渋谷事変の終わりにて・続

渋谷事変の終わりにて・続


爆発。爆発。止まらない破壊。平らになった渋谷を疾駆しながら夏油と類はその技巧を存分に交わしていく。


「いやはや、相性最悪だなぁホントに!!」


夏油が次々と虚空から呪霊を怒涛のように放つが、類はその全てを意に介さず肉体に纏った拒絶の呪力によって呪霊の放つ攻撃や術式を消し飛ばし、塵としながら夏油へと吶喊する。


反発力を生む紅、引力を生む碧を併用することで二重の加速を実現し擬似的な亜音速移動を可能とする類は夏油にとっても簡単に距離を取れる存在ではなく、かと言って絶対にインファイトなどしたくもない為、極めて慎重かつ速やかに戦術を組み立てていた。


(距離が縮まっている中では領域展開はする暇がない。一級呪霊以下は数秒時間稼ぎすればいい方。特級呪霊を使うのがベストだが手札はなるべく温存したい。そもそも私としては今すぐこの場から離脱したいな!)


夏油は類を五条悟の次くらいには警戒していた。強さこそ未だ特級に準ずるといった所だが、その成長性と術式の厄介さは夏油とて評価せざるを得ない。


無下限や六眼の抱き合わせのような因果に絡まったものではない、純然たる天然の強者。時代が時代なら彼こそが最強だと言われていただろうとまでに高く買っている。だからこそ正面から相手にするのは御免だとも。


「術式順転『紅』、並列展開、圧縮───開放」

「わぁお」


術式に呪力を流し込むことで生成される反発する呪力。類はそれらを器用に球状に形作り、自身を取り囲むように幾つも配置する。そして圧縮された力を一点にのみ指向性を持たせて開放することで強烈な衝撃を機関銃の如く発射。不可視の砲弾群が夏油へと飛来する。


夏油はそれらを雑魚呪霊を盾にして防ぎながら急ぎ離脱用の呪霊を出そうと試みるも、自身へと迫る気配を感知して即座に中止。大量の呪霊で作り上げた盾を一撃で粉砕しながら自身へと拳を振るう類を弾き飛ばそうと重力操作を行おうとして───寸前で判断を切り替え領域展延により肉体を保護。クロスガードの姿勢で呪力強化された類の拳を防御した。


軋みを上げて叩き折られる夏油の両腕。類はそのまま追撃をかけようとするが、頭上から一級呪霊が特攻を仕掛けてきた事で瞬時に後退。同時に背後から襲いかかってきた呪霊を見ることもせず裏拳一発で消し飛ばしながら構え直す。


そして確かに受容の力によって腕を叩き折った筈なのに、反転術式を用いて両腕を復元した夏油に目を細めた。普通ならば二度と回復など出来ないはずなのに。


「……まさか私の術式発動のタイミングに合わせて引力で力を受け流し、私の重力操作を素通りするなんてね。即興にしては惚れ惚れする技だ」

「術式効果を中和した……簡易領域、いや、違うな。更にその先……領域の効果を肉体に纏わせ、その中和効果を使ったのか。器用な真似をする」


そう、夏油は領域展延により類の術式効果を中和することで回復阻害の一撃を無効化したのだ。とはいえその威力までは殺しきれず、腕の骨を叩き折られてしまったが、反転術式さえ発動すれば骨折程度は掠り傷と大差はない。


これは中々骨が折れそうだと類は心の中で愚痴を溢しつつ地面を殴りつける。そして受容の呪力を流して腕と周辺の瓦礫を結合。そこから拒絶の呪力を流し込み連鎖的に分子結合を崩壊させ、夏油の足場を一瞬で奪う。


当然そんな手にやられる夏油ではなく、召喚した飛行型の呪霊に乗り崩れ行く地面から離脱。そして一瞬の隙を使い両手で印を結ぶ。


「領域展───!?」


仕留められるにせよ出来ないにせよ切り札を一つ切ろうとした夏油。しかしそれは出来なかった。


突如自分の身体にまとわり付く引力の呪力により両手を足場に叩き落されたのだから。


(いつの間に、いや!足場の崩壊はブラフか!本命は私に受容の呪力を付着させること!領域展開されることを見越して遠隔発動出来るように──!!)

「技を借りますよ、加茂先輩」


遠方から類は両手を合わせて前に突き出すようにして構える。そして両手の中に反発力を極小サイズまで圧縮。極限まで貫通に特化させたそれを一点から開放することでレーザーのように撃ち出し、超音速の狙撃を放つ。


「───穿撃・紅」


狙ったのは頭部。一撃で仕留めるべく定めた狙いであったが、夏油は即座に足場にしていた呪霊を消失させることで自由落下。それにより狙いが逸れて超圧縮の崩壊光線は夏油の肩肉を大きく抉り飛ばしただけに留まる。


そして今度は夏油の番であった……が。



「領域展か───」

「隙だらけだねぇ夏油君!!」

「!?」



突如夏油の背後から現れた長身の女性がその拳を彼の顔面に叩き込んで吹き飛ばしたことで、夏油はまたもや機会を失った。


空中できりもみ回転しながらもどうにか着地しつつ、夏油はいい所で横槍を入れてくれた招かれざる客の名を呼ぶ。


「九十九由基!!」

「久しぶりだね夏油君。そして……五条家の小さな次期当主さん」

「貴方は……特級呪術師の……」



「率直に聞くよ、五条類君───どんな女が好み(タイプ)だい?」

「……背が大きくて出るとこ出てる健康な女性です」

「グッド!!」

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