海兵ルウタとREDの世界線との邂逅3

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅3


正義のコートを羽織った麦わら帽子が良く似合う男は、幼馴染の制止を振り切って島に突っ込んだ。

ところがあっさり人を見つけてしまい、幽霊島のロマンはあっさり崩れ去った。

ついでだからと事情を訊くとなんとその幼馴染がライブをやるというのだ。



「ウタの奴、遭難して大騒ぎした割にはこんなに早くライブをやるんだな」



ウタのライブなら必ず参加するルフィは、それを楽しみに待っていた。

いつも歌姫のサポートをしていたので純粋な観客になれるのが新鮮だったのもある。



「しししし、ここがおれの特等席だ」



もちろん入場券など持ってないし、そもそも堂々と会場に入る事なんて彼はしない。

だからこっそりと会場に潜入して観客席に座っていた

いや、観客席ではなく海王類の肋骨の1つに陣取ってライブ会場を見下ろしていた。



「雲が多いな…雨が降ってきそうだ。ウタの奴、雨が降ったらどうするだろうな」



海王類の死骸によって生成された土地を利用したライブ会場は、遥か遠くまで見下ろせる事が出来る。

残念ながら曇り空で良い天気ではないが、絶好の観客席には違いない。

海王類の白骨に土砂が堰き止められて作られた島を覆い尽くす観客が目に入った。



「すごい人気だ。やっぱ、ウタは大人気だな!」



ウタのファンが全世界に居ると知っていたが、ここまでの規模だとは思わなかった。

もちろん、嬉しい事ではあるが彼女に依存しているルフィはちょっとだけ嫉妬した。

部下がいるせいで、堂々と抱き着いたり遊んだりできないから欲求不満だった。

少しでも好意を伝えると「おめでた」「結婚」とか言われるせいで遠慮していた。



「まだかな!まだかな!そうだ、ウタのコンディションをみるか」



こんな短期間で会場も観客も用意できないと予想できない彼は、ウタのライブが開幕するまで待っていた。



「あれ?なんでこんなに弱いんだ?なんかおかしいぞ?」



歌姫のコンディションを支えるのはルフィの仕事だ。

ライブ後でウタにタオルや飲み物を差し入れしたり、ライブ前に緊張を解くのが彼の仕事である。

舞台裏に居るウタを見聞色の覇気で確認したら大幅に弱体化しているのに気付いた。

「やっぱり遭難したショックだ!一緒に居ないと!」と彼は舞台裏に向かった!



「待っててねみんな……もうすぐ新時代が…」

「おーいウタ!!」

「えっ!?……誰?」



舞台裏で過去の凄惨な出来事をまとめた映像を見ていた世界一の歌姫ウタ。

みんなが自分の歌を【希望】としている以上、もう後には退けなかった。

映像電伝虫が映す映像で、自分に縋るみんなの姿を見て彼女は覚悟を決めた。

“新時代”を作るためにネズキノコを齧ろうとした瞬間。

麦わら帽子を被った海兵に呼びかけられて彼女はショックでキノコを落とした。



「おいウタ!!なんで1人でキノコを食べようとしているんだ!!」

「えっ!?誰!?」

「ワライダケを食べる時は2人一緒に食べるって約束したのはウタじゃないか!約束を破って1人で食べるなよ」

「ワライダケ…!?これはネズキノコ……ってあれ?もしかしてルフィ!?」



てっきりライブを妨害しにきたと思ったウタは頓珍漢な事を言った海兵に困惑した。

だが、そのおかげで海兵がシャンクスの麦わら帽子を被ったルフィだと気付いた!

昔からとんちんかんな事を言って自分の気を惹こうとする少年。

それは新型の映像電伝虫を拾うまで唯一縋っていたからこそ気付くことができた。



「ルフィ!!海兵になったんだね!!」

「なーに言ってんだ?お前も海兵じゃないか!」

「はあ?私はみんなに希望を届ける歌姫だよ!もちろん海兵もみんなの希望だけどね…」



映像電伝虫からもたらされた情報で海兵は海賊からみんなを守る存在だとウタは知っていた。

だが、実際にこの目で見たのは初めてであり、よりによって数少ない知り合い。

それも自分が縋って来た思い出を作ってくれた男の子とは皮肉なものだ。



「ルフィ、海兵の格好が良く似合っているよ」

「ありがとうな!お前のパーカーも似合ってるぞ」

「ライブ映像で好評だったパーカーを着てみたの!やっぱ可愛いよね!」

「ああ、ライブ愉しみにしてるぞ!」



『海賊として大成するんじゃないか』と…ウタはルフィと出会ってそう思っていた。海賊になりたがっている記憶しかないせいで海兵になるとは予想外にもほどがある。

でも、ここで再会したという事は、彼も“新時代”を求めてここに来たのだろう!

ウタは悲しみよりも嬉しさが勝った!



「ここで逢えたのは嬉しいけどさ!もうすぐライブだから出て行ってくれない?」

「じゃあキノコは全部持っていくからな。あとは頑張れよ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「ん?ライブ前にキノコを食べたらおかしくなるぞ?」

「違うの!!ライブをするにはそのキノコが必要なの!!」



二度と逢えないと思っていた幼馴染と再会できたのは良かった。

問題なのは、ルフィがネズキノコが入った籠をどさくさに紛れて回収しようとした。

まるで自分の計画が幼馴染にバレているようではないか。



「なんで?前にキノコ喰ってライブしたら部下達にあんなに怒られたじゃねぇか」

「前?そんな事してないよ?」

「あれはおれもやって歌って愉しかったけどよ。“マグマのおっさん”や部下に怒られるのはもうゴメンだ」

「マグマ…歌って?意味分かんない!!それよりキノコ返して!」



全然話が噛み合わないせいで喜びよりも苛立ちが勝り出したウタはネズキノコを奪還しようと籠に手を伸ばした。

当然、部下に叱られたくないルフィはあっさりとそれを躱してキノコが入った籠を持って舞台裏から退室した。



「待てルフィいいいい!!私のキノコを返してええええ!!」



キノコが無ければみんなを“新時代”に招待できない。

なにより、彼が自分が置いていく姿は12年前のあの日を思い出させた。



『逃がさない!!もう二度と置いて行かれたくない!!』



ライブ開幕20分前にも関わらずウタは彼を追って舞台裏に飛び出した。

そんなトラブルなど怒っているとは夢にも思わない観客たち。

世界中の海からはるばるエレジアに来た彼らは裕福な人が多い。

中には、有り金をはたいて来てくれたファンも居れば海賊も居た。



「ウタちゃーん!UTAちゃーーん!!」

「おい!動き回るせいで刀の手入れができねぇじゃねぇか素敵マユゲ!!」

「クソ剣士!!せっかくライブに!それもこんな絶景ポイントの席に居るんだぞ!」

「だからどうした?まだライブは始まってないぞ。それより酒はまだか?」



全世界に何度も衝撃を与えた凶悪な海賊たちもまた、ライブを楽しみにしている。

クネクネと動き回る恋するコックのせいでゾロは気が散ってしょうがなかった。

ライブは楽しむが、それまでの空き時間を有意義に過ごすのが彼流の楽しみ方だ。



「よーし、今からこいつをジューシーに焼き上げてやるぞ」

「やってみろ頭グルグル」



ゾロとサンジが口喧嘩をしている間、ルフィは肉を焼けるのを待っていた。

半生肉でも良いが、焼きたてほやほやの肉を齧って食べるのがマナーというもの。

実際は、お腹を壊してみんなから怒られたのでそうしているだけだった。



「あらあら、ライブが始まる前にお肉が消えそうね」



20年間も逃げ続けたニコ・ロビンはライブという形式に興味を持っている。

歌姫自体は逢った事があるが、こうやって自主的に参加するのは初めてである。

遅れて来た青春を味わうように彼女は貴重な体験を全身で味わおうとしていた。



「ところでおれらが着替える必要はあるのか?」

「初ライブを盛り上げる為にコスチュームを着ると缶バッチがもらえるんだ!」

「あら、てっきり変装かと思ったんだけど…」



麦わらの一味全員が今回のウタの初ライブの為にお洒落をしてきた。

もちろんウソップによって指示されたもので事情を知らず着替えさせられた一同。

フランキーの素朴な疑問に発案者は納得できる返答をしてのけた!

ウソップの両手の隙間で輝く缶バッチを見てようやく全員が納得する事ができた。

「まだ焼けないかな?」と呟くルフィを除いて…。



「しかし初めてのライブにしては人が多いな!そんなにすげぇのか?」

「ソウルキングの私が言うのもなんですけど彼女の歌は別次元です」



フランキーの疑問に対してブルックが嬉しそうに即答した。

彼もウタのファンであり一時代を築いた音楽家として彼女の才能を尊敬している。



「どんなパンツ履いているんでしょうか」

「やめなさい!!」



もちろんパンツを気になっていたブルックは思わず本音を溢すとナミに殴られた。

高額賞金首なのに観客に紛れてライブに参加できるのはウソップのおかげである。

当の本人は誉めて欲しいと親指を胸部に突き立てているが全員から無視された。

新人のせいでいまいち会話に参加しづらいジンベイは、とりあえずチョッパーと一緒にライブ会場を見ている。



「あれ?なんか変だ?」

「おれの事を言ってるのか?」

「確かに肩にスピーカー、胸にカセットテープという格好は変だな」

「誉めんなよ恥ずかしい!」

「違う!!」



ステージから出てくるウタを見るのを楽しみにしていたチョッパーは異変を感じた。

「変」という単語に釣られたフランキーの格好を見てサンジがツッコミを入れるが、チョッパーは即座にそれを否定した。



「なんか見つけたのか?」

「さっきから舞台が揺れているんだ。そこのカーテン!すごい揺れてる!」

「まだライブは先よね?もしかしてトラブルかしら?」



何故かライブ会場に設置された暗幕が激しく揺れており、何かトラブルが起こったのを予感させる。



「ウタちゃんに何かあったのか!?」



ナミさんの一言で1人の漢が覚醒した!

さっそく彼女のピンチを救う騎士になろうとしたサンジは見聞色の覇気で何が起こったのか把握しようとした。

そして気付いてしまった。



「おいクソコッ…なんかあったのか?」



馬鹿な真似を止めようとしたゾロは、サンジの異変を感じ取った。

女にメロメロだったアホコックが一瞬にして真面目な顔をしたせいで何かあったと分かってしまったからだ。

その本人は、肉を食べようとしたルフィの顔を見た。



「どうしたサンジ?」

「ルフィ、お前何かしたのか?」

「なんで?」

「あの暗幕の裏にお前がいるんだよ…」

「「「「えっ…」」」」



いきなり冷静にルフィに諭したように告げたサンジの一言で一味全員が固まった。

偉大なる航路では摩訶不思議な事が発生するとはいえルフィがもう1人別行動をしている。

そう言われても、彼らは信じる事ができなかった。



「おれが?」

「ああ、間違いない。お前の覇気だ」

「そんなバカな!……えっホントだルフィだ…」



サンジの言葉を疑ったウソップは見聞色の覇気で舞台裏にルフィが居ると感知した。

この場に居る覇気使いが同じように感じており、発動しても分からないのはルフィだけだった。



「いや分かんねぇよ!」



自分の覇気を纏う事はあっても自分を感知する経験などルフィには無い。

ただ強そうで面白そうな奴がいるな…くらいの感覚だった。



「どうする?」

「どうするって……」



ゾロに急かされてウソップは言葉に詰まった。

“プリンセスウタ”を助けたいのはやまやまだが、彼女は海賊嫌いで名が通っている。

そのせいで海賊である自分達が助けに行くと新たな問題が起こると思ってしまった。



「【剃】も使わねぇし【嵐脚】も【月歩】もやらねぇ…やっぱ、疲れてるんだな」



正義のコートを羽織ったルフィは、幼馴染が無理をしてライブをすると気付いた。

何事もないのであれば、まっさきに自分を誘ってくれるからだ。

ならば、キノコを食べてでもライブをしようとするウタを妨害するべきである。

幼少期なら考えた事も無かったが今は部下達が居るおかげで、こういう事ができた。



「キノコ返して!!それがないと“新時代”が作れないの!!」

「何言ってんだ。“新時代”は2人で作るって約束したじゃねぇか」



ウタも追いかけているが、一般人より身体能力が高い21歳の乙女では分が悪かった。

引き離されているが、後ろ姿である『正義』の文字が書かれたコートは見えていた。

わざとルフィが手加減しているが、キノコを取り戻そうとする彼女は気付かない。



「しししし、ライブはまた今度な!」

「私の夢を邪魔しないで!!」

「じゃあな!」



暗幕を突き破ってルフィは外へと飛び出していった。

大勢の人が居る場所に突っ込んで行けば撒けると思ったからだ。

弱体化していると分かっても、激怒したウタに敵わないのは彼が一番分かっている。

本気で逃げなかったのは、彼女の精神状態がどうなっているのか確認したかったのが大きい。



「あそこに行くか」



見聞色の覇気で強そうな奴らを発見したルフィは彼らを巻き込んで逃げようとした。

もちろん迷惑をかけてしまうが、後で部下と共に謝ろうという気持ちが勝った。

それほど、衰弱しきったウタを心配していた。

ところが、向かった先は彼すら予想していなかった展開が待っていた。



「よいっしょっと!」

「ん!?」

「え?」



ネズキノコが入った籠を持ったルフィが降り立った孤島にルフィが居た。

火で炙られて肉汁が滴る音と濃厚な匂いが島を包んでいたが、彼からすればどうでもよかった。

強そうな奴らにウタを止めてもらおうとしたら自分が居たので首を傾げるしかない。



「ル、ルフィが2人!?」



真っ先に反応したのがチョッパーだった。

ライブ会場にルフィが居ると言われても信じることなどできなかった。

自慢の鼻は、料理の匂いと観客の匂いで掻き消されるせいで本人がここに来るまで信じられなかった。

だが、実際に目撃してみると確かにルフィだった。



「あれ?おれが居る!?」

「おれがおれ?なんで?」



ルフィとルフィは互いに向き合って「珍しい物を見た」と顔をマジマジと見る。

海兵ルフィは、大人っぽい自分を見ていつかこんな感じになるのか…と笑った。

海賊ルフィは、正義のコートを羽織った自分が意外と恰好良いので嬉しくて笑った。



「お前、名前は?」

「おれはルフィ!海軍本部の大佐で新時代を作る男だ!お前は?」

「おれはルフィ!海賊王になる男だ!!」

「なんだおれか」

「おれだよおれ!」

「「おれだあああ!!!」」



自己紹介を済ませたルフィたちは、挨拶代わりに抱き着いた。

海賊女帝がこの場に居れば鼻血を出しつつ絵師に絵画を描かせて後世に残そうとしただろう。

自分とそっくりさんに出会っても自由気ままなのは2人とも変わらなかった。


海兵ルウタとREDの世界線との邂逅4に続く



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