海兵ルウタとREDの世界線との邂逅8

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅8


世界の治安を維持する世界政府直下の組織である海軍本部。

そこから発令された命令はたった一人の女を討伐するというもの。

たかが21歳の歌姫を討伐する為だけに軍艦30隻、兵力2万の規模を派遣した。



「おっかしぃよね~~四皇の海賊団とでも全面戦争をする規模だよねぇ~」



世界最高戦力である海軍大将“黄猿”は過剰な戦力を率いながら愚痴を溢した。

全世界が注目している歌姫に差し向ける戦力ではない。

どちらかいうと、【四皇】“赤髪のシャンクス”とやり合う為の戦力である。



「大人しく従ってくれるといいのですが…」

「そう願いたいけど、やらかしたという事は、もう説得は無理だよ~」



同じく海軍大将“藤虎”も歌姫とやり合いたくないようだ。

政府からの抹殺命令を受け入れたサカズキ元帥の指令をできるだけ抗うつもりだ。

何故なら既に彼女は、全世界にファンがおり、手を出せば海軍の権威が失墜する。

本来なら歌って踊ってファンと楽しんでいる歌姫など彼としても手を出したくない。



「それにエレジアには“トットムジカ”の伝説がある」

「“トットムジカ”?」



トットムジカについては藤虎も知らず同僚の話に喰らい付いた。



「古代に封印された魔王、攻撃が全然通じない化け物らしいよぉ?怖いねぇ~」

「それよりも…赤髪海賊団の方で怖いのは?」

「そうだ、ウタを手を出せば、必ずシャンクスが報復に来るよ~嫌になるよ」



30隻の軍艦で構成される大艦隊は、音楽の都だったエレジアに向かっている。

その大船団の先頭に位置する軍艦に藤虎と黄猿が乗り込んで海軍を率いる。

皮肉にも赤髪海賊団が滅ぼした島で赤髪の娘がライブをやるという奇縁。

彼女と衝突が避けられない2人は、四皇との全面戦争を覚悟していた。



「先行したコビー大佐との連絡が未だに取れません」

「そうか……世界転覆計画は実行されたか」



G-1支部の支部長であるモモンガ中将も軍艦1隻を率いている。

そんな彼が部下からライブ会場に潜入した大佐と連絡が途絶した状況が続いている。

それを何度も聴かされており、島に上陸しない限り会場の状況を把握できなかった。



「嫌な天気だ」

「豪雨にはならないようですが、銃の扱いに注意が必要です」

「もうすぐエレジアに上陸だ!武装偵察班は臨戦状態で待機せよ!」

「ハッ!!」



モモンガ中将の命令を受けて伝令兵が各部署に連絡を開始した。

武装偵察班はエレジアへの上陸体勢に移行した。



《こちら89号艦、航行に異常なし!繰り返す89号艦、航行に異常なし》

《エレジアの天気は雨、銃火器の取り扱いに注意せよ》

《繰り返す!!シグナルコード044を遂行せよ》

《こちら旗艦31号艦、相対方位20°にエレジア本島を視界で捉えた!繰り返す!!》



軍艦の通信室では、通信兵が次々と電伝虫の念波を飛ばして情報を伝達している。

30隻の軍艦が一糸乱れず動けるのは、彼らのおかげである。

機密情報を扱う関係上、海軍大将すら気安く出入りができない通信室。

しかし、人間とは愚かなものでそのセキュリティーを悪用する者たちが居た。



「オラ!“フルハウス”だ!100ベリー頂くぞ!」

「てめぇふざけんな!イカサマしただろう!?」

「ウタグッズのトランプを細工するわけねぇだろう!!」



とある軍艦では、機密情報を扱う通信室が小さな賭博場となっている。

もちろん、平時ですらそんな事はありえないのだが、今回は事情があった。



「そういえば衛生兵の姿が見えんな」

「映像電伝虫の調子が悪いって診察しに行ったぞ」

「どうせいつものように睡眠薬と栄養剤を与えて寝かせてるんだろう」

「獣医師じゃないのにご苦労のこった」



最低限の任務に就く海兵以外は休息を取れとウタ准将から命じられていた。

故に彼らは、2名の通信兵を残して残りのメンバーは賭博で遊んでいた。



「い、良いんですか!?こんな事をして!?」

「バレなきゃセーフだ。何の問題もない」

「ですが!!」



通信兵どころか航海士、下士官、士官といった部隊の中核が腐敗している。

初めて通信室に招待された新兵は彼らを目撃して驚愕するしかなかった。



「ウタ准将にバレたら大目玉を喰らいますよ!?」

「とっくにバレてるぞ?あの方の見聞色の覇気を舐めるな!!」

「ええぇ!?」



もちろん、こんな馬鹿な事をやっているのもウタは気付いていた。

しかし、彼女は自分の目の前でやらかさない限り、極力見逃していた。

長期間の航海で心身を疲弊する兵士の影響を踏まえた結果だった。



「もちろん、ウタ准将に話せば怒られるから黙ってろよ坊主!」

「やはりおかしいです!!」

「ウタ准将は我々に気を遣ってくれてるんだ」



下士官の1人は、ここ最近ウタ准将がミニスカートを履いているのを知っている。

それはルフィ大佐の為というより、部下の対する目の保養というのは分かっていた。

一応、この船にも女海兵が7名乗っているが、同僚に鼻の下を伸ばしたくはない。



「別に任務に支障がないのであれば、別に問題なかろう」



サカズキ大将から派遣されたお目付け役の大尉ですらこれを見逃している。

この部隊のNO.3であり、実質サカズキ大将の息が掛かった者ですらこの有様。

思い付きで軍艦でライブをする“海軍の歌姫”の部隊は制限はあるが自由過ぎた。



「おい大変だ!」

「どうした?」

「近海で大将2名が率いる30隻の軍艦がシグナルコード044を施行するみたいだ!!」

「軍艦30隻!?バスターコール3回もお代わりできるじゃねぇか!?」



忠実に任務をこなしていた通信兵は、盗聴用の黒電伝虫で念波を拾っていた。

しかし大将2名を乗せた軍艦30隻の大艦隊の存在を知って彼らは頬を指で捻った。

結果は、痛かったので事実であるが、尋常じゃない事態に困惑するしかなかった。



「シグナルコード044というと…強襲上陸作戦だったか?」

「1週間前に変更されたばかりの暗号だ。ここで聴く事となるとは…」



ウタグッズや小銭で賭博に勤しんでいた海兵たちは顔を見合わせた。

ただごとじゃない事態にさすがの彼らも仕事モードに戻った。



「まさか“金獅子のシキ”がまた脱走したのでは!?」

「ルフィ大佐にぶっ飛ばされたのに懲りねえ奴だな…」



先日、20年ぶりに活動を再開して“東の海”を滅ぼそうとした大海賊“金獅子のシキ”。

かつて“海賊王”をも追い詰めたほどの実力者だ。

それはルフィ大佐とウタ准将、海軍本部の精鋭にサイファーポールが参戦した。

結果は、シキの逮捕と新生金獅子海賊団の壊滅と傘下の海賊の捕縛で終わった。



「でも納得はできる」

「なら、何でおれらに情報が来ないんだ?」

「虹色の霧で念波障害があったせいで届かなかったんだろう」



虹色の霧は船乗りに恐れられており、実際“永久指針”と念波が使えなくなった。

実際に遭遇してみれば恐れられる理由が分かるのは霧も大海賊も同じである。

一刻も早く情報共有をしなければならない。



「こっちから一報を入れろ。とにかく大艦隊の意図を探れ」

「ハッ!!」



小さな賭博場の元締めである通信部の中尉の指示で通信兵は連絡を取り始めた。

ところが、交渉をしてみると不可解な点がいくつもあり、話が嚙み合わなかった。



「なんだあいつら?おれらの存在を認知していないみたいだったぞ…」

「まだ良い方だ。おれなんか罵倒されたぞ」

「大将黄猿は分かるが藤虎って誰だよ…しかもサカズキ大将が元帥になってるし…」



さきほどの大艦隊は、サカズキ元帥の命令でエレジアに向かった大艦隊と判明した。

大将黄猿と大将藤虎を乗せた兵力2万の大艦隊はエレジア近海まで来ていた。

この時点で突っ込みどころだらけでウタ准将率いる部隊は混乱した。



「分かった事は1つ、我々が停泊している島はエレジアという場所のようです」

「エレジア?たしか10年前に赤髪海賊団が滅ぼした島だよな?」

「そうそう、音楽家志望の学生だった当時の俺は、シャンクスを恨んだもんだ」

「シャンクスか…」



通信室に居た海兵たちは、どんよりとした空気に包まれた。

原因は、ウタ准将が赤髪海賊団を本気で恨んでおり名を出すのも禁じられていた。

「彼に対する情報をウタに話すのを禁ずる」とサカズキ大将の勅令すら存在した。

実際、彼の名が出てくるだけウタ准将の様子が可笑しくなるので因縁が窺える。



「どうする?」

「一応、モモンガ中将がこっちに来ることになっている。連絡するべきでは?」

「よし、ウタ准将に一報を入れろ。我々は片づけを開始する!!」

「ハッ!!」



小さな賭博場は閉店となり代わりに強固なセキュリティーを持つ通信室に変貌する。

通信兵たちは艦内に居る海兵たちに連絡を取りつつ、モモンガ中将の到着を待った。

その頃、寝付けないウタ准将はベッドの上で音楽を聴きながら横になっていた。



「胸騒ぎがする!!」



古代種の音貝に収録された自身が歌った30曲の歌を聴いている歌姫。

昼寝をするつもりが胸騒ぎがして、気を紛らわせるために歌を流していた。

私室の防音はしっかりとしており、外部に音が漏れる事は無かった。



『以前にもこんな事があった…考えたくないけど…!!』



アラバスタ王国でクロコダイルの鉤爪にルフィが貫かれた時を思い出していた。

その時にした胸騒ぎと同じようで気が気でなかった。



「だめね…ルフィを信じられないなんて…本当に私は…」



准将の肩書をもつウタは自己肯定感が低かった。

原因は、自身の我儘のせいでルフィに夢を諦めさせたのに起因する。

そして“世界一の歌姫”という称号も自力ではなく海軍の全面協力のおかげだった。

そのせいで、今歌っている曲を聴いてもウタの心は晴れる事はなかった。



「ねえルフィ、海賊を諦めて本当に大丈夫だったの…?」

「こんな私に気を遣う時間で、もっといろんな人を救えたんじゃないの?」

「どうして私を選んだの?私はこんなに卑怯で烏滸がましい女なのに…」

「ルフィ、あなたが海賊になっていたらきっと素敵な仲間達が居たでしょうね…」



幼馴染のルフィと面に向かって話せない言葉を次々と紡ぎ出していく。

今でも彼の夢を諦めさせたのに後悔しているウタは人形に手を出した。

“生命帰還”で紅白の髪を動かしてホビルフィ人形を掴んで遊び始めた。



「おれはルフィ、海賊王になって新時代を作る男なんだ~~」

「ウタ安心しろ~!おれはずっと傍にいるんだ~~!」



1人でルフィのモノマネをしているウタの精神は限界だった。

人形ごっこで遊ぶのもウタワールドへ逃げ込むのも大した差はない。

発作反応に苦しみ出した彼女はベッドから出て引き出しに向かった。



『ルフィ!!ルフィ!!!』



ハンガーにかけている正義のコート、ルフィが描いた自分のファンアート。

コルクボードに貼られているズタズタに裂かれた赤髪海賊団の手配書。

その隣にある引き出しを開けて彼女は1つの音貝を起動させた。



《ン~~~~ンンン~~~♪みなみのし~~まはあったけぇ~~♪》



それは空島で歌ったルフィの歌を収録した音貝だった。

音程が外れているし、聴くだけでアホになりそうな『アホの歌』。

とにかくルフィを欲している彼女には彼の歌が特効で精神を落ち着かせる。



「いいの!!ルフィの歌!!最高なの!!」



再びベッドに戻ったウタは、ホビウタ人形とホビルフィ人形を手に取った。

荒んだ心を慰める様に彼女はルフィの歌を聴きながら人形ごっこを勤しむ。

自分の気を惹く為に歌を歌ったと思ったウタ人形はルフィ人形に近づく。

すると、ルフィ人形は荒れたウタ人形を優しく押し倒して身動きをとれなくした。

さきほどとは打って変わって息を荒げてウタは嬉しそうに独り言を呟きだした。



「押し倒された彼女は抵抗するが、愛撫されると本能が勝って両腕を彼の背中に…」

「プルプルプルプル!!!」

「ふにゃああああ!?」



暴れるウタ人形は徐々にルフィ人形を受け入れて両腕を彼の背中に回したその瞬間!

ウタの寝室に備え付けられている電伝虫が念波をキャッチして主人に音で伝える!

不意打ちをされてベッドから飛び出して赤面になったウタは言い訳を開始した。



「違うのぉ!私はそんなつもりじゃなかったの!!!」

「こ、これはマッサージ!!義姉ちゃんに尽くすのが義弟の役目でしょう!?」

「私とルフィは、まだそんな関係じゃないの!!確かにこうされたら…あれ?」



世界経済新聞でウタとルフィの熱愛報道が何度も記事になっていた。

ルフィと気軽に逢えなくさせる記事をウタは、あえて苦情を入れるだけで済ませた。

暗い話題しかない大海賊時代で明るいゴシップ記事を徹底的に潰したくなかった。

なにより卑怯な彼女は、ルフィにゲームをさせた。



『どうやって私に逢いに来るのか楽しみ!!』



純粋無垢な17歳の幼馴染が視線を掻い潜って自分に逢いに来てくれる。

あのルフィが考えて行動してスリル満点の逢引きをする。

少しずつルフィを異性として認識している彼女は、それを楽しんでいた。

しかし、さきほどの行為はさすがに度が超えており、言い訳するしかなかった。



「電伝虫じゃないの!!焦って損はしてないけど…ちょっと恥ずかしい」



電伝虫の鳴り響く音を聞いてようやく落ち着きを取り戻した彼女。

汗を掻いたのか下着も湿っており、スカートは皺になって鼓動は昂ったままである。



「はいぃ!ウタ准将ぉ!なんかぁあったの!?」

「お休みの所、申し訳ございません!」

「いいから早く要件を言って!!」



やけにハイテーションになっている上官の返答に通信兵は事情を察した。

要件だけ話して指示を求めると、今度はただ下がりのテーションで話された。

『対応が面倒な上官だな…』と彼は思いつつ、メモを取りながら指示を受けた。



「はぁ……また何かあるのね」



嬌声じみた声から呆れたような声に変化したウタは電伝虫の受話器を降ろす。

すかさず人形を片付けて、正義のコートを羽織ってカットラスを握り締めた。

本当は服装を着替えたかったのだが、その暇が無いので部屋を後にした。



「あっ…音貝を持ってきちゃった…まあいいか」



自身の歌が30曲も収録された音貝を持ってきたと気付いた歌姫。

「あとで返せばいいか」とコートのポケットに仕舞いこんだ。



「准将!?」

「どうしたの!?」

「紅白の髪が乱れてますよ!」

「ありがとう!」



生命帰還で人形ごっこをしていたせいで髪が乱れていた。

すぐに彼女は海兵に感謝の言葉を告げて手鏡で髪を整えた。



「ウタ准将!!もうじきモモンガ中将の軍艦がお出でなさいます」

「ありがとう。ちょっとお願いがあるけど良い?」

「はい、なんでしょうか」

「対海王類用の拡声器の起動をしておいてくれない?」

「はい?」



ウタ准将の軍艦には、海に向けて音を流す拡声器が存在する。

ライブ会場になった軍艦からライブの曲を流すのに使う。

しかし、水中に居る海王類をウタワールドに連れて行く為の拡声器もあった。

上官の指示に困惑しながら海兵は拡声器の起動に向かった。



「お待ちしておりました」

「状況は?」

「モモンガ中将率いる軍艦3隻がこちらに向かって来ております」



甲板に出ると直立不動で整列している部下に出迎えられた。

完全に仕事モードになった海兵たちの顔は頼もしい。

彼女が賭博等の息抜きを許しているのは、こういう理由もある。



「ここまで大規模な歓迎はしなくていいの。甲板員以外は船内で待機を」

「ハッ!!」



身体が濡れる感覚がして気付けば小雨が降っていた。

傘を渡そうとする部下を合図で下がらせて甲板員以外を船内に下げた。

友軍であり、偉大な先輩に対する態度では無かった。



「報告!!モモンガ中将の軍艦が隣接しました!」



同等の軍艦が停泊している軍艦に並行になる形で停泊した。

残りの2隻は、それを見守るように少し距離を取っていた。

何故か船首楼の三列砲塔がウタが所有する軍艦に砲口を向けられている。



「お待ちしておりましたモモンガ中将!わざわざお出向きになられるとは…」



船に乗り込んできたモモンガ中将の部隊は物々しい雰囲気であった。

過剰なほどに武装しており、これでは強襲上陸してきた部隊にしか見えなかった。

特に歌姫に逢いに来たのにゴーグルとイヤホンをするという装備は如何なものか。

とても友軍に見せるものではないと思いつつウタは中将に感謝の言葉を告げた。



『何が起こっているんだ…』



当のモモンガ中将は、自分達の討伐する人物が目の前に居るのに困惑した。

ライブ会場に居ると推定されたウタが正義のコートを羽織って軍艦に居る。

部下からそれを聴いた時、馬鹿らしさに怒鳴ってしまったほどだった。



「お前はウタか!!」

「モモンガ中将、まさか遭難した私達を捜索してくださったのですか!?」

「何を言っている!?」

「だって、電伝虫の念波が通じず救難信号も音響弾も役に立ちませんでした…?」



だが、実際に居るのは手配書と同じ顔の女だ。

わざわざ自分から居場所を告げるのに首を傾げたが、話は本当のようだ。



「……な、何のま…ねですか…」



モモンガ中将の手を取ろうとしたウタは代わりに海楼石の手錠を嵌められた。

能力者である彼女は、一瞬で全身の力が抜けて甲板にへたり込んだ。

これには、儀仗兵のように整列していたウタの部下も動揺した。



「ウタ!貴様は『世界転覆計画』を実行した大罪により現行犯逮捕する!!」

「せぇかぁいてんぷぅくけいかくぅ?」



モモンガ中将の言葉をウタは信じる事ができなかった。

確かに色々やらかしたが、むしろ英雄視された自分にそんな疑いが?

元から自己肯定感が低い彼女は衝撃を受けた。



「とぼけるな!ライブ会場に居る5万人をウタワールドに取り込んだではないか!」

「はい?」



さっきまで意味深なお人形遊びをしていたウタには見当もつかなかった。

そもそも彼女のライブには、そこまでの観客を招待した事など一度もない。

あの頼もしいモモンガ中将が別人のように顔を顰めて怒鳴っていた。



「ウタ准将!?」

「貴様らも歌に洗脳されたな!?」



上官を助けようとするが強襲偵察班に銃口と突き付けられて海兵たちは動けない

ウタ准将の合図を見て部下たちは両手を上げつつも跪いて無抵抗の意を示した。



「よし、思った以上に早く終わったな」

「えぇ一時はどうなるかと…」



強襲偵察班も肩透かしを食らったようで油断しきっていた。



「それと貴様!」

「モモンガ中将?」

「正義のコートはコスプレの道具ではないぞ!!我々の正義を象徴するものだ!!」



モモンガ中将は、ウタが海兵のコスプレをしていると錯覚して発言した。

ところが、この発言は彼女の逆鱗に触れた。



「そう…私の知っている中将じゃないのね」

「さっきから何が言いたい?」

「ねえ、モモンガ中将。生命帰還の達人に…海楼石の手錠なんて意味無いの!!」

「き、貴様!!」



ウタは施錠された海楼石の手錠を生命帰還を駆使して自力で抜け出していた。

甲板に落ちた手錠を見たモモンガは急いで防聴システムを起動させた。

その隙に距離を取ったウタは〈ウタカタコネクション〉を歌った。



想い~~なんてぇ~~~気付けない~~の♪繋がっているの~♪

「なっ!?」

純粋の愛に焦がれるーまーまに~~♪SING~~ON♪



間一髪、歌を防いだモモンガはウタに斬り掛かるが体技の“紙絵”で回避された。

攻撃されても歌い続けるウタによって彼女の部下はウタワールドに招かれた。



I can’t stand 諦めた夢、奥底で広がっていく~気持ちを♪

「くそが!!」

信じていたいあの人にどうやって伝えようか♪魂は繋がってる精神に…よってぇ♪

「がっ!?」



早口でラップを踏みながら歌うウタに海兵が発砲をした!

歌姫はカットラスの刃で弾いて跳弾した鉛玉が発砲した海兵の脛に命中した。

彼女は悲鳴をあげて倒れ込む海兵を指先で出した紐で簀巻きにしてしまった。



自制なんて要らないよね♪後悔してでさっさとやろう♪時間が戻ってこないから♪



モモンガ中将は再度ウタに斬り掛かろうとすると歌姫は右手を挙げた。

その瞬間、モモンガ中将が乗って来た軍艦が宙を舞う。

なにごとかと彼が警戒すると海中から飛び出した五線譜に軍艦が張り付いた。



本音を出しなよ Regret does not stand first♪理性なんてぶっ飛ばせ♪



モモンガ中将の軍艦に追随していた二隻の軍艦が異常を感知し三列砲塔で砲撃した!

砲口から飛び出した6つの砲弾は、歌姫が放った飛ぶ斬撃で着弾を阻止された。

ウタが放った「嵐脚“4分音符の3連符<フィルテルトリプレット>”」は止まらない。

それは砲弾を裂くだけ満足せず3つに連なった砲門を切り裂いて空に消え去った。



誤魔化すのは限!界!私はもう!隣人に伝えよう♪思いは連動する♪

儚い現実の世界のステージ上で、想いを紡ごうよ~~♪

「これ以上はさせん!!」



再度砲撃しようとする二隻の軍艦を五線譜が張り付いて身動きが取れなくなった。

甲板に降りて来た歌姫を襲撃した海兵の一員を紐で拘束して彼女は振り回す。

白兵戦を挑んだ彼らは、同僚の肉体にぶっ飛ばされて叩きつけられた。

それでも怯む事がないモモンガ中将の刃をウタは鍔迫り合いで何とか防いだ。



I regret. Should have been more honest 忘れない♪Yeah♪

教えてあげる私が悪かったの。望み通りに敵う世界じゃない。嘘じゃない♪



モモンガ中将は世界の歌姫が何故自分の太刀筋を読まれるのか納得できない。

ウタ准将の剣技を教えたのが並行世界の彼であり師範であったと分かるわけがない。

師匠の剣技を必死に抑えるウタを見つめていた海軍本部の少佐が動いた。



泡沫なんて分かって…いたのに♪手に入れた時どうしてこんなに空しいの♪



海兵のウタを切り掛かろうとした海軍本部少佐の攻撃を彼女は見抜いた。

それと同時に生命帰還で背中をクの字に折って大きく反らせて剣を引いた。

バランスを崩して前に動いたモモンガ中将の眼前に少佐の刃が当たりそうになる。



「くっ!!ん!?」

人の夢は何人たりとも止められない♪ただの縋りじゃないこの願い♪



少佐が放った斬撃どころか存在そのものがウタが作った幻だった。

彼の肉体は音符に変化してモモンガ中将の身体を簀巻きにして倒した。

そこでタイミングよく歌姫は歌い終わり【敵】を全て拘束し終えた。



「ば、馬鹿な…ウタウタの能力者は耳を封じれば良いと…」

「ハァハァ……訓練された軍人に向かって言うべきじゃないの…モモンガ教官」



さすがに彼女でもモモンガ中将と軍艦3隻を能力なしで対応できなかった。

能力で疲弊しながら歌いつつモモンガ中将を相手にするのはきつい。

現世に具現化させた音符の戦士をわざわざ海兵に化けさせないと勝てなかった。

辛勝した彼女は、かつての師匠が身に着けている防音ゴーグルを外した。



「歌を聴くと心をウタワールドに連れて行くだけではなかったのか!?」

「厳密に言うと違うの…ウタウタは精神を……」



ウタはウタワールドに誘った部下や海王類の意識体を変化させた。

現実世界に拘束具として具現化させる為にリソースを割かれており眠気が襲う。

それでも、気力で眠気に耐えている彼女は、必死にモモンガ中将と会話していた。



「ハァハァ話し合いをしましょう。私の知っているモモンガ中将の話からさせて…」



さきほど歌った『ウタカタコネクション』は、普通に聴くとラブソングに聴こえる。

実際は、ルフィの夢を諦めさせて後悔している歌姫の心境を歌ったものだ。

誰かに拒絶されたくないが、そのせいで夢を諦めさせた事を未だに引き摺っている。

それでもモモンガ中将を説得できると信じて彼女は知っている事を話しだした。

魂同士の繋がりはまだ消えていないと信じているから…。


海兵ルウタとREDの世界線との邂逅9に続く

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