海兵ルウタとREDの世界線との邂逅7

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅7



ウタは救世主として映像電伝虫を見ている観客に讃えられた。

元々優しかった彼女はみんなの力になろうとそれを演じ始めた。

メサイアコンプレックス、それは自分を満足させる為に相手を助ける症状。

ただでさえ彼女は精神的に追い詰められた上にネズキノコのせいで暴走した。



「ダメだよ…ルフィとみんなは永遠にずっとここで私と暮らすの!」



もはや救世主を通り越して邪神になりかけていた。

子供に語りかけるように優しく話しかけていたが目が笑っていない。

ここでようやく海兵ルフィがこのウタが正気じゃないと気付いた。



「ウタ、貴女の歌声は大好きだけどずっとは…きゃあああああ!!」

「ナミさん!?」



迷惑が掛かるからと遠慮してしまい歌姫に断りを入れようとしたナミ。

ウタが創り出した音符に弾かれてしまい焦ったサンジが助けようとした。

しかし、それを嘲笑うようにウタは彼らを五線譜で包み込んで拘束してしまった。



「みんな!!悪い海賊を見つけたよ!どうしようかな~!」



ウタは観客に向けて声を張り上げて反応を待った。



「UTA!UTA!UTA!UTA!」

「ウタちゃん!悪い海賊をやっつけて!」



彼女の想定通り、観客たちは海賊を排除して欲しいという意志表示をした。

みんなの為に行動しているウタは麦わらの一味を堂々と裁く名分を手に入れた。



「みんなの気持ちはよく分かった!私が海賊をやっつけちゃうね!」



予想通りの反応で満足するウタの合図でアニマルバンドが演奏を開始した。

海賊に対する彼女の怒りが表現されたような演奏は観客の怒りを表現されるようだ。

観客たちはライブが再開したと思って耳を傾けている。

そして両手で何度も手拍子をしているウタに釣られて観客も手拍子を始めた。

完全に歌姫のパフォーマンスと観客に思われていた。



「おいおい!いくらルフィの幼馴染だからってやりすぎじゃねぇか!?」

「ゾロ!やめておけ!絶対に勝ち目がねぇぞ!!」



調子に乗り始めた歌姫にお灸を据えようとしたゾロを海兵ルフィが咎めた。

10年もウタと一緒に居たからこそ止めようとしたが無駄だった。

彼女の掌から出てきた音符が戦士となって麦わらの一味を襲撃した。



真っ先にゾロは音符の戦士に斬り掛かって両断すると無数の音符になった。

ところが、すぐに元通りとなり再びゾロを襲撃した。



「なんだこりゃあ!?」

「どんどん増えてきます!!」



フランキーとブルックも異常事態と気付いたが交戦するしかなかった。

武器を持った音符の戦士が向かって来るのだから迎撃するしかない。

音符の戦士自体は弱かったが無限に再生してキリがなかった。

そしてウタがどんどん音符の戦士を作り出しており彼らは数で押され始めた。



「へえ、観客参加型のライブってこんなんなのか」

「なわけねぇだろう!!」



カラフルな照明に照らされて100を超える音符の戦士が飛び回っている。

未だにライブの演出と思っているルフィの発言にウソップのツッコミが光る。



「ルフィ!ルフィが悪いんだよ!私の友達なら海賊を諦めて!!」

「お前、何を言ってんだ?」



能天気にボートを漕いでいるルフィに音符に乗って来たウタに止められてしまった。

かつて海賊を肯定していたウタは海賊を否定している。

これにはルフィも混乱して拒絶反応が出てしまった。

遠回しに「自分の傍に居て欲しい」なんて意図があるなんて気付くわけがない。

とりあえず彼女が仲間を危害を与えると分かったルフィは臨戦状態になった。



「……のらねぇ。この喧嘩は買わねぇよ。戦う理由がねぇ」



いつもなら仲間に手を出されたらぶっ飛ばす海賊ルフィは全身の力を抜いた。

姉のように思っていたウタが妹みたいに甘えているようで攻撃できなかった。

それにようやく彼は、ここが現実世界ではないと気付いたのもある。



『はあ?何で乗ってこないのよ!?チキンレースはやった癖に!?』



チキンレースで同じ手に引っ掛かたルフィを見てウタは安心した。

身体は大きくなっていてもルフィは昔のままで可愛い弟分だと思い込んでしまった。

実際は、ルフィはウタの精神年齢をとっくに超えていた。

昔は勝負を挑む少年を受け流した彼女は、立場が逆転しているのに気付かない。



「ルフィがやらなくても私はやるよ!!」



ウタは〈逆光〉を歌い始めた。

それは文字通り光をぶつけるような子供の癇癪が込められた激しい歌。

民衆を虐げる海賊に対して屈せず、抗っていく決意が秘められている。

早口で冷たく激しく歌う歌姫に昂揚されるように音符の戦士の動きが激しくなった。



「魚人空手“唐草瓦正拳”!!……無理か」



世界政府直下の海賊であった七武海の過去を持つジンベイの拳。

それが直撃して音符となった消滅したはずの音符の戦士。

しかし、何事も無かったように復活してジンベエと交戦し出した。



「ウタ!!さすがに遊び過ぎだ!!」



音符の戦士をぶっ飛ばして攻撃を回避するルフィは必死に呼びかけていた。

だが、彼女の歌は更に激しくなり彼の言葉が聴こえていないようである。

音符の戦士の数と動きが桁違いとなり、麦わらの一味が完全に圧倒されていた。



「なにしてんだ!!」



ウタは特に気にする事も無く五線譜で一味を包んで上空に持ち上げた。

さきほどライブを妨害した海賊の様に彼らは五線譜に貼り付けられた。

それを見たルフィはウタに向かって飛び出していく。

さすがに仲間に手を出されたら動くしかなかった。



『ようやく来たの?遅すぎるよ』



挑発に乗ったルフィを見たウタは遅すぎると感じていた。

昔は彼から勝負を仕掛けてきたのに先ほどから全然挑発に乗らなかった。

12年ぶりに大好きな年上の女の子に逢えたというのに素っ気なさ過ぎる態度。

それはウタにとって悲しくて切なくて、なにより彼に構って欲しかった。



『逃がさないよ』



歌姫の指先から光る紐が放出されてルフィの身体に巻き付いた。

あっという間に簀巻きにされたルフィは宙に浮かんでライブステージに連行された。

ついでに五線譜に張り付いていた海兵ルフィも一緒に連れて来た。



「放せ!!くそ!なんでこんな事をするんだ!!」



必死にルフィはもがくが拘束から脱出できなかった。

“ギア3”をすれば拘束もなんとかなるが、ルフィはウタが怪我しそうでやらなかった。

観客たちはウタの一方的な攻撃で海賊をやっつけたのを見て熱狂し興奮している。

もはや麦わらの一味は、ライブの一環としての余興に思われている。



「ダメだよ…ルフィが海賊王になるのは……」



誰もが興奮している中、唯一冷めているのが歌姫だった。

ルフィが海賊王になる素質を幼少期から見抜いていたからこそ嫌がった。

後世でルフィの名が忌み嫌われて民衆から恐れられる。

彼女はルフィとその仲間が大好きだからこそ、ここで止めておきたかった。



「みんなはさぁ!!海賊はどう思う!?」



だからウタはルフィたちに海賊を辞めさせる為に観客に呼び掛けた。

観客の声を聴けば、多少は彼らも反省するなり動揺するだろう。

歌って宴会をしながら冒険する為に航海するのが海賊。

そういったルフィの価値感を民衆の常識や意見で上書きして欲しかった。



「おれの母ちゃんは海賊に殺された!!大っ嫌いだ!!」

「海賊のせいで街を焼かれた!!」

「海賊なんて存在すら見たくねぇ!!」

「ライブ会場から海賊を追い出して!!」



観客が海賊に対する憎しみをぶつけてくるのを聴いて満足しているウタ。

彼女の背後には、いつの間にか天使を彷彿させる翼が生えていた。

独特な彼女の髪と同じように右翼はピンク、左翼は白色になっている。

元から天使のようだった彼女が本当に慈悲深い天使になったつもりだ。



「プリンセス・ウタ!ルフィはそんな事をしねぇよ!」



五線譜に貼り付けにされたウソップは、歌姫に必死に呼びかけた。

正気を失った様に見える観客たちがルフィに近寄って来るのを止めて欲しかった。

しかし、元からウタはそれを止める気など毛頭ないせいで彼の声は届かない。

それどころか彼女は指を鳴らしてあえて海賊ルフィの拘束を解いた。



「ウタ!おれの仲間を……ほげっふにゅふにゃほへ…?」



すぐに立ち上がって憤慨したルフィに海水をぶつけられた。

悪魔の実の能力者である彼は、海水で自由を失って倒れ込んだ。

さすがに効果があり過ぎるのではないかと観客も思ったが、すぐに気持ちを切り替えた。



「オイオイやばくねぇか!?」

「大丈夫、それより僕たちはやるべき事をしよう」



ルフィたちの事を知っているヘルメッポは彼らに攻撃できないのを知っている。

このままでは、麦わらの一味がウタに捕まってしまう。

それを見過ごせない彼は立ち上がろうとしたが上司のコビーに制止された。

任務を思い出した彼は、私情を堪えて成り行きを見守る事しかできなかった。



「ん?」

「“バリアボール”!!」



少し興奮気味で好戦的になった観客の攻撃を丸いバリアで防いだ男が居る。

バイバリの能力者でルフィの大ファンであるバルトロメオだ。

ウタグッズを全身に身に着けており、ウタの大ファンでもあるのが一目で分かる。



「ロ、ロメォ男……!?」

「ルフィ先輩、ウタ様は何かやべぇべ!勝てる気がしねぇべぇ!」



ウタの大ファンであるバルトロメオも今の彼女が正気じゃないって分かる。

狂信者の彼でも思考は正常なので、ルフィ先輩は2人居るのも疑問に思ってる。

それは置いておいて、ウタの双瞼が狂気に魅入られているのを一瞬で見抜いた。



「お、おれは…負けてねぇ…」

「出た!負け惜しみィ!!」



海水で全身の力が抜けたルフィの言葉には説得力はない。

絶交の負け惜しみポイントでウタは見逃さずに負け惜しみを煽るポーズを取った。

『男として完敗させれば、自分の意見を聞いてくれる』という儚い希望があった。

簀巻き状態をわざわざ解除したのは無力な自分という認識をしてもらう為である。

ルフィだけは全力になれない歌姫が見せた一瞬の隙が付け込まれた。



「あれ?」



2人のルフィとそれを丸いバリアで守る男の周囲を色彩が違う丸い物が覆った。

またバリアなのかと思った観客全員の視線から3人の姿が消えた。

代わりに根元の幹が切られた樹木が音を立ててステージに落ちる。



「消えた!?」

「どこに行ったんだ!?」



観客や音符の戦士が姿をくらましたルフィたちを必死に捜索するが見つからない。

顔を見合わせて何が起こったのか討論したり、動き回っていた。



「他にも海賊が居たのか…」



2人のルフィとそれをバリアで守った男を助けた人物が居る。

それはウタも分かったが少しショックのことがあった。



『ルフィの仲間が私に隠れる様にライブに参加していたの…?』



いつだって正直のルフィは、あの場で居たメンバーで全員だと彼女は思った。

実際は、ルフィを助ける仲間が歌姫に隠れる様に潜んでいた。

それは、彼が自分を信頼していないようではないかと…悲観的になってしまった。



『…ってよく考えたら仲間の数をちゃんと確認してなかったじゃない!』



もしかしたら人数をバラして分散していたのかもしれない。

そう考えた歌姫は少しだけ笑って次の事を考えた。

歌を聴くだけでは、最初で最後のライブを見に来た観客は飽きてしまう。

エンドレスライブだからこそ、彼女は少しだけ観客参加型のゲームをやる事にした。



「ここは…どこだべぇ!?」



気付くとバルトロメオは石造の橋に居た。

ルフィ先輩は2人おり、近くには天井が華やかな光を放つライブ会場が見えた。

何が起こったか周囲を警戒していると橋の袂から見覚えがある男の姿が視線に映る。



「へへっ」



そうやって彼が笑うのも無理はない。

ドレスローザという王国で共闘したトラファルガー・ローが見えた。

それで、さきほど自分たちを救ってくれたのは彼のおかげと分かったからだ。



「トラファルガーもウタ様のライブを聴きに来たのだべか?」

「いや、ベポの付き合いだ」



ルフィと同世代の海賊であり、世界を引っ掻き回した海賊。

そんな彼の部下である白熊のミンク族であるベポがウタの大ファンだ。



「すみません……」



当の本人は申し訳なさそうに頭を下げている。

ベポに頼み込まれて拒否できなかったローは、一緒にライブ会場に来ていた。

まさか、麦わらが居ると思わなかったし、助ける羽目になるとは思ってなかった。



「ところで海兵の麦わら屋って…何がどうなればそうなった!?」

「えっ?おれ?」

「当然だろ!俺らは海賊のお前しか知らねぇ!!」



五線譜にはりつけにされた海兵ルフィも救出していた。

トラファルガーは、ウタの能力に何か関係があると思って連れて来た。



「どうやらおれは、別世界からやってきたみたいなんだ」

「どうしてそんなに冷静に居られる」

「悩んだってしょうがねぇ!ド~♪レ~♪ミ~♪」



開き直った海兵ルフィは、音程の外れた何かを口ずさんだ。

何度か彼が口ずさむと彼の身体は五線譜から外れて脱出できた。



「ウタの能力については知っているようだな」

「だって10年間一緒に居たんだから当然だ!」

「さすがルフィ先輩、海兵でも尊敬するべぇ!」



バルトロメオもトラファルガー・ローもこの海兵が何か知っていると理解できた。

おそらく彼が言っているのは、並行世界のウタであるが能力は共通している。

それでなければ、こうやって五線譜から脱出できるわけがない。



「あの女の能力についていくつか聴きたい事がある…っておい!」

「ブルブル!!…あっすまねぇな!」



ローは、話を訊こうとすると海賊ルフィが身体を振って水滴を飛ばしてきた。

お陰様でベポ以外が海水で濡れてしまった。

しかし、濡れた全員が能力者なのに身体の力が抜けるという事は無かった。



「次は負けねぇ!だっておれが184連勝中だ!!」

「勝負はともかく、とりあえずウタは何かおかしかったぞ」



リベンジに燃える…彼は負けてないと思っているので堂々と戦いを挑む気だ。

さすがに海兵ルフィもウタが異常だと理解しているので警告しておいた。



「あっ!いた!見つけた!!」



一同が海兵からウタの能力の詳細を訊く前にその本人に見つかってしまった。

歌姫はライブを放棄して音符に乗って探し回っていたようだ。



「ウタ様~~!!」

「逃げるぞ!バルトロメオは海賊ルフィを抱えろ!海兵は俺と来い」

「何言ってんだおれは「ルフィ先輩、ここは逃げるべきだべぇ!!」放せ~~!」

「興奮状態のウタじゃ逃げる方がいいな、乗った!」



ウタに太刀打ちできないと分かっている5人は逃げた。

海賊ルフィだけはウタにリベンジするつもりのようだが連れ去られた。



「海賊が逃げたよ!!みんなで海賊狩りをやろう!!」



ウタは観客が暇にならないようにゲームを考えた。

神輿と動く音符を創造して音楽を流しながら海賊を追いかける事にした。

これは新型映像電伝虫も連れて来ており、配信を見ている視聴者も参加できる。

視聴者参加企画という奴だ。



「私の歌を聴くだけだと飽きちゃうよね!みんなで協力して海賊を追い詰めよう!」



派手な神輿に乗ったウタは探求心やロマンに溢れる少年のような顔をしていた。

まるで『逃げる海賊たちは、歌姫の自分と逢うのが緊張している』せい!

だったら、笑顔で追いかければ、きっと分かってくれる…そんな顔をしていた。



『今のうちに火の始末をしておかないとね』



ウタがエレジアでライブをやる計画を立てていた時、戸惑った事がある。

ライブ会場で焼肉をやりたいというファンが居たのだ。

世間知らずな彼女でもライブ会場は火気厳禁という常識はあった。



『誰よ。こんな馬鹿な事を考えているのは…』



確かに美味しい物を食べてライブに参加するのは愉しいと理解できる。

だからといってわざわざ火を使う事を断言してくる…してくれる方がまだマシか。

少なくとも長文で自分を応援してくれるファンの期待を裏切りたくなかった。



『だから孤島で楽しんでもらったらまさかルフィの友達なんてね…』



わざわざコスプレしてアピールしてくれるファンに感謝して特等席を用意した。

あそこなら火事になってもすぐに鎮火できると踏んだからだ。

そしたらそのファンの正体がルフィと愉快な仲間達と分かって…納得してしまった。



『みんなが気を取られている内に新時代の準備をしないとね』



現実世界のウタは、危険になりそうな物を片付け始めた。

もちろんルフィが持ち込んだ焼肉セットもしっかりと退かした。

それでもルフィの仲間たちの武器は片付けようとしなかった。

これを弄ると説得が不可能な気がしたからだ。



『せめてものお守り…でいいのかな』



シャンクスの持っていた剣に憧れでもあったのだろうか。

刃物の内、剣だけは触る事はなくウタは焼けた肉を齧りながらルフィを眺めた。

少しだけ大人っぽく見えて昔と変わらない寝顔だった。



「ルフィ…私は新時代を作りたいの…本当は違うけど…みんなの期待に応えたいの」



ウタは誰も話せなかった本音を寝ていた幼馴染に向けて呟いた。

決して届かないと思っていても、彼女はルフィと逢えて初めて神とやらに感謝した。

あとは、シャンクスさえあれば、彼女はこの世に未練などない。

涙を洗い流すように小雨が辺りに降り注ぎウタは覚悟を決めた様に肉を飲み込んだ。



「まずいな…電伝虫が反応しない…」

「参ったな…本気でウタはあの計画を実行するつもりか…」



ウタワールドでは、逆に空は快晴でポカポカと身体が温かくなる天気である。

ゲームを始めた歌姫に続く観客に紛れて海軍の特殊部隊の隊員たちも歩いていた。

SWORDの電伝虫が反応せず焦っているヘルメッポ。

コビーもいきなりウタワールドに連れて来られたとは思っていなかった。

〈新時代〉の歌の時にでやけに演出が派手で凝っていた点で気付くべきだった。



「SWORDもウタに目を付けていたか」

「サイファ…」

「おい、これ以上話すな…やるなら別だが?」

「ごめんなさい、僕たちもここで縄張り争いをしたくない」



サイファーポールのブルーノも任務でライブ会場に参加していた。

海軍の特殊部隊と世界政府の諜報機関は指揮系統が違う。

そのせいで軋轢や意図しない妨害が発生しているのが現状だ。



「ブルーノさん、能力でなんとかなりませんか?」

「無理だな。ここじゃ体力の消耗が激し過ぎる。特にウタワールドではな」

「そうですか」



ドアドアの能力をもってしてもウタワールドを破る事はできない。

諜報員で唯一、ウタワールドでウタを監視する事になった彼が不機嫌に見えた。

ヘルメッポ達も話す事は…なくならなかった。



「こっちも訊きたい事がある。あの海兵ルフィは何だ?」

「僕たちも分かりません。少なくとも海兵で潜入しているのは僕ら2人だけです」



ブルーノもコビーもヘルメッポも海兵のルフィが気になっていた。

ゴムゴムの実の能力者なのは、ライブを妨害した海賊との戦闘で分かっている。

問題なのは、同じ能力は同時に存在できないという点だ。



「つまり誰かが生み出した存在だと?」

「それもあり得ないです。少しだけ海水を浴びてましたが解除されませんでした」



悪魔の実は3つの系統で分かれており、更に細分化できる。

分身体を生み出す能力も当然あるが、海水に触れれば当然解除される。

海賊のルフィがあそこまで海水に弱体化したのはウタワールドの存在が大きい。

なおさら、その海水に触れて解除されないのはおかしかった。



「ウタの能力で生み出したって可能性は?」

「ライブの邪魔になる存在を生み出すとは思えません」



ヘルメッポの指摘に対してもコビーは否定した。

いくらライブを守るために配備したとしても扱いが雑過ぎた。

そこで彼らが思い付いたのは、信じられない事であった。



「つまり、あいつは並行世界のルフィで海軍に所属していると?」

「自己紹介で海軍本部の大佐って言ってました。おそらく…」

「オイオイマジかよ!あいつが海兵になる世界線があるのか」



コビーは、正義のコートを纏ったルフィが海軍本部の大佐と発言したのを聴いていた。

最初は信じられなかったが、こうして冷静に話し合うと事実の気がした。

あれだけ動いても正義のコートは落ちる気配などなくまさしく海兵の姿だ。



「ここだけの話ですけど…並行世界のウタさんとずっと一緒みたいだったようです」

「つまり、あいつが鍵か」



ウタがライブを中断した時、麦わらの一味との会話もコビーはしっかりと聴いていた。

詳しく聞かないと分からないがウタと一緒に海兵になったと聴き取っている。



「待て待て!…って事は並行世界の海軍もエレジアに来ているのか?」

「ルフィさんが1人で行動するわけがありません。絶対に部隊がいるはずです」



そうなると気になって来るのは、ルフィを送り込んだ存在である。

彼が単独で侵入するなどあり得ない。

必ず支援部隊もしくは、仲間がいるし、指示を下した人間も居るはずだ。



「どうする?どっちを優先するべきだ?」

「僕たちはまず戦力を集めよう」



ヘルメッポの問いに対してコビーはひとまず戦力を集める事にした。

ライブ会場に放置されている五線譜に貼り付けられた麦わらの一味。

ウタワールドから観客を解放させる為に必要な戦力であると信じている。

ルフィさんなら放置しても大丈夫という根拠のない自信も加味している。



「決まりだな…観客がバラけた時にやるぞ」



ブルーノも立場や階級で争ってる場合ではないのでSWORDに協力する事にした。

彼が空を仰げば、未だに五線譜に張り付いた海賊たちは脱出できていなかった。

小声で話し合った3人は計画が発動するまで観客と共に海賊狩りゲームに参加した。



海兵ルウタとREDの世界線との邂逅8に続く

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