海賊チョッパー&ロビン&ウタVS怪人ホグバック 2/2

海賊チョッパー&ロビン&ウタVS怪人ホグバック 2/2


「フォスフォスフォス!一瞬肝を冷やしたが…どうだ仲間と自分の力に負けた気分は?残念ながらそいつらに貴様らの仲間だった記憶など欠片もない!動き出したばかりのゾンビなら多少の情が残る事もあるがもはや体と影が馴染んでしまったコイツらとシンドリーちゃんは一片の人情も無くおれの命令に服従するゾンビだ!ゾンビにとっては命令こそが”絶対”なのだ!さァシンドリーちゃん、こいつらにトドメを刺せ!」

「はーい!」

 

ホグバックの指示にシンドリーが元気よく返事をし槍を構える。その時、チョッパーが口を開いた。

 

「ここまで悪党だと気持ちいいくらいだホグバック」

「ん~!?」

「実際にすごい数の人達の命を救ったお前を医者として本当に尊敬していた」

 

チョッパーは獣人型へ戻りながら話を続ける。

 

「ゾンビの研究だってそうだ。『死』は突然やって来るから…”死んだ人”にも”残された人”にも言い損ねた言葉がたくさんある筈だ。何年もなんて言わねェ、たった数分でもいい…!もう一度死者を呼び起こす手段があるのなら…例えそれが「邪道の医学」と石を投げられても、それでも救われる人の気持ちはデカい。だから”死者の蘇生”を研究しているというお前の言葉に…やっぱりすごいと思ったんだ」

 

死者にもう一度会いたい。そんなことが出来るとすれば望む人も確かに多いはずだ。私だって——

しかし、チョッパーの言葉に帰って来たのはホグバックの嘲笑だった。

 

「フォスフォス…!バーカな…他人のために何故そこまで…!昔の話もそうさ!おれはただ天才だっただけ!金のために手術はやったが、診たくもねェ患者達が次から次へと引っ切り無しに世界中からやって来る!『父を助けて』『子供を助けて』迷惑なモンだ面倒臭ェ!そこいらのバカ医者共に救えねェ命もおれなら救えちまう。こんな天才の悩みがてめェに分かるか!」

 

医者とは思えない言葉に絶句してしまう。救う力が自分にあって、それに縋る人をめんどくせェだなんて…

私はその言葉に我慢できずホグバックを睨みつけた。

ホグバックは饒舌に自論を語り続ける。

 

「それを勝手に尊敬すんのはてめェの自由、失望すんのは筋違い!てめェの理想と違ったおれを医者として許せねェと思うのならとんだ思い違いだぜバカトナカイ!このおれに医者のあり方なんぞ説こうってのか!!」

「そんなつもりは毛頭ねェ。おれはもうお前を医者だとも思ってねェんだ!ここにいるゾンビ達だってそうだ!もう死んでるのに動かされているだけだ!こいつらは生きてなんかいない!命をバカにするな!!」

「フォスフォス、酷いこというじゃねェか…!目の前で動いているコイツらを見て生きてねェだと!?Dr.チョッパー…!紛れもない”死者”達が再び命を得て蘇る…奇跡!この生命を否定する意味がどこにある!?…あの部屋を見たんだったな、Dr.チョッパー」

 

そしてホグバックはシンドリーとの思い出を語り始めた。

彼女に好意を寄せていたこと、しかし婚約者がいるためにフラれたこと、その後彼女が事故で死亡したこと…そしてゲッコーモリアと出会いシンドリーのゾンビを生み出したこと。

 

「…おれをフッた女の中身なんぞどうでもよかった!その美貌さえあれば…それがこのシンドリーちゃんだ!おれもそうだが彼女もさぞ嬉しかろう。再び人間としてこの世を生きることができるんだからな!」

「…こんなの、嬉しいわけないじゃない!」

「ウタ…?」

 

我慢できずに声を荒げて会話に割り込んだ。戸惑ったチョッパーがこちらを見るが言葉が止まらない。

 

「体が動いているだけ、中身が全然違う別物でしょう!?アンタ、本当にこれが嬉しいの!?」

「…なんだと?」

 

自分の影が入れられてるからこそ分かる。今のシンドリーは見た目がそのままでも、中身が、心が全く別物のはずだ。

こちらを睨みつけるホグバックを睨み返しながら言い続ける。

 

「心が違うなんてそんなのもう別人じゃない!それに、影たちだって…支配されてるだけだよ!こんなの自由じゃない!"新時代"じゃない!…私なら分かるでしょう!?」

 

後半の言葉はシンドリーに向かって言った。自分の影なら分かってくれるはず…そう思ったが、シンドリーはキョトンとした顔でこちらを見ていた。

 

「元私が何言ってるかよく分かんないんだけど…今、私とっても幸せだよ!モリア様とホグバック様のために頑張れて!いっぱい歌えて!皆が言ってるゾンビってのもよく分かんない…だって体より心でしょ?」

「何…言って…」

 

自分の影の言葉に絶句しているとホグバックの鼻で笑う声が聞こえた。

 

「ハッ、"新時代"ねェ…シンドリーちゃんにお前の影を入れた時に言っていたな。『歌で世界の皆を幸せにする新時代を作るんだ』と……

笑わせんなッ!!!」

 

これまでの嘲笑とは違う剣幕で叫んだホグバックに思わず体がビクリと跳ねた。

ホグバックは怒りを露わにまくし立てる。

 

「歌なんかで何が出来る!?おれの所に来たバカ共を歌で救えるか!?死んだ人間を蘇生できるか!?心を救うだ!?体より心だ!?医療の『い』の字も知らねェバカが救うなどと簡単に言いやがって!気に入らねェ!!現実を見やがれ!!!」

「そんなこと…影を無理矢理支配してるだけのアンタに言われたくない!」

「言ってくれるじゃねェか!じゃあここにいる影共は支配されて不幸だってのか!?どの影が不幸を感じている!?全員幸せしか感じてねェよ!ご自慢の歌でここまでのことが出来るか!?人を救うのに必要なのは医術!そしてモリア様の力さ!歌なんかで何も救えねェよ!」

「でも……でも…こんなの…元の体が」

「フォスフォスフォス!体より心なんだろう!?じゃあてめェが気にする必要はねェな!てめェの言う新時代とやらが目指すものとこのスリラーバーク!何が違う!?」

 

ホグバックの言葉にチョッパーが「お前…!」と呟いた。私はホグバックの言葉に反論しようと口を開く。

 

「ちが…私は…っ!…う、ぐう…」

 

反論しようとした所で再びあの頭痛に襲われてしまう。

 

違う。私の新時代は絶対にこんな世界じゃない。

私が願っているのは皆が幸せになる世界で、こんな支配されてる世界じゃない。

—ゾンビの支配者ガオ前ノヨウナ人間ニ変ワッタスリラーバークト何ガ違ウ?

 

皆幸せだって言うけどそんなの騙されているだけじゃないの?

—影共ガ幸セダト断言シテイルノニ?オ前ガ勝手ニ不幸ダト言ッテ責メルノカ?

 

死体を勝手に使って、別の心を植え付けるなんて

—体ヨリ心ナンダロウ?

 

ズキズキと頭痛が響く中、まるで誰かが私を否定してるかのような言葉ばかりが頭を駆け巡る。

反論しようと考えてもろくに考えがまとまらない。

 

……私の夢って…ここと同じなのかな…

 

思考がどんどん沈んでいきそうになっている私に追い打ちをかけるようにホグバックの嘲笑が続く。

 

「おいおいどうした?体調でも悪いか?診てやろうか?フォスフォスフォス!…おれの言っていることは何も間違っちゃいねェさ!なあ、Dr.チョッパー!お前だって医療を齧ってるなら分かるだろう!?こいつの"新時代"とやらがどれだけ馬鹿らしいことか!フォスフォスフォス!フォスフォスフォスフォス!」

「いい加減にしろっ!!!」

 

突然響いた怒号に驚いて顔を上げる。今の声、チョッパーだ。

痛む頭を堪えてチョッパーがいる方を見ると、先ほどのホグバックよりも更に怒りに満ちた表情のチョッパーがいた。

 

「ウタの夢がこんなものなわけないだろッ!!」

「…Dr.チョッパー、お前もこの”奇跡”の素晴らしさがまだ分かってねェみたいだな?」

「分かってないのはお前の方だ!医術でしか救えない命があるのと同じ!歌でしか救えない心だって絶対にある!ウタの想いは何も間違っちゃいないだろ!心と体が繋がってない人間なんてもう人間じゃない!物を言えない死体を使って…お前は怪物を生み出しているだけだ!ゾンビの数だけ人間を不幸にしている!お前がやっていることとウタが目指しているものが同じなわけが無い!」

 

チョッパーが私とアイツは違うと叫ぶ。仲間が私の夢はこんなものじゃないと言ってくれている。信じてくれている。

それが嬉しくて、ポロリと涙が零れた。

『お前の歌声だけは世界中の全ての人たちを幸せにすることができる』

いつだったかシャンクスが言ってくれた言葉。シャンクスだけじゃない、チョッパーも、皆も私の歌声を信じてくれている。

なんで迷っていたんだ、私の”新時代”がこんな所と同じなわけがない!

気が付くと、さっきまで私を襲っていた頭痛はさっぱり消えていた。

 

そして怒りの収まらないチョッパーが叫ぶ。

 

「こんなもので救った気になって、心のことなんて何も分かっていないお前が!ウタの夢を嗤うな!!」

「なっ……なんだと…!!どいつもこいつも好き放題言いやがって!!大した医術も持たねェで”命”を語るんじゃねェよ海賊共!殺せ!シンドリーちゃん!影ならいくらでも新しいのを入れてやる!おめェら三人とも惨たらしい没人形(マリオ)にしてやる!!喜べDr.チョッパー!死んだ暁には尊敬するこのおれの助手にしてやるってんだぜ!」

 

怒りのホグバックの指示を聞きゾンビ達が身構えた。

その瞬間、チョッパーが人型になって飛び出す。すぐにペンギンゾンビと剣士ゾンビが反応し攻撃しようとするが、チョッパーが攻撃を食らいながらもそれを強引に押しのけ、シンドリーの両肩を掴んだ。

 

「可哀想に…もう死んでるのに!残された家族がこれを知ったらどんな気持ちだ…醜い傷でツギハギにされて…代わりのきく兵士にされてるなんて身内には耐えられない」

 

シンドリーに語り掛けるようにチョッパーが言葉を続ける。

 

「一緒に生まれて育った”心”はもう死んでるのに体だけは人の言いなりに動かされるって一体何だ!?ウタの影だってこんなまやかしの幸せなんて望んでないのに!体も心もどっちも不幸なだけじゃないか!」

 

不幸…そう、不幸なんだ。

本人が幸せだと思ってるのもまやかしで、体だって不幸になっている。私達が決めつけてるわけじゃない。

いくら私の影がなんと言おうとこんなの、幸せじゃない。絶対に”新時代”じゃない!

 

「てめェの目を疑うのか!?認めろ!これが人の永遠の夢!”死者の蘇生”だ!人間は蘇る!」

「動いたらそれでいいのか!人間ならもっと自由だ!!お前が一番人間扱いしていないじゃないか!」

 

チョッパーの叫びにホグバックが顔をしかめる。

 

「ロビン!こいつに塩を!」

「放して!!”低音域の遁走曲(フラット・フーガ)”!!

 

ロビンが腕を咲かせてシンドリーへ塩を食べさせようとするが、それは私の技でもあるシンドリーの攻撃によってチョッパーごと弾かれる。

 

「ペンギン!ジゴロウ!シンドリーに手を貸せ!邪魔者も消せ!」

 

その指示で動き出した2体のゾンビを睨みながら立ち上がる。

 

「大丈夫?」

 

ロビンが私に問いかける。きっとさっきのペンギンゾンビに蹴られたダメージや頭痛のことだろうけど、もう問題ない。傷は痛むが、体も心ももう十全だ。

 

「うん、大丈夫。もう、こんなのに絶対負けないッ!!」

 

そう叫びながら私はペンギンゾンビへ切りかかり、剣士ゾンビは再びロビンが咲かせて腕によって拘束される。

 

「こいつ!」

 

そう叫びペンギンゾンビがジャンプしその短い脚を振り上げる。

見た目はペンギンだがサンジのような強力な蹴り。だけど短い脚にジャンプしないといけない小柄な体——正面から戦えば、まだ動きは読みやすい!

 

「食らえクソ女!”首肉(コリエ)”!

 

私の首に向かって振るわれる蹴り、しかしその蹴りの勢いは私が身を引いて槍の穂先で受け止めた瞬間に消える。

 

”肩肉(エポール)”!”背肉(コートレット)”!…なんだ!?」

 

続く2発ともを穂先で受け止める。さすがにゾンビも違和感に気付いたらしい。

 

”三刀流 百八煩悩鳳”!!

 

そこへロビンの拘束を力尽くで振りほどいた剣士ゾンビの技が迫る。私はすぐさま飛びのいて避けたが、危うくペンギンゾンビが巻き込まれかけた。そのペンギンゾンビは私に追撃するのかと警戒したが、私ではなく剣士ゾンビに向かっていった。

 

「てめェ…何おれにまで攻撃してんだ!おれの邪魔をすんな!」

「邪魔者は消えろ!」

「てめェこそだ!おれが受けた命令だ!」

「おれだ!」

「んのやらァ!」

 

ペンギンゾンビと剣士ゾンビがお互いに罵り合いながら攻撃を始める。

そのまま2体は喧嘩を始めてしまった。

 

「おい!何やってやがるてめェら!いい加減にしろ!二人でちゃんと協りょ…」

「ロビン!」

 

ホグバックが慌てて指示を出そうとしたが、チョッパーの呼びかけにすぐロビンが腕を咲かせホグバックの口を塞ぐ。

 

「今、良い所でしょう?このまま命令が無いとどうなるのかしらね」

 

ロビンの言葉の後、命令が無いがために2体のゾンビはずっと喧嘩を続けている。ゾンビの体ゆえにお互いに動けなくなるほどの致命傷が与えられないのか、全力で攻撃し合っていた。

 

「記憶が無くなってもやっぱり、元々相容れない性質(タチ)なんだあの二人!」

「呆れた…」

「本人たちもあそこまで酷くは…いや、どうだろう…」

 

ロビンとチョッパーの言葉に続きながら槍を構え直す。もう準備は充分、そして目標は喧嘩しっぱなしで隙だらけだ。

 

「ねえ、ロビン。お願いしていい?」

「ええ」

 

ロビンに一言言ってそのまま2体のゾンビへ突撃していく。狙いは小柄なペンギンゾンビ!

喧嘩を繰り返す2体の元へ滑り込み槍を引いた。

 

”急速な追奏曲(プレスト・カノン)”…

 

全力の突きをペンギンゾンビへ叩き込むと同時に、槍を操作する。

 

”インレイ・衝撃(インパクト)”!!!

 

私の技と自分の蹴り3発分の衝撃を同時にまともに受け、ペンギンゾンビは悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。

私も同様に、反動で後ろへ吹き飛ぶ。しかし…

 

”蜘蛛の華(スパイダーネット)”!

 

網のように組み合わさったロビンの腕で私は受け止められる。

しかし、受け止めてくれる味方がいないペンギンゾンビは吹き飛ばされた勢いのまま窓を突き破り、悲鳴と共に城から落ちていった。

倒せはしていないが落下も含めて大ダメージ、しばらくは戻って来れないはずだ。

続いてロビンがホグバックの口を塞いでいた手を消した。

 

「この塔は高いわね。きっとあのペンギンのゾンビもすぐには帰って来れなさそう…私に「お前も飛び降りろ」って言ってみて?」

「ぶはっ…は??おめェ頭おかしいのか!?そんなもんいくらでもいってやらァ!あァ飛べ飛べ!おめェも飛び降りやがれ!」

 

ロビンの挑発に頭に血が上ったホグバックが叫ぶ。

 

「はい」

「…は?」

 

しかし、その言葉の返事は剣士ゾンビから上がった。

 

「いや…違う!待てェ!!」

 

ホグバックが叫ぶが時すでに遅し、剣士ゾンビは壁を破って飛び降りてしまった。

 

「私はイヤよ」

「わー…ロビン頭良いー…」

 

あっけからんと言うロビンを思わず褒めてしまった。自分は腕を痛めかけた攻撃で無理矢理突き落したというのに。これが頭脳プレーか…と考えながら、腹と腕の痛みを堪えながら立ち上がった所で再びホグバックが叫んだ。

 

「おおお~~…おおおお!!許さんてめェら!騙しやがった!最悪だ!この人間のクズめ!!」

「ゾンビ達はルフィがモリアを倒して全員浄化してくれる…!おれがぶっ飛ばしたいのは…お前だホグバック!!」

 

怒りが収まらないホグバックに対し、それ以上の怒りで重量強化(ヘビーポイント)の姿をとったチョッパーが拳を鳴らす。

 

「シンドリー!ここで時間を稼げ!おれァ逃げる!……?返事はどうした!!おめェはやられても次の影を入れてやる!安心して死ね!」

 

逃げようとするホグバック、しかしシンドリーは命令を受けてもそこから動こうとしなかった。

 

「体が…動かない…!」

 

そう言ってシンドリーは直立不動のまま涙を流していた。

 

「おいおいどうしたシンドリーちゃん!体が動かねェ!?もう影は命令聞く程度には充分馴染んでいるだろォが!?そのウソくせェ涙もやめろ!主人に服従する事のみが貴様らゾンビの存在価値だ!魂さえあれば動ける体になれたのはいったい誰のお陰だと思ってんだ!」

「涙が勝手に…体も動かない…!」

 

ホグバックが叫び続けるが、シンドリーはその場から全く動かなかった。

 

「…まるで体の持ち主が抵抗しているみたいね」

「10年前に本人は死んでるのに…!?魂のない体にも意思ってあるのかな…」

「あるのかもしれない…だってたぶんアレ、私の涙じゃない…シンドリーさんのだよ」

 

直感でしかないが、あの涙は私の影が流しているとは思えなかった。その光景を見て、一つの考えが浮かんだ。今までずっと持っていたものとは違うもの。

 

「魂…心と体って…そんな簡単に分けて考えていいものじゃないのかな…」

「それは…きっと世界中の図書館を調べても分からないことね」

 

私の呟きにロビンが答えた時、シンドリーが息を荒げながら動き出した。

 

「ウウ…ハァ…ハア…!三人とも…倒すから!!」

「おおそうだやっと正気に戻ったかシンドリーちゃん!よし!充分に時間を稼げ!!おれが逃げ切るまでな!」

「残念…何らかの”奇跡”を想像したのに…”十二輪咲き(ドーセフルール)”!」

 

ロビンがシンドリーを拘束したその瞬間、城が大きく揺れた。

 

「何だこの揺れは!またオーズの奴だな!?」

「待て!!!」

「うお!?」

 

チョッパーが背後から逃げ続けようとするホグバックを捕まえた。

 

「うぬ…くそ!この海賊鹿…一端の人間ぶって死体の肩なんざ持ちやがって!てめェが人間ですらねェクセによ!この怪物野郎!!」

「ウチの船長なら怪物でも…!サイボーグでも魔獣でもエロでもネガティブでも!なんだって従えられる!お前らみたいに物言わない死体を服従させなくてもな!…ロビン!」

「いいわ、任せて。”脚場咲き(ピエルナフルール)”!

 

チョッパーの足から次々とロビンの足が咲き、ホグバックごと高々と持ち上げていく。

 

「ちょーちょーちょーっと待て待て何すんだDr.チョッパー!?こんなトコから落ちて頭でも打ったらお前…世界の財産!天才の脳みそがカチ割れちまうぜ!?」

「構わねェ!腐ってんのはゾンビよりお前らの頭の中だ!それにお前は絶対に許さないって言っただろう!!」

「おい!待て!やめろ!やめろおおおお!!!」

「食らええええッ!!」

 

ロビンの足達がしなり、一気にチョッパーが、ホグバックの頭が床へと迫る。

 

「”ロビッチョスープレックス”!!!」

「グエエエエエエエッッッッ!!?」

 

轟音を立ててホグバックは地面に叩きつけられた。チョッパーが手を離すとホグバックの体が力なく倒れ込む。

 

「オノ…レ…お前ラ…ふざケ…ヤガっ…てェ…」

 

地面に横たわったホグバックが呪詛を吐いたその時だった。

突然壁を突き破り城を破壊しながら、角を生やした巨人の頭が現れた。

 

「床が崩れる!チョッパーこっちへ!」

「なにこいつ!?…まさかルフィの影が入っているのって…!」

「ええ…おそらくこの巨人ね…!」

「ホグバックとシンドリーが下の階に落ちた!」

 

突然現れた巨人のことをロビンと話していた時、チョッパーが叫んだ。チョッパーの視線の先、遥か下を覗き込むと頭から血を流したホグバックが巨大な瓦礫に下半身を挟まれていた。

 

ホグバックが何やら叫んでいるが、傍にいるシンドリーは先ほどと同じように動こうとしない。

 

そしてシンドリーはホグバックから視線を外し私達の方を見て——にっこりと笑った。

とても穏やかな笑顔。私のとは違うと断言できる笑顔だった。

 

「シンドリーさん…」

 

思わず名前を呟いたその時、ルフィのゾンビが城を壊しながら進み続け、ホグバックとシンドリーは瓦礫に飲まれた。

 

 

 

その後私達は遥か下層のホグバックとシンドリーの元へは向かえないため、とにかく皆と合流するために下へ向かっている。

私はどうしても伝えたいことがあってチョッパーに話しかけた。

 

「ねえ、チョッパー…」

「どうしたウタ!?どこか痛むのか!?」

「そうじゃなくて、さっきのこと」

 

『お前がやっていることとウタが目指しているものが同じなわけが無い!』

思い出すのはさっきのチョッパーの言葉。自分を信じ切れず、追い詰められていた自分を引き戻してくれた言葉。

 

「私とアイツが違うって…言ってくれてありがとう…!」

「おれは思ったことを言っただけだ!」

 

チョッパーがまた迷わずに言い切ってくれる。ロビンも「そうね」と続いた。

 

「私もアイツとウタが同じなんて思わないわ。あなたの目指している”新時代”、こんな場所とは違うんでしょう?」

「もちろん!絶対その"新時代"、皆にも見せるから!そのためにも…」

 

視線を外すと遠くにはルフィのゾンビの巨体が見える。"新時代"のことも、心と体のことも、しっかりと考えたいことが山ほどある。でものその前に—

 

「次はアイツをなんとかしないとね!」

 

2人と一緒に巨大なゾンビの元へと向かって行った。



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