海賊チョッパー&ロビン&ウタVS怪人ホグバック 1/2
ルフィ、チョッパー、ロビンと共に城の中を走る。目指すのはモリアのいるダンスホールだ。
そこを目指し大部屋に入った時、そこには一人の人間と一人のゾンビがいた。
「うおっ!…き、貴様ら!ペローナにやられなかったのか!?」
そう叫ぶ男に向かってチョッパーが「ホグバック…!」と呟いた。あの男がDr.ホグバック。じゃあその隣にいるゾンビがシンドリーだろう。そのシンドリーはその腕に大きな槍を持っていた。
その2人を見てルフィが腕をぐるぐる回し始める。
「モリアと一緒にいた奴だ!コイツもぶっ飛ばしたらいいのか!?」
「ちょ…ちょっと待て!」
「待ってルフィ!こいつはおれに任せてくれないか!奥に扉があるだろ!?アレが冷凍室だ!先に行って!」
「よし!分かった!」
チョッパーにそう返事をしてルフィが先に向かう。私もルフィについて行こうとした時だった。
「ぬう、いきなりモリア様に会おうなど不躾な!シンドリーちゃん!やってしまえ!」
そのホグバックの声と共に、シンドリーがルフィに向かって槍を向けた瞬間、大きな音を立てて消えた。
「”急速な追奏曲(プレスト・カノン)”!!」
シンドリーが放った聞き覚えのある技をルフィが避ける。
「ウタの技!?なんでだ!?」
「まさか…シンドリーの影が変わってるのか!?」
「フォスフォスフォス!その通りさ!今のシンドリーちゃんにはそこの紅白女の影が入っている!戦力としてはこっちの方が良いだろう!?」
ルフィの疑問にチョッパーが気付き、ホグバックが答える。行方不明の私の影の居場所が予想外な場所で分かった。追撃しようとするシンドリーの体から突然腕が生え、その体を拘束する。ロビンだ。
「二人とも先へ!」
「分かった!」
ロビンの言葉に答え、私もルフィと共にモリアの元へ向かおうとした時だった。
ホグバックの背後から新しいゾンビが2人、刀を3本構えた剣士のゾンビ、そしてペンギンのゾンビが現れた。
「あいつだ!ゾロの影が入ってるゾンビ!」
「もう一匹がサンジの影が入ってるゾンビだよ!」
ルフィとチョッパーが声を上げる。今相手の戦力はゾロ、サンジ、そして私の影が入っているゾンビ…戦力を考えれば…
私はルフィを追う足を止めた。
「ルフィ、モリアの方、お願いしていい!?」
「おう!そっちは頼むぞ!」
私の言葉にそう言ってルフィが駆け出す。
この場に残ったのは私とチョッパーとロビン、そしてホグバックと3人のゾンビだ。
「ホグバック!お前には失望した!おれはお前を医者とは認めない!」
「おお…フォスフォス…お見逸れしたDr.チョッパー。貴様動物(ゾオン)系の能力者だったのか…妙な生物だとは思ったが。あの時ペローナの庭を搬送される中どう脱出したのか知らんがここで会ったからには二度と逃がさねェ、影は戴くぞ!」
獣人型へと姿を変えたチョッパーにホグバックが叫び返す。
「いや、何ならこの場で殺して…"没人形(マリオ)"にしてやろうか?こいつらによってな…」
そのホグバックの言葉を聞いてゾンビ達が構える。
そしてシンドリーは私達を攻撃―
「新時代はこの未来だ—」
せずに歌い始めた。
「おいおいシンドリーちゃん!歌ってないで戦ってくれよ!」
「世界中全部変えてしまえば―…変えてしまえばあぁ——…」
「…シンドリーちゃん!?聞いてる!?」
「ホグバック様!今はライブ中なの!はい、ペンライト」
「おお、さすがシンドリーちゃん準備が良いな。じゃあ早速これを振って…うおおおおお!!シンドリーちゃああああん!!…ってライブしとる場合かァ!後にしてくれ!」
更にホグバックとシンドリーが何故か漫才を始めた。
なんなんだろう…この人達…
「やっぱり、あのゾンビにはウタの影が入っているようね」
「ああ、そうみたいだ…」
「待って2人とも!?私あんなんだっけ!?」
チョッパーとロビンの言葉に思わずツッコミを入れた時、少しでも歌って満足したのか、シンドリーと2体のゾンビが動き始めた。
私はすぐに前へ飛び出し、シンドリーと槍を突き合わせる。
ペンギンゾンビはチョッパーの方へ向かい、剣士ゾンビはロビンによって拘束された。
「怒りよ!今ッ!悪党ぶっ飛ばして!!」
「I wanna make your day do my thing 堂々と!ねえ教えて何がいけないの!?」
私の逆光とシンドリーが歌うウタカタララバイが重なり響きながら、お互いに槍を何度もぶつけ合う。
そして同時に槍を振り上げた。
『”重々しい受難曲(グラーヴェ・パッション)”!!』
同じ技がぶつかり合い、二人同時に後ろへ吹っ飛ばされる。私は転がりながら着地し、シンドリーは難なく着地する。
(ウタウタの力を全力で乗せたのに互角!?どれだけパワーあるんだ…!)
おそらくシンドリーの歌はただ気分を上げているだけのはず。それなのに互角とは…
そしてシンドリーは槍を持って立ち上がると—
「もう眠くはないな!ないな!ないな!」
また歌い始めながら向かって来る。今度は逆光だ。
「メドレーってわけ!?」
「うん!だってホグバック様のために戦うのも歌うのもとっても楽しいもん!これが私の新時代だよ!…もう寂しくないさ!ないさ!」
「くっ…」
ニコニコと笑いながら歌い槍を振り回すシンドリー、その細腕から出ているとは思えないパワーの攻撃をなんとか音撃槍で受け流していく。
ここに来るまでで分かっていることが一つ、ゾンビはウタワールドに引きずり込めない。
影には魂が無いのか、影が別の体に入れられているからなのか、モリアの能力の方が支配力が強いのかは分からないが、最初に上陸した時ゾンビにウタウタの力が効かなかった。それにホグバックだけを乗っ取ったとしてもおそらく意味が無い。ホグバックを操って指令を出させようとしても、ウタワールドにいる最中は眠っている。喋って指示を出させられない。
つまり、少なくともこの3人のゾンビは、現実だけでなんとかしないといけない。
そう考えながら徐々にこちらを押してきていたシンドリーの攻撃を” 低音域の遁走曲(フラット・フーガ)”で弾き、一旦距離を取った。
その時、視界の端に剣士ゾンビがロビンの拘束を無理やり振りほどくのが見えた。思わずそちらを見ると、私の方を見ながら腕を交差させ構えていた。
両手の剣が鬼の角のように見える、何度も見た構え。
「やばっ…」
「”鬼——」
すぐにその場から全力で飛びのいた。
「斬り”!!」
さっきまで私がいた空間を、高速で剣士ゾンビが切り裂いた。靴の先端に何かが掠った感覚に寒気を感じながら床に崩れ落ちる。
すぐに剣士ゾンビがいるはずの方向を見るが、その姿がもう無い。
「えっ…」
「”虎——」
真上から聞こえた声に思わずそちらの方を見る。空中に刀を引いた剣士ゾンビがいた。
座り込んでる状況じゃ、避けるのが間に合わない。
「狩りィッ”!!」
剣士ゾンビの刀が叩きつけられる。それに斬られる直前、誰かに背中を引っ張られギリギリで回避した。
後ろを向けば、何重にも咲いたロビンの手が私を一気に引き寄せていた。
「ロビン!ありがとう!」
「ええ!…あの人達、随分なパワーを持っているわね、無理矢理振りほどかれたわ…」
そう話している間にも、チョッパーがペンギンゾンビに蹴られ私達の傍に転がる。
「チョッパー!」
「くそっ…やっぱり本物みたいに強い…!」
「さあ!次の歌いっくよー!!」
先ほどまで逆光を歌ってたシンドリーが声を上げた。ホグバックは「まだ歌うのか…」と呟いていたが。
「…その…ぶれーな…ざんきょう…んん?…罵詈雑言でも…しんぐ……?」
「ん?どうしたシンドリーちゃん」
「うーん…なんだかこの歌うろ覚え…」
様子がおかしいシンドリーとホグバックが会話をしている。これまでの歌とは明らかに違う、ぎこちない歌い方だった。
「あんな歌詞、聞いたこと無いぞ…」
「もしかして作曲中の歌かしら」
「ううん、私…あんな曲、知らない…」
ロビンとチョッパーにそう答える。
知らない…はずだ。
でも私の影が歌っているなら私が知っている曲のはず。今まで歌ってたのも私の持ち歌なのだから。
そのうろ覚えらしい歌詞とリズムからなんとか思い出そうとしたその時だった。
「うっ…ああ!?ぐ…うう…」
突然ひどい頭痛に襲われた。傍にいたチョッパーたちが心配して声を上げてくれるがそれに答える余裕もない。
最近起こっていた頭痛と似ていた。でも痛さがまるで違う。まるで何かが頭の中で暴れているように激痛がどんどん酷くなっていく。立っていられなくて、その場に頭を抱えて蹲ってしまう。
響くようにどんどんとその頭痛が大きくなっていく。
「ウ——どうし——」
「——タ!?」
2人が何か言っているが良く聞こえない、自分がどうなっているかよく分からない。
全身の感覚がふわふわとしていて、まるで自分の体じゃないみたいで—
「な——あい——」
「—タ!待———!」
何か風を感じる…いや、私が動いてる?でも…動いたつもりなんて…
「な——こい——急に強———」
「———お前———リーちゃ——助———!」
—オ前ジャ意味ガ無イ
はっきりと誰かの憎しみが籠ったような声が聞こえて、その瞬間、頭の中がはっきりとした。
「…え?」
呟いた私のすぐ目の前には焦りの表情を浮かべるシンドリーの顔、そして私の左腕は音撃槍を使ってシンドリーを床に押さえつけていて、右腕はその手首をシンドリーに捕まれている。握っていた指から力を抜くとそこからソルトボールが2つ落ちた。
「私、何を—」
「”アンチマナーキックコース”!!」
「がっ…」
突然腹部に衝撃を受けて上へ吹き飛ばされ、そのまま床に落ち叩きつけられた。
「げほっ…がはっ…」
「ウタ!!」
チョッパーの叫び声が聞こえた。口の中に鉄の味がする。ペンギンゾンビの蹴りをまともに食らってしまったらしい。なんとか目を開くと、構えを取る剣士ゾンビが遠くに見えた。
「”艶美魔…夜不眠…”!」
ゆらゆらと揺れる刀が見え、なんとか立ち上がろうとするが、体が動かない。
「”鬼斬り”!!」
その攻撃を、人型になったチョッパーが私を抱えてなんとか避ける。そこに影が落ちた。
高く飛び上がったシンドリーだ。
「いきなり変なことしないでよ元私!”急速な(プレスト)”…」
「”十輪咲き(ディエスフルール)”!」
シンドリーの追撃を、ロビンが咲かせた腕で槍を握り無理矢理方向を変えさせる。その間にチョッパーが私を抱えて離れようと走る。
「妙なことをしやがってクソ女!」
「うぐっ…!」
「"三刀流 百八煩悩鳳!"」
ペンギンゾンビの声と共にロビンの声が聞こえ、それと同時に剣士ゾンビの声が聞こえた。チョッパーが私を強く抱きかかえて飛びのくが間に合わず——
「うわああああ!!」「きゃあああ!!」
チョッパーの悲鳴と共に攻撃の余波に巻き込まれてロビンの傍まで吹き飛ばされる。
私達の傍に剣士ゾンビとペンギンゾンビが近寄る。
私達3人とも、取り押さえられてしまった。
「ハァハァ…ウタ、急にどうしたんだよ…!?」
「わ、分かんない…私、意識飛んでて…」
「苦しまなくなったと思ったら…突然ゾロとサンジの影が入ったゾンビを蹴散らしてシンドリーを抑え込んでいたわ。随分と強くなっていたように見えたけど…」
「そんなことしてたの…?」
剣士ゾンビとペンギンゾンビに挟まれながら、チョッパーとロビンの問いに答える。何が起こったのか分からないが何故か勝手に体が動いていたらしい。ずっと起きている頭痛も、さっき起きたことも何もかも意味が分からない。
混乱しながら頭を上げると、ホグバックが、傍らにシンドリーを携えながら私達が負けた姿をニコニコと満足げに見ていた。