海軍本部

海軍本部


白ひげ海賊団2番隊隊長、ポートガス・D・エース。

"世界最強の男"を呼ぶ釣り餌の処刑が、3時間後に迫っていた。

3時間か。長えな。

こちらも"ワケあり"らしい九蛇の蛇女を避けて陣取ったそこから、少しずつ糸を伸ばしてワナを張っていく。白ひげの艦隊の影は、まだ現れない。

しかし、こいつは参った。どこもかしこも頭がイカれそうなほどうるせえ。

召集に引っかかった”ヴェルゴ中将"の船で凪の島を離れて以降、絶えず吠え立てる獣の声に海兵どもの鬨の声が入り混じる。まだ一滴の血も流れちゃいねえってのに、よくもまあここまで盛り上がれるもんだ。

湾内を見下ろす正義の城壁を、遠い潮騒が引っ搔いては消えていく。かつて弟と奇跡の悪魔とを探してさんざん渡ったはずの波立つ海が、今は神経のあちこちを逆撫でてたまらねえ。

「テメェの蒐集癖も大概だな、ドフラミンゴ!ついに死体まで集めだしたか!」

わざわざ城壁の端まで顔を出した男の声が、騒音の内側に入ってくる。そういやこいつとも初対面だったか。

「血が必要なんでね……フフ…死体なら他をあたるんだな、ゲッコー・モリア」

「ケッ!悪魔の実の次は血か…気味の悪ィ野郎だぜ…!!」

「お前ほどでもねェさ…フッ…フフフフフ!」

駄目だなこりゃあ。昂る脳の片隅で、己を見つめる冷静な声がする。

持ち込んだ魚人の血の酒をあおるおれを見たモリアは、それから何も言わなかった。


「お前の父親は!!!"海賊王"ゴールド・ロジャーだ!!!!」

「………ほう」

あの狸ジジイ。

間違いなく海軍内で問題になるだろう追加条件を、あっさり呑んだ理由がようやく分かった。"鬼"の血を宿すその身ごと、ウチに全部押し付ける算段だったな。

"センゴクさん"の顔をおがむついでに"D"のサンプル回収だけ済ませて帰るつもりが、とんだ爆弾を寄越されたもんだ。ウチは秘匿の街であって、予めネタバラシされた手に負えねえ問題の吹き溜まりにされても困る。やり様はいくらでもあるとはいえ、面倒は面倒に違いない。

隣から降ってくる興奮気味のモリアの声を聞き流しながら、カモメ男のペットのヤギを白ひげのナワバリに放牧する算段を立てておく。マルコあたりに懐柔されちまえ。

「だからこそ今日ここで、お前の首を取る事には大きな意味がある!!!」

その事後処理は、どうやらおれの仕事らしいがな。

ああだが、不思議と気分は悪くねえ。

映像を見ている連中に、海兵どもに、そしておれたち七武海に。

情報の動線を引き刻を計り感情の伝播を視て吐き出される芝居じみた演説に、口角が上がるのを自覚する。

なるほど。ロシー、お前の肝の太さと嘘の上手さは、"ここ"から来てんのか。

「たとえ"白ひげ"との全面戦争になろうともだ!!!」

仰々しい宣言を見計らったように開いた正義の門の向こうには、海賊船の大艦隊。

湾内に浮上した"モビーディック号"を最後に、役者は揃った。

「勢力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!!最期を迎えるのは我々かも知れんのだ………あの男は」

押し寄せる津波と地鳴りに戸惑う海兵の声をかき消して、海軍本部元帥の声が轟く。

「世界を滅ぼす力を持っているんだ!!!!」

さあ、反吐が出るほど愉しい愉しい、戦争のお時間だ。




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