海兵ルウタとREDの世界線との邂逅2

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅2


好奇心旺盛でスリルとロマンを求めるルフィ大佐が島に突撃した。

彼の部下たちからすれば、いつもの事であるが、今回は状況が違った。

なにせ濃霧で遭難していたせいで、どんな島なのか把握ができていなかった。



「ウタ准将、民間船が見えます!すごい数です!!」

「へぇ、これだけの船が停泊しているって事は、相応の都市がありそうね」

「いかがなさいますか!?」

「この港じゃ軍艦が邪魔になっちゃうわ!別の所に停泊しましょう」



大佐に置いて行かれたウタ准将率いる軍艦は、民間の港を発見したが停泊は諦めた。

海軍本部の軍艦はそのサイズのせいで寄港できる場所が限られている。



「大佐を捜索しなくてもよろしいのですか?」

「冒険に満足したら私の所に帰って来るわよ」

「ですが…」

「適当な所に停泊したら休息を取りましょう」



ウタはルフィが絶対に自分の所に帰って来ると確信しているので捜索はしなかった。

むしろ、下手に介入すれば騒動の渦中に居る彼に巻き込まれる可能性がある。

部下たちが無茶をしていると実感しているからこそ歌姫は休息を提案した。



『それにルフィの夢を諦めさせた私が止めるべきじゃないしね…』



ウタはルフィが海賊として大物になると予感していた。

それを自分の身勝手のせいで彼の夢を諦めさせてまでして海兵になってもらった。

そのせいなのか、彼が冒険に出ようとするのを本気では止められなくなっていた。



『せめてルフィを支える為にいろんな事を覚えたけど…役に立っているのかな』



夢より自分を選んでくれた男を支える為にウタは何でもやった。

孤独にさせないのはもちろんの事、勉強の手伝いや洗濯、マナーもしっかり教えた。

その結果、背中が頼もしい男に育ったが、それでも彼女はあの時の選択肢を未だに引き摺っている。

お姉ちゃんぶっている我儘な自分を選ばなかったら、もっと多くの人が救えたのではないかと…。



「…准将!ウタ准将!!」

「えっ!?なに!?」

「何か思い詰めたお顔をされてましたが……我々にできる事なら協力しますよ?」

「ありがとう。じゃあ、晩御飯の後、みんなが作ってくれた歌を聴かせてほしいな」

「はい!!我々の歌を准将に捧げてみせます!!」



いつも、ウタがルフィを海兵になるのを決断させた日を思い出す度に誰かに心配される。

よっぽど疲弊しきって泣きそうな顔になっているのかハンカチを見せている海兵も居る。

この世に【IF】などないが、少なくともこうやって心配してくれる部下達と逢えた。

それだけで救われた気がするウタは笑顔で海兵達の歌を希望として生きていく事ができる。



「私は寝室に戻って休息を取るわ。あなたたちも休める時に休んでおきなさい」

「「「「ハッ!!」」」」



軍をまとめる准将の仮面を外してどこかしらか弱い19歳の乙女を見送る将兵たち。

彼らもまた、彼女の素顔を見れたのに満足して束の間の休息を満喫するつもりだ。



「そういえば、准将殿の寝室ってどうなってるんですか?」

「ルフィ大佐曰く、ぬいぐるみや譜面が置いてあるそうだ」

「防音室になっているから歌の練習をしているかもしれんな」



ウタの寝室について話が盛り上がっていくウタ派の海兵たち。

トップシークレットだからこそ、そこにはロマンがあり夢がある。

「ワンピース」とは何かと問われれば、彼らは【ウタ准将の私生活】と答える自信がある。



「大佐~~おれらも連れて行って欲しかったな…」

「きっとウタ准将の為に一肌脱ごうって感じで島に行ったんだろう」

「ルフィ大佐が偵察とかできる気がしねぇんだけど…」

「准将が恋しくなって今日の晩に帰って来るのに1000ベリー賭けるぜ」



ルフィ派の海兵は、上官に置いて行かれたのに不満に思っているが我慢している。

彼なりに考えて行動していると分かっているからこそ、彼らは上官に従っている。

上官と部下の関係ではなく“2人の英雄”に付き添う親衛隊のような関係であった。



「ん?おい!海賊船だ!!」

「あーホントだ。どこにでも居るなこいつら」

「そりゃあ、大海賊時代だからな。いねぇ方がおかしい…」



見張りが入り江に停泊している海賊船を発見した。

それだけなら気にしなかったのだが、海賊旗に彼らにとって目に付く装飾品があった。



「麦わら帽子じゃないか…」

「船からしてそこまで凶暴そうには見えん」

「案外、ルフィ大佐が海賊になってたら乗ってそうな海賊船だな」

「“海軍の英雄の孫”が海賊になってるなんて世も末だ」

「違いない!」

「「「はっはっはっはっはっ!!」」」



大腿骨を交差した頭蓋骨が麦わら帽子を被っている海賊旗。

それは麦わら帽子を被っているルフィ大佐の姿を彷彿させるものだった。

そこから大佐と海賊を結び付けて話を盛り上げていくルフィ派の将兵。

過去に海賊になりたがっていた彼の過去を知らない海兵たちは、その妄想を笑い飛ばした。



「海賊船を沈めなくてよろしいのですか!?」

「そんな事やってみろよ。せっかく休んでいるウタ准将が飛び起きるぞ」

「新兵、気持ちは分かるが、我々の独断で攻撃できないんだ」



例え海賊船であっても、高級士官の命令がないと末端の兵士たちは動く事はできない。

組織の歯車であり、忠実に動くことが求められる兵士は独断で動くことはできなかった。

なにより珍しく弱音を吐いて身体を休めているウタ准将を仕事モードにはしたくなかったのもある。



「ところでルフィ大佐は騒動を起こすと思いますか?」

「馬鹿だな。お前、今までどこを見て来たんだ。起きるに決まってるだろ」

「いつもトラブルに巻き込まれて悪人をぶっ飛ばして終わりの流れだろう」

「もちろん、ウタ准将のライブで大盛り上がりになるのも忘れるなよ?」

「へいへい!」



ルフィ派の海兵は、大佐の活躍を見て来たからこそ「絶対にやらかす」と断言できる。

ウタですらそう思っているのだから、この場に全員が満場一致で納得している。



「なんーだ幽霊島じゃねぇのか…」



一方、当の本人は島の詳細が判明するにつれてやる気がなくなった。

“麦わらのルフィ”という異名を持つ男は意気揚々と島に足を踏み入れた。

ところが、彼が最初に目撃したのはウタグッズを持ち歩くファンの人々だった。



「幽霊とか動くガイコツとか仲間にしたかったな」



部下が幽霊島って言ったので来てみたら普通の島だった。

例えるなら噂で聞いた酒場に入ったらウタグッズを抱えて酔い潰れているシャンクスと遭遇したようなものだった。

それくらい脱力感というか、悲しくは無いが、「嬉しいか?」と訊かれると首を縦に振れない心境だった。



「おーい!そこの!!ちょっと話をきいていいか!?」

「ヒヒヒヒヒ~!?か、海兵さん!?おれ、何かやらかしましたか!?」



世界一の歌姫、ウタを攫おうとしているクラゲ海賊団船長エボシ。

船員のハナガサとカギノテと共に誘拐計画を立案していたら海兵に呼び止められた。

これはもう誘拐計画がバレてしまったと思うしかなかった。



「ウタグッズを持っているから気になったんだけどよ!ウタのライブってあるのか?」

「そりゃあ、ありますぜ!1時間後にウタの初ライブをするってよ」

「ううん?…そっか、ならいいや!ありがとうな!!」



ところがあっさりと海軍将校の若い男が退き下がって去っていくのに首を傾げる3名。

どこかで見た顔だが、“奴”は海賊であって海軍ではないので別人だと思い込んだ。



「どうする?」

「おれら、クラゲ海賊団には不可能はねぇよ…」

「しかし、海軍の奴らも居るのは想定外だ」

「むしろおかしくねぇか?逆に海軍が護衛するべきじゃねぇのかこのライブは…」



クラゲ海賊団がこのライブを狙ったきっかけが海軍が警備していないからだ。

よって、あの無垢な歌姫を簡単に攫えると思って誘拐計画を立案した。

歌姫の初ライブという事で全世界から数万人規模のファンが押し寄せている。

木を隠すのは森の中というが、混乱に紛れて追手を撒くには最適だ。



「だが、このウタグッズは海兵にも有効のようだ」

「はした金を払うだけで大金がもらえるなんてローリスク・ハイリターンだ」

「けどよ、さすがに大物が妨害してきそうな規模のライブ会場だ。うまくいくか?」

「ヒヒヒヒヒ~、だから気合入れていくぞ!」



あらかた会場を見てまわったクラゲ海賊団の3名は、仲間と合流するつもりだ。

それはそれとして2年で有名になった歌姫にしてはライブの規模がデカすぎた。

実際に来てみて、相応のパトロンが居るというのは彼らも嫌でも実感した。

それで怯む海賊団ではないのが質が悪いというのは3人が分かっている。



「なんだよ!おれに内緒でライブをするなんて!」



さきほどの親切な男の説明で1時間後にウタがライブをするらしい。

それを聴いた瞬間、ルフィは不機嫌になったがファンを曇らせない様に去った。

あれだけ「遭難する!」とか言ってたのに暢気にライブをやるとは思わなかった。

少なくとも何も知らされていないルフィは、ハブられたような感覚を味わっている。



「確かにいつも置いていくけどさ…それでも知らせて欲しかったな」



ルフィの幼馴染の歌姫は、唐突にライブを開こうとする。

空島に行った時とか、砂漠のど真ん中でも彼女は好き勝手にライブをする。

けれども、彼女がライブをすると決めたら必ずルフィに知らせてくれた。

今回はそれがなかったという事実は、少なからず彼に衝撃を与えていた。



「まあいいか!あいつが楽しく歌えれば!」



ジメジメせずに瞬時に気持ちが切り替えられるのがルフィの魅力の1つだ。

今回のライブは、運営側ではなく観衆の立場としてライブを愉しむ事にした。



「ウタのライブが生で聴けるなんて!夢みたいだ」

「映像電伝虫越しでしか聴けなかったからな」

「ママ、ライブはまだ~?」

「もう少し我慢しようね」



比較的裕福な母娘や元気そうな少年、苦労人だが何か嬉しそうなお爺さん。

髪をツートンカラーにしてウタの髪型にしている少女やクセ毛が目立つ少年。

差別されがちで中々見かけない魚人や異人種がここで多く見られた。

彼らがチケットを握り締め堂々と会場へ行く姿からここでは差別とは無縁のようだ。



「みんなが楽しめるなら怒るわけにはいかねぇしな」



誰もが『ウタのファン』と分かるので、ルフィはウタを責めるつもりはなかった。

好き放題動くルフィもライブを壊す真似だけは極力避けているほどである。

でも内緒にしたのは、ライブ後に軽く指摘するつもりではいた。



「よーし、おれもあいつのライブを楽しめる場所を探さなきゃ!」



ウタの“歌”はみんなを救ってくれる。

幼少期からずっと励ましてくれた歌はルフィですら独占できるものではなかった。

『おれの居場所はウタが居る所!』と豪語した彼もまた彼女の歌に魅了されている。

歌姫に見つからずに歌がよく聞こえそうな場所を探しに彼は会場へと乗り込んだ。


海兵ルウタとREDの世界線との邂逅3に続く


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