海兵ルウタとREDの世界線との邂逅17
Nera極悪人と言ってもその罪状は複数に分けられる。
世界政府に歯向かい革命を起こそうとする者。
大勢の人々に危害を加える者。
自分を悪と認識せずに善意で暴走し被害を拡大させる者。
『私は……みんなを救いたかっただけなのに…』
銃声が鳴り響き歌姫に向かって銃弾が飛んでくる。
幸いにも並行世界の自分が庇ってくれるおかげで無傷で済んだ。
『なのになんで、こんなに苦しむの…』
しかし、ガンガンと跳弾する音と振動で命を狙われていると嫌でも分かる。
世界中から最も愛されている歌姫は、現実を受け入れられなかった。
「辛いねェ~~子供1人止める為に何万人も犠牲にするのは~」
海軍大将“黄猿”は、目の前の惨状を見て吐き捨てた。
たった1人の女の子に軍艦30隻、2万の兵力を派兵したのに彼は不満があった。
ところが実際に来てみれば、観客5万人を人質に取った極悪人がそこに居た。
しかも、精神的に幼くてまるで子供の様な存在にあらゆる人が振り回されていた。
顔は笑っているが、5万人を切り捨てないといけないと感情に葛藤しつつある。
「“八尺瓊勾玉<やさかにのまがたま>”~!!」
腹を括った彼は、両腕を顔の前に交差させて無数の光弾を観客たちに向けて放つ。
ところがその光弾は、四皇シャンクスの刃に弾かれて全て海へと落下した。
慌てて回避行動をした黄猿だったが、隙を突かれて喉元に刃を突き付けられた。
「悪いな。親子喧嘩の途中なんだ。首を突っ込まないでくれないか?」
シャンクスの発言に黄猿は怒り心頭に達した。
たかが親子喧嘩で5万人の観客が犠牲になろうとしている。
これほど理不尽な事はないだろう。
「そうはいきやせん。こっちも世界を背負っているんで」
同じく大将“藤虎”もシャンクスに刃を見せながら歩み寄っていく。
全盲でありながらも世界最高峰の海賊に全面戦争を仕掛ける気満々であった。
「退いちゃくれねぇか?」
「それができればぁ、この眼はまだ見えていまさぁ!」
自分が蒔いた種なのでシャンクスは海軍には退いて欲しかった。
だが、海軍としても世界を守るのに必死で退けるわけがない。
藤虎は過去の悲劇で両目を潰した過去を思い出して苦笑いしつつ剣を構える。
『これはきついな……』
海軍大将2名と海兵から民間人とウタを守らなければならない。
シャンクスにとって辛くて圧倒的な不利な戦いが始まろうとしていた。
「撃て撃て!!」
一方、配下の海兵たちは今回の事件の首謀者に向けて銃弾を放っていた。
彼らにとって誤算は2個ある。
1つ目は、ウタを殺せばライブ会場に居る観客が5万人が犠牲になると考えていた。
実際は、電伝虫を通じて世界の7割近い人命が失われるのを知らなかった。
これは世界政府上層部が元帥に事実を告げていなかった事に起因する。
「これは海軍に告げるべきではない」
世界政府最高権力【五老星】ジェイガルシア・サターン聖の提案で隠蔽された。
タカ派で知られるサカズキ元帥でもさすがに世界の7割が犠牲になると知ったら…。
総攻撃を中止してしまうのを恐れた五老星は、酷な事実を海軍に伏せていた。
『なんでウタちゃんが…』
発砲している海兵の中でもウタのファンが大勢居る。
休暇を取れた同僚に羨ましがっていたら推しの歌姫を射殺しなければならない。
この事実は彼らを苦しませて中々銃口を観客や歌姫に合わせられなかった。
『話と違うぞ!!なんでウタがもう1人居るんだ!?』
もう1つの誤算は、もう1人のウタが歌姫を庇っていた事だ。
覚悟を決めた海兵が放った弾丸は全て音を立てて弾かれた。
並行世界からやってきた海兵ウタの体技、鉄塊で歌姫ウタを守っていた。
「“ウタ”!!観客が狙われてるの!!早く能力を解除して!!」
銃弾を弾く海兵ウタは、歌姫ウタを必死に説得していた。
同じウタウタの能力者だが、ウタワールドから観客を現世に戻す事ができなかった。
原因は、肉体に戻ろうとする魂を歌姫がウタワールドで縛っているせいだった。
それを解除するには、能力者本人が束縛を解くしかない。
「私は、ただみんなを……」
「……あれ?」
ウタワールドに居る魂は、精神という紐で現世にある肉体に繋がっている。
そのおかげで海兵ウタは、“ウタ”を通じてライブの様子を知る事ができた。
銃弾から庇う為に歌姫を抱き寄せた女海兵は、違和感を覚えた。
「なんでライブ会場が沈んでるの!?」
歌姫の肉体を通じてウタワールドを覗いたら会場が海に沈んでいた。
そしてすぐに惨状を知ってしまった。
「はああ!?」
ウタワールドに取り込まれたルフィと並行世界のルフィたち。
何とかしてウタを止めようとする彼らの前に自分の姿をした分身が交戦していた。
召喚した本人は放心しているのに音符の戦士と分身体が暴れていた。
これには、海兵ウタも戸惑うしかなかった。
「“死・獅子歌歌<し・ししそんそん>!!”」
ロロノア・ゾロが放った一刀流の剣技が正義のコートを羽織ったウタに炸裂する。
音符の戦士に海兵ウタの皮を被せた存在は無数の音符となって飛散した。
「“嵐脚 16分音符<ゼヒツェーンテルノーテ>”!」
しかし瞬時に肉体を復活させた海兵ウタはゾロに飛ぶ斬撃を放つ!
刃で弾き返したゾロはもう一度斬りつけようとするが、別のウタに邪魔された。
「キリがねぇ!!」
斬っても斬っても無限に復活する音符の戦士たち。
しかも仲間が大ファンである歌姫の皮を被せた存在。
女を斬るのを極限まで避けていたゾロにとって辛い現実だった。
「なんだこいつら!?異常に強いぞ!!」
「おれたちがやった時とは、違ってやけに現実的な強さだな」
ビッグマム海賊団とクラゲ海賊団の団員たちは愚痴を溢す。
まるで魔法の様に五線譜に拘束された彼らだが、能力で負けただけだった。
「こんなに強いなんて聞いてねぇぞ!!」
ところが、今相手にしている海兵ウタは本気で殺しにかかってる。
音符の戦士と違ってシャンクスを恨んだウタを忠実に再現した存在。
それは市民から恐れられる海賊団ですらも苦戦する復讐鬼だった。
クラゲ海賊団の船長エボシは、鍔迫り合いで刃を受け止めるのが精一杯だった。
「僕がもう少し彼女に気を遣って居れば…」
惨状を見て指揮を執っていたコビーは作戦が最善ではなかったのを後悔していた。
麦わらの一味とビッグマム海賊団、クラゲ海賊団は歌姫を取り囲むようにしていた。
これでは、歌姫ウタの意見を絶対に受け入れない布陣としか見えない。
歌姫を説得できれば何とかなるはずだったが、そもそもこれでは無理だった。
「プリンセスウタ!!どうしちまったんだ!?」
ウタの大ファンであるウソップは混乱していた。
彼女と敵対するのは覚悟していたが当の本人がいきなり苦しみ出した。
何事かと駆けつけようとすると海兵ウタと音符の戦士が邪魔しにかかってきた。
「チッ!!何があった!?」
ビッグマムの4男オーブンは、動かなくなって泣いているウタを見て思わず呟く。
さきほどまでは強気だった彼女がいきなり泣き出して情緒不安定さに困惑していた。
「現実世界で何かあったみたいですね」
迂闊さを後悔したコビーは、ウタの様子を見て現実世界で何かあったと悟った。
傍に居たヘルメッポも同意見だが1つだけ違和感があった。
「なんでこいつらは止まらねぇんだ!?」
創造主が動かなくなったのに音符の戦士と海兵ウタは戦闘を続行している。
撃破してもすぐに復活する上にウタに攻撃できない者たちは苦戦を強いられた。
「やっぱりネズキノコを食べていたか」
「えっ?」
サンジの呟きを聴いて音符の戦士を撃破した海賊ルフィが駆け寄った。
明らかに異常に暴走しているウタに何があったのか分かると思ったからだ。
「ライブ会場の時に海兵ルフィが持ってきたキノコは毒キノコだ」
「そうなのか!?」
「ああ、あの時は疑いたくなかったが、この現状を見て確信した」
ライブ会場で海兵ルフィがキノコが入った籠を見てサンジは驚いた。
ネズキノコという毒キノコでも質が悪い毒性が分かり辛い物だったせいだ。
「ウタはそのキノコを喰ったみたいだ」
ルフィも道中でブルーノとコビーからウタが毒キノコを食べたと知った。
話の内容は良く聞いていなかったが、ウタを死なせない様に行動していた。
「あれは眠らなくなるだけじゃない。感情が凶暴化してコントロールできなくなる」
ウタが大切にしていたファンに危害を加えたのはキノコのせい。
歌うのが大好きな少女時代を知っているルフィは、すぐに理解した。
「どうすればウタを助けられる?」
「まずはウタちゃんに能力を解除してもらうしかない」
彼らの視線の先には、座り込んで放心しているウタが居る。
「“十六輪咲き<デイエシセイスフルール>”!!…!?」
ニコ・ロビンは、音符の戦士から引き離そうとウタの背中から能力で腕を生やした。
さきほどと違って音符で邪魔されなかった。
だが海兵ウタの斬撃で能力を解かざるを得なかった。
「クソ!!クラゲ海賊団を舐めるなァ!!」
さきほどライブ会場で一蹴された海賊団はリベンジ戦と言わんばかりに戦いを挑む。
しかし音符の戦士はともかく海兵ウタはかなり手強くて未だに撃破できなかった。
船長エボシは、飛ぶ斬撃で海兵ウタをようやく撃破したがすぐに復活された。
あまりにも理不尽過ぎて顔を顰めた。
「シャップルズ!!」
「バリアボールサウンド!!」
無限に復活する音符の戦士たちを全員で相手にしたおかげで布陣が崩れた。
その一瞬の隙を見逃さずにローが能力でウタをバルトロメオの方に飛ばした。
待ってましたと言わんばかりに指を交差したバルトロメオが能力を発動する。
音を遮断するバリアにウタが閉じ込められた瞬間、音符の戦士たちは消滅した。
「ウタ様、これで歌声は外に届かないべぇ!まずは話を……」
音符の戦士と海兵ウタが消滅したのを確認したバルトロメオはウタに話しかけた。
ところが、動揺していて動けなくなった歌姫は口角を釣り上げて笑っていた。
ネズキノコの影響が更に強くなってもはや彼女は正気ではなかった。
彼女の大ファンだったバルトロメオは、その顔を見てショックのあまり硬直した。
「……銃弾が止んだ?」
そこまでを確認した現実世界に居る海兵ウタは、銃弾が飛んでこないのに気付いた。
贖罪の為にウタに操られたファンに無抵抗で殴打された赤髪海賊団が応戦していた。
さすがにウタを狙われて無抵抗で居られなくなった彼らは銃撃を次々と無力化した。
「ウタ准将!今の内に!!」
「こっちです!!」
「ありがとう!」
海兵ウタの部下たちはこっそりと海軍の部隊に紛れて退路を確保していた。
あくまでセンゴク元帥を頂点とする海軍に所属する彼らは上官の意志を尊重した。
部下の助け舟に感謝したウタは並行世界の“ウタ”の手を取って動こうとする。
「とりあえずここは危険よ。一旦、場所を変えて……何で笑ってるの?」
さきほどまで放心して呟くだけだった歌姫は笑っていた。
瞳は濁っており正気じゃないのはすぐに分かった。
「…足りなかった」
「はあ?」
「私にこれを使う勇気が無かったから」
力なく呟いていた歌姫はどんどん声に力を込めて両手を振り上げた。
異様な光景に警戒した海兵ウタと部下たちは距離を取る。
ウタワールドでも同じように両手を振り上げた歌姫にバルトロメオは驚愕していた。
「悪い人には悪い印を…もっと早く決めておくんだった!!」
ウタの呟きでウタワールドに居た全員の衣装が変化した。
ロック調の衣装に変化して悪い海賊らしい服となった。
これは音符の戦士や自分に敵だと分かりやすくする為だった。
「もう迷わない!!」
ウタはバリアの中で右耳のヘッドホンから楽譜を5枚取り出して空中に浮かせる。
ネズキノコのせいで感情が爆発して誰にも彼女は止められなかった。
「気を付けて!!あれが…」
ニコ・ロビンは動きを阻止しようと能力を発動しようとしたが遅かった。
両手を握り締めた歌姫がその楽譜を歌った瞬間、バリアに亀裂が入って砕けた。
「お。おれの完全バリアが……」
バルトロメオはバリアが砕けたのが信じられなかった。
その疑問を感じる前に吹っ飛ばされた彼は水面に叩きつけられる。
衣装を変えられた参戦メンバーはウタに駆け寄ったが手遅れだった。
禍々しい歌声は、歌姫に生えた紅白の翼を暗黒に染め上げていく。
自分が破滅すると分かりつつも彼女は〈トットムジカ〉を歌い続ける。
「ウターーーー!!!」
まるで天使が堕天使になる瞬間を目撃した海賊ルフィは叫んだ。
ウタが二度と戻って来れないという予感がして出た悲痛な叫びだった。
海兵ルフィは自分が関与する問題じゃないと距離を取っていた。
「おれも行く!!」
だがそれどころじゃない。
明らかに彼女から本心で歌ってない歌声を聴いて武装色の覇気を纏って突撃した。
「……知ってる。だってこの歌は」
現実世界に居た海兵ウタは、〈トットムジカ〉を聴いて唖然としていた。
部下たちが大騒ぎする中、彼女はその歌を思い出した。
それは、かつてエレジアで歌っていたものと同様だったからだ。
「エレジアのみんなに届けようとして歌ったはずなのに…」
あの日、エレジア城でソファーの上に置いてあった楽譜をウタが見つけた。
きっと誰かの忘れ物だと思ったが、せっかくだから歌おうと口を開いた。
そして気付いたら彼女はレッド・フォース号で寝ていた。
「私はただ……みんなが笑顔になると思って…」
並行世界の“ウタ”ほどではないが“海軍の歌姫”として絶大な人気を誇っている。
だからこそ歌声を聴いた瞬間、一流の彼女は気付いてしまった。
“赤髪のシャンクス”がエレジアを滅ぼしたのではなく自分ではないかと。
「総員、後退!!一旦距離を取って!!」
だからといって呆然としている場合ではない。
海軍本部の准将としての立場が彼女を部下に後退命令を下す後押しをしてくれた。
「あれは…」
シャンクスは愛娘の歌声を聞いて振り返って見たくない光景を目撃してしまった。
自分の失態で国王以外の国民を全滅させた元凶が再び出現しようとしている。
「困ったねぇ。これじゃあ耳栓も意味ないねぇ」
黄猿は、眉を潜めて歌声を防御する遮音防具を光の粒子で破壊した。
“古の魔王”を相手にするのに邪魔でしかならないからだ。
何も知らない海兵たちは上官の指示を待っていたのが仇になった。
操られた観客たちが海兵やシャンクスに飛び掛かった。
「なんてことだ。発動してしまったのか…」
天竜人のチャルロス聖の身柄を確保しようとしたモモンガ中将は冷や汗を流す。
情報が正しければ、ウタが歌っているのは〈トットムジカ〉に違いない。
「“ウタウタの能力者”が歌う事で実体化する魔王、トットムジカ!!」
戦闘態勢に入ったモモンガ中将にチャルロス聖が抱き着いて動けなくなった。
部下たちが引き離そうとするが事態は悪化の一歩を辿る。
ウタの居た場所に何かが出現しようとしていた。
「クッ!!」
赤髪海賊団が寝ている麦わらの一味を回収して安全な場所に避難させている頃。
シャンクスは魔王の復活を阻止する為に先手を打った。
刃を振りかざし斬り付けるが、既に実体化していた魔王の腕に阻止された。
かつての自分の大失態を思い出しながら一旦、距離を取る。
近くにあった塔に降りるとCP0のカリファと再会したがすぐに会場に目を向けた。
「総員、砲撃開始!!」
エレジアを包囲していた30隻の大型軍艦が砲撃を開始する。
小国ならば数時間で滅ぼせるほどの火力が魔王に向けられる。
しかし、砲弾は全てバリアで弾かれたばかりか反撃を喰らう羽目になった。
魔王は熱線ビームを放出し複数の軍艦に命中させ撃沈される。
一瞬にして大勢の人命を奪われた。
「なんで効かないんだ!?」
砲撃の指揮を執る中将は、ただひたすらに困惑していた。
別世界の同時攻撃がないと傷1つ付けられないなど考えもしてない。
そもそもその程度で撃破できるなら12年前の悲劇は起こってない。
「映像が切れません」
聖地マリージョアでは、必死にロブ・ルッチが音声を切ろうとしていた。
無音にしているはずなのに何故か音声が聴こえてくるのだ。
カチカチとミュートにしようとするが“歌声”は部屋全体に響いていた。
「もういい。〈トットムジカ〉が歌われたらウタワールドに引き摺り込まれる事はないだろう」
やむを得ずルッチは、映像電伝虫を殺害しようとするが五老星の指示に従う。
命を救われた映像電伝虫は、現場の惨状を映し続けた。
「意味が無いのだ。魔王によってウタワールドと現実世界が繋がってしまった」
負の感情で構成されたトットムジカが現実世界とウタワールドを繋ぐ。
その影響でウタワールドで生成された音符の戦士が現実世界にも出現した。
本来ならウタワールドで“魂”を生成しても現実世界に“肉体”がないと出現できない。
しかし、戦場に漂う“負の感情”で無理やり肉体を構成し姿を現した。
本来なら“魂”と“肉体”を繋ぐ付属品である“精神”が双方に牙を向けた瞬間だった。
「この歌はなんか違う!!」
「ウタ、聞こえている!?」
ウタワールドで玩具や菓子に帰られた観客たちが必死に叫んでいた。
それどころかアニマルバンドやバックダンサーたちも呼びかけていた。
ウタを慕って一緒にライブを盛り上げた彼らですら〈トットムジカ〉は異常だった。
だが、その声は歌姫に届くことは無い。
「野郎共!!ルフィたちを安全な場所に運べ!!」
赤髪海賊団の副船長ベン・ベックマンは団員に指示を出した。
無防備に寝ている麦わらの一味を安全な場所に移動させる為だ。
お頭と再会を約束した少年をここで死なせるわけにはいかなかった。
「むっ!!」
ベックマンが周囲を警戒していると黄猿が市民を撃ち殺そうとしていた。
すかさず近寄って銃口を彼に向けた。
「おっかしいね~海軍が市民を殺そうとするのを海賊が守るなんて」
「肩書なんて意味はねェ」
「何故守るんだい?」
海軍の代表である黄猿からすれば赤髪海賊団が観客を庇うのは疑問しかない。
もはや魔王の尖兵になっている以上、観客を物理的に排除するしかない。
ただ、妨害され続けて苛立った彼はせめて観客を守る理由を訊くしかなかった。
「これ以上、おれたちの娘に罪を背負わせない為だ」
意図しなかったとはいえウタは、エレジアで魔王を出現させて国民を虐殺した。
しかし、今回はウタの意志で魔王を出現させている。
このままでは大勢の人命が失われれば、更にウタを追い込んでしまう。
「野郎共!!誰1人死なせるじゃねぇぞ!!」
親として娘の暴走を止めたい海賊団は観客を誰1人死なせるつもりは無い。
平然と発砲してくる海兵たちの弾丸をわざと受けて観客たちを守った。
「ここは魔王を先かもしれやせんねェ」
同じく大将である藤虎も観客を死なせるのは不本意であった。
ウタを裁くのは後にしてまずは魔王を止めるのを優先するように考えた。
既に30隻の軍艦の内、半数以上が撃沈しており海軍に多数の犠牲者が出ている。
「思い出したよ。私は、私は…このエレジアで虐殺した大罪人って事をね」
「ウタ准将?」
エレジアを滅ぼしたと知ったウタは海兵になる事を決意した。
シャンクスや赤髪海賊団が大好きだったからこそ本気で恨んだ。
世界政府の意向で“海軍の歌姫”になったのもシャンクスを討つ為だった。
「ふふふ、私のせいで大勢の人命が失われた。シャンクスのせいじゃない」
実際は自分のせいでエレジアが滅んだと目の前の光景を見て実感した。
部下たちは、上官の雰囲気が変わったのを察して見る事しかできない。
「だから私が責任を取らないと…」
本当は泣き叫びたいのに海軍本部の准将の立場が彼女を許してくれない。
彼女が羽織る正義のコートは、どんな状況になろうともズレ落ちなかった。
「例えこの手が自分の血で汚れようとも…」
トットムジカの頭頂で怒りと絶望をぶつけるように歌姫は禁じられた唄を歌う。
禍々しくこの世に降臨する魔王を祝福するような呪言が耳を通じて伝えられる。
自暴自棄になって暴走する歌姫を見て海兵として見逃せるわけが無かった。
「ねえみんな、私の指示を聞いてくれる?」
「「「もちろんです!!」」」
幸いにもウタウタの能力に対抗できる部下が居る。
自分が暴走した時の事を想定し、訓練させてきた甲斐があった。
今がその時だ。
「魔王を撃退し、“ウタ”の暴走を止めるわよ!!私に続け!!」
「「「ハッ!!」」」
ウタ准将とその部下たちは魔王とその尖兵を止めるべく作戦を開始した。
安全な場所で拘束された海兵ルフィがそれを見守るように寝ていた。
その顔は、絶対にウタの作戦が成功すると確信したような顔であった。
海兵ルウタとREDの世界線との邂逅18に続く