消費期限

消費期限



 短文SS

 アルビダ目線

 前スレPart29終盤に出たネタ

 生菓子は早めに食べよう




 今部屋にキャメルがいる、というアルビダからすればくだらない理由で雑用を頼まれるのは面倒だがクロコダイルが島へ戻ってくるのが遅かったせいで今日まで暇つぶしに毎日毎日斬られてるのを見ているとまあほんの少し気の毒という気持ちもある⋯⋯ような無いような。

 そんな訳でクロコダイルの部屋へノックして入ると真正面のソファにゆっくり寛いでいるキャメルが獣の瞳孔をチラリと向けてすぐに机の上の洋菓子に視線を戻した。

 こんなにも美しい女より菓子の方が重要らしいのは全く持って納得いかないがこんな自己肯定感無駄に高い甘味と弟狂いの男に興味を向けられるのも嫌なのでまあ良い。

「クロはいないよ」

「そうかい。じゃあ少し待って来ないなら戻るかな」

 こういうのは仕事をしたとキチンと示しておくのが大事だ。少し待ったが戻らなかったとバギーに仕事を突っ返そう。

「食べないのかい? それ」

「⋯⋯消費期限がちょっとね」

 ソファと扉横の棚の前という大分距離をとっているので良く見えないがシュークリームは確かに足が早いので不安になるだろう。

 この男は女に⋯⋯特に海賊の女に嫌な思い出でもあるのか近づくと無意識に鋏に手を伸ばすので扉の横に置いてある飾り棚の前までがギリギリの距離だ。

「アンタなら問題ないんじゃないか?」

「クロと食べたかったけど。仕方ないね」

 そんな会話とも言えない会話をして3つ並んだシュークリームを食べ始めると同時に扉が開いて狂人の弟が戻って来てしまった。

「おかえりクロ」

 それまでの鉄仮面が嘘みたいに和らぐのを見ても当たり前過ぎて特にクロコダイルは驚かない。

「用があるって」

「これ。後でバギーに渡しな」

「書くからここで待て」

 渡しながら悪態を吐く心の声は隠しつつも不満そうな眉の動きは見えたはずだが無視して机に向うクロコダイルがふと机の上のシュークリームに目を向ける。

 無言で近づいて口を開ける所作は他人でもわかる「一口わけろ」という意味でそれは長年繰り返されてきたのだろう自然さだった。この二人は相手の考えてることをさっぱり理解していないくせにこの無条件の信頼は一体どこから来るのか不思議だ。まあでもその菓子は

「クロはだめ」

 そう言って残り一つを手にとって一口食べたキャメルを見るクロコダイルの表情に思わず顔を背けて堪える。

 別に大笑いしたってかまやしないのだがこの兄は弟にマイナス感情を向ける者に容赦はしないしそれが女なら躊躇などする理由がない。

 数秒の後視線を戻すと突っ立ったままの億越え懸賞首の海賊がいる。

 限界だった。

 ごまかす様な咳払いがどこからきたのかなど変人は知らないままのんきにシュークリームを食べ続けた。



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