その熱に突き動かされるように、彼女を強く抱きしめます。
「わっ…サクラコさん?」
少しだけ驚くナギサさんの額に私の額を「コツン」と合わせます。私を包む大きな翼に負けない位の想いを伝えるように。そしてそのまま、私の決意を聞いてもらうことにしましょう。
「なら、私達はこれからも貴女の力になりましょう」
「貴女が独りにならなくていいように」
「貴女が二度と、この温もりを捨て去らなくてすむように」
「私達は貴女と並び立ち、支え続けます」
私の言葉を聞き届けたナギサさんは、心底安心しきった笑みとほんの少しのなみだを浮かべながら
「――ありがとう…ございます」
と、言ったのでした。
尚、この日以降、ナギサさんが誰彼構わず甘えだしたせいでトリニティがちょっとした騒動に包まれるのは、別のはなしです♪