海兵ルウタとREDの世界線との邂逅4

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅4


予想外の出来事など良く発生する上に悲劇や事故は重なるものである。


「みんな!!聴いて!!私から大事な物を盗んだ泥棒が居るの!!」



女の叫び声が聴こえて麦わらの一味が声がした方を見ると…。

紅白髪の女の子が涙ぐみながらこっちを指差していた。

こっそりライブに参加した一同はいつものように騒動に巻き込まれたと察した。

なにせ怒っているのが歌姫なのだからどうしても事実から目を逸らす事はできない。



「お前、海兵なのに泥棒してきたのか?」

「だってあいつ、1人でキノコを食べようとしたんだぞ?」

「なるほど!あいつが悪いな!」

「やっぱそうだよな!」

「「うんうん」」



海兵なのに泥棒をする事に疑問に思って質問したら納得できる返答だった。

2人とも孤独の時にワライダケを齧って不安の気持ちを吹っ飛ばした。

そのせいか、仲間にはそれを見せない気でいるルフィたちは、キノコに頼るのは非常事態だと分かっている。

海賊のルフィは、今の返答で、あそこに居る女の方が悪いと思うほど、1人でキノコを齧るのはタブーだった。

共感したのか、狙っていないのに揃って頭を上下に振る姿は血の繋がった兄弟を彷彿させた。



「おいおい、どうするんだよこれ…」



ウソップの発言通り、舞台を照らすはずのスポットライトが自分たちの方に向けられていた。

もうすぐライブが始まるというのに歌姫から泥棒の仲間と思われるのも時間の問題だった。



「ちょっと待て!ネズキノコじゃないか!!」



サンジは海兵ルフィが持ってきたのがネズキノコだと一目見て分かった。

そして今の会話からしてネズキノコを食べようとしたのは…。

ようやく事態の深刻さに気付いたサンジだったが少し遅かった。



「みんな!!やっと逢えたねウタだよ!!」



マイクがONになっていなかったせいで助けを呼ぶ声が観客に聴こえてなかった。

ならば、開き直ってウタはライブをする事にした

観客の歓声に迎えられた彼女は、代表曲である〈新時代〉を歌い始める。



「新時代はーこの未来だ♪世界中が~全部、変えてしまえば…♪」

「やべぇ…!!」

「変えてしまえ~~~~ばぁ♪」



海兵ルフィは耳を塞いだが、既に時遅しですぐに抵抗を諦めた。

さきほどまでは、曇り空だった天候がウタの歌で晴れ渡るように鮮やかなライブ会場を醸し出した。

世界の人々を希望に見出す心の奥底に眠る感情を掘り起こすように彼女の歌声は全員に届いた。

ライブ会場はおろか、新型映像電伝虫で世界中にライブが中継されており観客全員が歌に魅入っている。

まるで意識がウタの歌に取り込まれてしまったように。



「あーあ、ウタの奴。やっちまったな」



こうなってしまえば、ウタが満足するまで現実世界に返してくれないと分かっている海兵ルフィ。

幸いにも彼女はある程度時間が経つと仲直りする為にルフィに駆け寄ってくれる。

お互いに頭を下げて謝罪して抱擁するまで彼女の怒りを受け止めるつもりだ。



「みんな、ありがとう!」

「「「UTA!UTA!UTA!UTA!」」」

「ごめん、ちょっと感動しちゃった」



〈新時代〉を歌い終わった歌姫はもう戻れない。

それでも自分の歌を聴きに来てくれた観客たちのおかげで前に進む事ができる。

目尻から垂れた涙を拭いてウタは観客に向かって両手を振った。



「やっぱ、すげぇよウタは!あっという間に歌でみんなを虜にしちまった」

「さすがね!生で聴くとここまで感動して…TDも録音できたし!」

「ウタちゃんの歌は世界一なんだよ!どうだクソ剣士!分かったか!?」

「確かに酒を飲みながら歌を聴くのは良いな。良い余興になりそうだ」



元からウタのファンだったウソップ、ナミ、サンジはおろか歌に感心が無かったゾロまで満足させた。

こっそりとウタの生ライブを録音してオタクに高値で売りつけようとするナミ。

そんな外道な行為などロビン以外は気付く事も無くみんなで歌で盛り上がっていた。

“世界一の歌姫”は伊達じゃなく彼女の歌声を日常に聴いている海兵ルフィですら衝撃が奔った。



「いつもより心に響く歌だな!でもこんなにすごかったか?」



10年間、ウタと一緒に居た海兵ルフィは彼女の歌声で耳が肥えていた。

だからこそ、12年間も猛練習してきた“彼女”の歌はいつもと違うと気付いた。



「おいルフィ!どこに行くんだ!?」



海賊ルフィは歌い終わった歌姫を見て天井の虹色に光る照明を掴んで飛び出す。

ウソップの制止する声を振り切ってルフィは、ウタの前に飛び降りた。

観客もいきなり飛び入り参加した男に罵倒や困惑の声があがる。



「あー!やっぱそうだ!ウタ!お前ウタだろう!!」

「え?」



みんなをウタワールドに連れて行ってからネズキノコを回収しようと考えたウタ。

そんな彼女の前にさきほどとは違う格好をしたルフィを目撃して困惑した。

どの面下げて戻って来たのか…そう考えてしまっても仕方なかった。



「久しぶりだな!!元気だったか!?」

「ルフィ~~~!!」



何はともあれ自分の元に戻って来たルフィに思わずウタは抱き着いた。

彼女の身体を優しく支えて腰に手を回して抱き締めるルフィ。

その姿に一同全員が呆然とした。

世界一の歌姫が麦わら帽子を被った男と知り合いだったとかそういうのではない。

いつものルフィらしくないその姿に麦わらの一味は、阿鼻叫喚の大騒ぎになった。



「麦わら帽子…もしかして!?」

「あれ5番目の皇帝?」

「ウタ…」



印象的な麦わら帽子を見て世界を荒れさせる大海賊を思い浮かべた観客たち。

ウタとお揃いになる為にツートンカラーに髪を染めた少女が心配そうに彼女の名前を呼んだ。



「ルフィじゃないか」

「なにやってんだ」

「ルフィ、見てないうちに大人になりやがったな」

「今度は何をする気だ!!」



歌姫のライブ配信を鑑賞している海賊ルフィと面識があるフーシャ村、シロップ村、バラティエ、ウォーターセブン、リュウグウ王国。

それどころかルフィに暴れられたエニエス・ロビーや海軍施設に居る人々もその光景を目撃していた。

9秒間抱き合った2人は、顔を見合わせて「あはははは!」と笑い合った。

それだけで彼らが良好な仲であるのは誰にもに分かる。



「ルフィってウタの知り合いだったの?」

「そうだ!なんで知り合いなんだ!だったら紹介くらいしやがれ!!」



ロビンも船長が歌姫と知り合いだったとは思わず、サンジはルフィに嫉妬した。

先に紹介してくれたら、気合を入れて作った記念料理を振舞う事ができたからだ。



「なんでウタと知り合いなんだーー!?」

「なんだーー!?」



ウソップと横に居たチョッパーが当然の疑問を会場に居るルフィにぶつけた。



「だってこいつ、シャンクスの娘だもん!」



ルフィの放った一言は世界中にいる人々を一瞬だけ静まり返らせてから絶叫させた。



「「「「えええええええええええええええええええええええ!!」」」」



世界一の歌姫であるウタが【四皇】“赤髪のシャンクス”の娘だった。

その事実は観客はおろかウタを狙っている海賊、会場に潜入してる海軍や諜報機関。

読唇術の使い手から情報提供されたロブ・ルッチが世界政府の頂点である【五老星】に伝達した。



「赤髪に娘が居たのか」

「厄介な事に民衆が彼女に付いている。革命の芽は早めに摘まねばならんというのに…」



海兵ルフィと同じようにウタの能力を知っている五老星は、ライブ映像の音を消して5人仲良く映像に魅入っていた。

いや、警戒して監視していたが、想定以上に観客の心を掴んでいるのを目撃した。

そのせいか、歌姫を危険と判断して始末しようと考えていた。



「あの娘がフィガーランドの血筋でもか?」

「トットムジカの存在も気になる」

「“麦わらのルフィ”との関係も見過ごすわけには行かん」



なにより、五老星の胃痛の元凶である“麦わらのルフィ”が居るのも気になった。

2年前まで彼らの名前すら出てこなかったという共通点から何か関係があると思ってしまってもおかしくなかった。

例えば、ルフィと赤髪とウタが血縁関係だったという可能性も否定しきれない。



「まずは、引き続き情報収集を勤しむとしよう。頼むぞロブ・ルッチ」

「お任せください」



五老星の1人がCP0のロブ・ルッチに情報収集をさせた。

ウタウタの能力の特性上、消音で映像を眺めるしかできない彼らは歯痒かった。

彼らの複雑な思いなど露知らないライブ会場に居る歌姫と海賊。

いろいろあったが、再会できた事に感謝していた。



「シャンクスって…」

「四皇の海賊だよ。極悪人だ」

「このエレジアを襲撃して虐殺した大海賊だ…」

「嘘だ!ウタがあいつの娘なわけがないんだ」



観客たちの戸惑う声がライブ会場のステージに居るウタにも届いた。

エレジアを襲撃した大海賊シャンクスの名前が出た瞬間、ぴょこ耳の髪が垂れた。



『そうだよね…私がシャンクスの娘って…』



ウタは海賊嫌いで名が通っている。

力なき民衆が蹂躙される暗黒の時代に咲いた鮮やかな紅白色の一輪の華。

それは、気持ちが沈む民衆を勇気づけて【救世主】とまで評価される事となった。

人生経験も対人関係もほとんどない彼女は、盲信的で過剰な期待を1人で受け止めるしかできなかった。



『だから私が“新時代”を作らないといけないの!』



かつて映像電伝虫に呟いた少女の言葉が未だに心に残っている

「ウタちゃんの音楽をずっと聴いていられる夢の世界に行きたい」という言葉を!

だから彼女は、ライブ映像を楽しんでくれた観客の為に“新時代”を計画を立てた!

奪われる現実世界から自分の歌を聴いて踊って笑って楽しめる世界に誘致する為に!



「ひひひひひ~~!」

「誰だこいつら?」



観客が動揺した隙にウタを狙っていたクラゲ海賊団がステージに上がって来た。



「四皇“赤髪”に娘が居たのか。それが本当ならお前は奴の最大の弱点になるな~!」



クラゲ海賊団船長エボシは舌舐めずりながらウタを見た。

評判通り、華奢な肉付きでミニスカートのワンピースから見える魅力的な両脚。

明らかに何も知らない無垢な21歳の女にしか見えないからこそ彼らは笑う。



「身柄を他の有力海賊に渡せば、良い金になるぞ~!」

「そんな訳でライブは中止だ!悪いなウタちゃん!!」

「抵抗しなかったら血を流さすにWIN、WINの関係で済むぞ~~!!」



船長エボシに続いてハナガサ、カギノテが不敵な笑みで歌姫を脅迫する。

四皇を敵に回すのにその度胸と面の皮の厚さは億越えの海賊の風格を保っている。

もっとも、この場は更に質が悪いやべぇ奴しかいないのが彼らの誤算だった。



「“熱風拳<ヒートデナッシ>”!!」

「「「ぎゃああああああ!!」」」



調子に乗るクラゲ海賊団を制裁するように彼らは何者かによって吹っ飛ばされた。

ライブを開催しているウタを尻目に事態はどんどん悪化していた。



「ウィウィウィ!その子はアタシらの獲物だよ!」

「そういうわけだ。大人しくすれば危害は加えん」



四皇の海賊団、それも四皇の血族がライブ会場に飛び込み参戦してきた。

四皇ビッグ・マムの四男で巨体に似合う武闘派のシャーロット・オーブン。

同じく枯れ木のような風貌の八女のシャーロット・ブリュレも一緒である。



「お前!もしかして枝!!」

「枝?」

「ブリュレだよ!ビッグマム海賊団の!!」

「同じくビッグマム海賊団のオーブンだ。楽しそうだな混ぜてくれよ」



あれだけルフィに振り回されたのに『枝』としか覚えられていないブリュレは速攻で返答した。

しかし、外の世界をほとんど知らないウタにとっては、ビッグマム海賊団と聴いてもピンとこなかった。

律儀にも自己紹介するオーブンの名を聴いても他人事であった。



「偵察に来たら面白い話が聴けて良かったよ!ママの手土産にさせてもらうよ!」

「土産?…もしかしてウタグッズのこと!?」

「お前の事だよウタ!!まあいい!お前たちやっておしまい!!」



ビッグマム海賊団の船員たちがウタとルフィを取り囲む。

オーブンの攻撃から復帰したクラゲ海賊団も臆さずに交戦する気満々だった。

次々と問題が起こるせいで観客たちは半ば他人事のようにステージを凝視するしかできない。



「酷い…せっかくのウタの初ライブなのに…!」



悲しむ若い女の声が皮切りとなり、ライブをぶち壊されたのを実感する観客たち。

その中で1人の男が立ち上がろうとしたがもう1人の若い男に制止された。

「大丈夫」と言うコビーの言葉を信じてヘルメッポは再び地面に座り込んだ。



「ウタちゃんを狙うクソ野郎共はおれが料理してやる!!」

「ようやく面白くなってきやがった!」

「ライブを中止させるわけにはいきません!」



真っ先に動いたのは文字通り怒りに燃えるサンジと娯楽を見つけたゾロであった。

同じ音楽家としてライブを妨害されたのを許さないブルックも鞘から刃を抜いた。

それに釣られて麦わらの一味は、ウタを守るためにステージに向かおうとした。



「うっ!?」

「あっ!?」

「ぐっ!!」



ところが、彼らが参戦する前にステージ上にいた海賊たちが次々と倒れ込んだ。

その中心にいたルフィとウタは特に何もなかったように立っている

一瞬で状況が激変したせいで観客たちには何が起きたか分からない。

ライブを妨害してウタを誘拐しようとした海賊のみにピンポイントで狙われた。

それくらいしか分からなかった。



「アアアア…に…ちゃ……」

「ぐっ!!“覇王色の覇気”か!?誰がブリュレに手を出した!?」



可愛い妹が息が絶え堪えで痙攣しているのを見たオーブンは必死に犯人を捜そうと試みた。

一番、怪しいのは“麦わらのルフィ”だが奴の顔を見る限り、速攻で否定できるほど馬鹿面だった。

ならば、「“麦わらの一味”か!?」と彼らの方を見ればそうではなさそうだった。



「おいおい…あいつがやったのか」

「どうする?」



覇王色の覇気を感じ取ったゾロとサンジは珍しくお互いの顔を見て意見を求めた。

本来ならこんな事をしないが、今回はもう1人のルフィが居るせいで判断に困っていた。

覇王色の覇気を海賊にぶつけて雑魚を一網打尽にした海兵ルフィの対処についてだ。



「おれらが相手にするには数が少なすぎる…あいつに任せるか」

「そうしよう。ウタちゃんに海賊と接点ができると厄介だからな」



戦う事より珍しい光景を見るのが勝ったゾロは刃を鞘に納めてサンジは持ち場に戻る

それは船長が2人居れば片が付くという根拠がないが『絶対』という自信があった。

麦わらの一味も戦わず無力化した海兵ルフィを見て参戦するのを諦めた。



「すげぇなお前も“覇王色の覇気”の使い手だったのか!」

「ああ、本当はもっと早くやりたかったけどな」



海兵ルフィは、幾度も無くこういった輩をライブに影響が出る前に無力化していた。

今回もそうしたかったのだが、海賊ルフィがウタに抱き着いてしまったので出遅れてしまった。

事情は分からないが海賊ルフィの傍にウタが居ないのを察した彼は、空気を読んだ。



「よし、おれはあの赤いのをぶっ飛ばす!」

「じゃあおれは3人をぶっ飛ばせばいいんだな!」



だが、これ以上ウタのライブを妨害する野郎などルフィが許すわけが無かった。

ウタワールドの性質上、気絶させるのは不可能だが、無力化が長引くと知っている。

指を鳴らして海賊ルフィと共に覇気に耐えた4人をぶっ飛ばすつもりだ!



「む、麦わらが2人!?どういうことだ!?」



オーブンは夢を見ていると思った。

なにせ自分より強い兄2人を撃破した男が分裂したのか2人居るという現実。

それもよりによって『正義のコート』を羽織っているという海賊とは相反する格好。

頭がこんがらがっているが妹に手出しされた以上、生かして帰す気はなかった!



「舐めやがって!クラゲ海賊団を舐めるな!!」

「意識が飛びかけた…」

「船長は…元気そうでいいよな…」



クラゲ海賊団の億越え3人組も黙ってはいない!

海兵ルフィの覇気に耐えたエボシはともかくハナガサとカギノテは立つのが必死だ。

それでも意識が飛びのくのを必死に堪えて2人は船長を信じて戦うつもりだ。

それが四皇の海賊団にも盾突くクラゲ海賊団というものだから。



「やるか!」

「ああ、いくぞ!」



この世で一番自由な海賊と幼馴染と一緒に居る為に夢を諦めた海兵

道が違っても考える事は同じだった!

幼馴染のライブを守るために彼らは4人の海賊に向かって駆け出した!


海兵ルウタとREDの世界線との邂逅5に続く


Report Page