海兵ルウタとREDの世界線との邂逅11

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅11


生物の魂は、精神という紐で肉体と繋がっている。

それは基本的に肉体が機能を停止させて死ぬまで外れることは無い。

そして肉体が受けた環境で精神が成長し魂にその情報を刻んで伝えていく。

意志を持った魂は、そうやって成長を続けていくのだ。



『なるほど、ウタウタの能力が精神に作用するとはこの事か!!』



モモンガ中将は、操られた海兵の方のルフィを目撃してそう思った。

“ウタ”によると、【歌】で精神に作用して連結している魂を空想世界に連れて行く。

ならば、精神に連結された肉体を操るというのも可能という事だ。



「お嬢さん、少し話を伺っても?」

「私の邪魔をしないなら良いよ」



援軍として駆けつけて来た海兵の集団に盲目の男が駆けつけた。

額から頬に駆けて罰点印の傷がある男は、海軍大将“藤虎”である。

動揺している海兵の中で落ち着いている彼は、諭すように歌姫に話しかけた。



「どうしてこんな計画をしたんだい?」

「大海賊時代で蹂躙される観客たちが私に助けを求めたの」

「助け?それはどういう案件だい?」

「私の歌に縋って“救世主”として讃えてくれたの。だから私はそれを実行するだけ」



キノコが入った籠と麦わら帽子を置いてウタは雨で濡れているステージに座った。

海軍に包囲されているとは考えられない無防備な姿だ。



「今からでも遅くねぇ。やめてくれませんかね世界転覆計画を…」

「えっ?なにそれ?」



藤虎が言い放った『世界転覆計画』という単語にウタは首を傾げた。

彼女はファンの為に“新時代”を作るだけでそれ以上、考えてなかった。

だって、“新時代”が到来したらウタは現実世界から消えるのだから。



「私はね!もう二度とファンが死ぬ姿を映像越しで見たくないの。分かる?」

「卑劣な海賊に致命傷を与えられて私に泣き縋って絶望して死んだ私のファン!!」

「私は犠牲者をもう出さない!!私は救世主としてファンを救うの!!」



ウタがライブ配信を始めて暫くすると悲惨な光景を目にするようになった。

海賊に襲来されて壊れた家屋、怪我した住民、腹を空かせた子供たち。

不安で眠れない日々、平和を守っている海軍すら恨む民衆が居る現状。

そんな彼らの希望となるなら…ウタはいくらでも歌うつもりだった。

だがライブ配信中で歌っている時に観客が海賊に殺された瞬間、彼女は狂った。



「お前がやっている事は海賊と同じだ!!民間人を殺す行為だ!!」

「違う!!」



モモンガ中将は、ウタの行動を海賊と同じだと断言した。

肉体が眠ったままならいずれ死に至る。

どちらとしても人が死ぬには変わりはないと彼は告げた。

即座にそれをウタは大声で否定した。



「みんなはね!!辛い現実から脱出して楽しいウタワールドで暮らしていくの!!」

「もう海賊に怯えなくて済む優しい世界!!とっても素晴らしい世界なの!」

「…だから邪魔しないで」



興奮したかと思ったら急速に脱力したウタは籠からキノコを取り出した。

ピンク色の可愛い両耳が生えたようなキノコ。

それを彼女は口に含んでゆっくりと齧って飲み込んでいく。



「……この匂いは、ネズキノコですかい?」



匂いでキノコを思い浮かべた藤虎の問いにウタは笑って親指を立てた。

失明した人間に対する態度とは気付かないモモンガはキノコについて気になった。



「ネズキノコ?」

「そのキノコを食べた者は寝る事ができなくなり、やがて死に至る」



モモンガ中将や海兵たちの疑問に答える様に藤虎はキノコの解説をした。

ネズキノコを摂取すると不眠となり死に至る毒キノコのようだ。

それを知ったモモンガ中将は背筋が凍り付いた。



「貴様!!観客たちを巻き込んで死ぬ気か!?」



“ウタ”によると、ウタウタの能力を解除するには能力者が眠る必要がある。

そして、ウタワールドに【心】が居る状態で死ねば、永遠に戻ってこない。

さきほどのウタとの会話で彼女の目的を知ったモモンガは激怒した!

「集団心中して観客をウタワールドに閉じ込める気」だと分かってしまった!



「死ぬって何!?大切なのは心でしょ!!」

「“新時代”はね!みんなと一緒に心で生き続けるものなんだよ!」



憤慨している海兵たちを嘲笑するようにウタは計画を告げていく。

辛い現実から逃避して優しく争いが無い世界にファンを招待する。

幼い彼女が抱いた夢を歪んだ意志と覚悟で実現させようとしていた。



「できれば血を流したくないんで計画をやめてもらう事はできやせんか?」

「言ったでしょ。私はみんなを幸せにする救世主になるって」

「…どうやら話の通じる相手じゃないようで」



藤虎としても世界一の歌姫を傷付けたくはなかった。

しかし、何度も忠告しても聴かない女を許すつもりはなかった。

彼は溜息交じりで鞘から刃を出して脅しじゃない事を彼女に魅せ付けた。



「あんたたちもね」



ウタが歌を歌おうとして息を吸った。

その瞬間、海兵達はヘッドフォン型の遮音機能付きの耳栓を取り付けた。

歌を聴かなければウタはただの歌姫に過ぎない。



『本当は勝ち誇ってこれを付けたかったのだがな…』



耳栓を取り付けたモモンガ中将は暗かった。

理由は、ウタ能力が精神に作用するせいで肉体を操る事ができる。

それならまだ納得できるが、ウタワールドの存在を召喚できる事が発覚した。

さきほど彼は五線譜に貼り付けにされて無力化されたからこそ彼女に警戒した。



『なによりあのルフィは何だ?何で立たせたままなのだ!?』



更に厄介な事に寝ている海兵ルフィが彼らに意識させる事となった。

盾にしてはウタは無防備過ぎるし、駒にしては動かな過ぎた。



「歌声さえ聞かなければお前は無力だ」

「抵抗は無駄だ!大人しくしろ!!」



海兵たちはウタに無条件降伏を促すが、内心では焦っていた。

麦わら帽子を被っている海兵が寝ながら立っている。

それを意味するのは1つしかない。



「それはこっちの台詞」



ウタが海兵に向かって冷たく言い放つと何かが彼女の後方から動いた。

歌姫を捕縛しようと近づいた武装偵察班の部隊は吹っ飛んだ。

何事かと彼らは、その正体を見極めようとした。



「コビー大佐!?何の真似ですか!?」



コビー大佐と親交があった海兵は彼に呼び掛けるが声は届かない。

コビーとヘルメッポは、ウタに身体を操られて海兵を攻撃していた。

若き英雄という事ですぐに手を出せなかった偵察班はステージ外に押し出された。



「みんな!悪い人たちが居るよ!“新時代”の為にみんなでやっつけよう!」



さきほどとは変わってファンに呼び掛ける様に叫んだウタ。

それに呼応するように寝ていた観客たちが起き上がった。

このライブ会場に居る観客は5万人、その全員が海兵の敵となった。



「うわっ!!」



怯えた1人の海兵がとっさに銃口を観客に向けた。



「傷付けちゃいけねぇ!操られているのは罪なき一般市民だ!!」



海軍大将藤虎の発言もイヤホンのせいで届いていない。

最初に銃口を観客に向けた海兵は優し過ぎてすぐに撃ち込めなかった。

その隙に観客たちが飛び掛かって彼のイヤホンを外した。



「あ!?」

「い!?」

「う!?」

「え!?」

「むきゅ!?」



戦力差は30分の1以上で、圧倒的に数で押されていた偵察班。

次々にイヤホンを観客に奪われてしまった。



「この!!調子に乗りやがって!!」



海軍本部の大佐が銃口をウタの脚に狙いを定めた!

いざ、引き金を引こうとすると全身が衝撃を走って意識が飛びかけた。

心臓発作だと思った大佐は、銃口を降ろして膝をついて胸を抑えた。



「ぐあっ!?」

「な、なんだ!?」



ライブ会場に居た500人の海兵はおろか、エレジアに展開していた海兵が次々と倒れ込む。

それは恐ろしい存在に威圧されて心も身体も恐怖に屈した感覚だった。



「“覇王色の覇気”……!!」



モモンガ中将は、自身が受けた衝撃の正体を瞬時に理解した。

操られた海兵ルフィによって“覇王色の覇気”が海兵に向けて放たれていた。

それは気絶させるのではなく一時的に動けなくさせるもの。

その影響か、誰一人気絶することはなかった。



「うわあああ!?やめてくれえええええ!!」



しかし動けなくなった海兵は観客たちの魔の手にかかった。

中には女の子に抱き着かれて嬉しがっている者も居たがそれは例外であろう。

現世を彷徨うゾンビが仲間を増やそうと生者に襲い掛かる光景に似ていた。



『なるほど、誰も傷付けずに攻撃してって命令するとこうなるのね』



ウタは、海兵ルフィに『傷付けずに海兵を無力化して』と命令した。

すると彼は、見事に何かをしたようで海兵たちは倒れ込んだ。

さすがに強者には通用しなかったようだが、立っているのはたった6人。

海軍本部の佐官クラスの実力者までをも無力化したルフィにウタは感謝した。



「クソ!!」



海軍本部の大佐がイヤホンを観客に奪われた時、ウタは歌い出した。

〈ウタカタララバイ〉、それは独特な曲調から中毒性がある孤独を恐れる歌。



「ひとりぼっちには~飽き飽きなの♪繋がっていたいのぉ~♪」



ウタはイヤホンを外された海兵に歌を囁くと彼は夢の世界に旅立った。

音響を考慮されて設計されたライブ会場はウタの独壇場。

まんまと釣られた海軍は、ウタの歌声に翻弄される事となった。



「やりやがった!!」



一瞬でライブ会場に居た武装偵察班の4割がウタワールドの住民になった。

ウタの歌に虜になった海兵たちは、仲間を増やそうと同僚を襲撃し出した。

准将が同僚たちと小競り合いをしている隙に観客が抱き着いてイヤホンを強奪する。

次々とその現象が発生して一瞬で偵察班は無力化された。



「撤退だ!!……逃がしてくれんか!!」



敗北を悟ったモモンガ中将は、合図で撤退命令を下すが追撃されて動けなくなった。

ようやくここで佐官と尉官クラスが動けるようになったが後の祭り。

部隊の6割を消失するどころか敵に寝返ったという劣勢を覆すことはできない。



「情けが仇にあるとは…何とも因果な渡世にござんす…!!」



愚痴を溢した藤虎は、操られた大佐の斬撃を鞘に納めた刀で受け止めて応戦していた。

毒キノコを食べたウタに能力を行使すれば悪影響が出るのは明白。

絶大な能力が故に行使できないせいで防衛を強いられていた。



「大将殿!!民間人への攻撃許可を!!このままだと全滅します!!」



指示を仰ぐ海兵も居たが、防音のイヤホンを付けているせいで意味はない。

寝ている民間人をけしかけたウタは薬物中毒でラリっており正常な思考ではない。

拡声器を持って踊りながら歌い続けるその姿は、新世界の神に等しい振る舞いだった。



「やめろぉ!やめてくれぇ!!」



ウタワールドの住民が更に住民を増やそうと泣き叫ぶ海兵に襲い掛かる。

戸籍など知った事かと言わんばかりにウタワールドは無限に人を受け入れるようだ。

コビー大佐、ヘルメッポ少佐といった顔馴染みの攻撃を受け流したモモンガ中将。



『しまった!能力も使えるのか!?』



突如として出現した“空気のドア”からブルーノとローが飛び出してきた。

不意打ちをされたモモンガは、ローの斬撃を辛うじて受け止めるが海に落下した。

追撃するようにブルーノが飛ぶ斬撃である“嵐脚”を水面に向かって放った。

見事に効いたのかモモンガが水面から出てくる事はなかった。



「一旦、退きやしょう」



僅か8名の海兵を率いて藤虎はライブ会場から撤退した。

完敗どころか状況を悪化させた彼は先輩である黄猿に逢う顔が無かった。



『大丈夫!海兵さんたちもウタワールドでは平等なんだよ』



〈ウタカタララバイ〉は救世主になる覚悟を決めた唄で本心では歌えない。

しかし、彼女はもう退けない。

1人でも多くウタワールドに招待するべく力強く歌い続けた。

だが彼女は1つだけミスをした。



『……何!?…エレジアで展開している海軍に何かあったの!?』



2つのウタワールドを展開したせいで寝室で熟睡していたウタを目覚めさせてしまった。

海兵ルフィの覇王色の覇気は、ウタ准将率いる海軍の部隊には届いてはいない。

ただ、エレジアに展開している2万の海兵に支障が出れば、嫌でも彼女は気付いた。



『ルフィの覇王色の覇気ね……辛いけど行かないと』



ライブ会場で覇王色の覇気を飛ばしているルフィのおかげで大体感覚は掴めている。

寝ぼけつつもウタは正義のコートを羽織ってカットラスを握り締めて寝室から出た。



「ウタ准将!?もうお目覚…ひいい!?すぐに上陸の準備をさせます!!」

「ありがとう」



ウタの寝室の前を警護していた海兵が彼女の顔を見た瞬間、逃げ出すように走り出す。

彼の後を追うように優雅に歩いていく女の顔は、鬼神の如く殺意に満ちたものだった。



「グルグルマユゲ!まだ抜け出せねぇのか?」

「クソマリモ!お前だって抜け出せてねェじゃねぇか!!」



ウタワールドのライブ会場で五線譜に貼り付けにされている麦わらの一味。

なんとかして脱出しようとするが、力づくでも外れる事が無かった。

サンジとゾロは口喧嘩を始めても状況が好転することは無かった。



「お兄ちゃん…」

「待ってろお前だけでも絶対に助けてやる!」



海賊オーブンも試しに能力を発動させてみたが無理であった。

逆に可愛い妹を火傷しそうになって反省して身体能力で動こうとした。



「むう!?もう少しで…」

「え?外れそうなの!?」



骨人間のブルックの一言でナミは期待を抱いて話しかけた。

1人でも脱出できれば、それをみんなに伝える事ができるからだ。



「もう少しで見そうです!ナミさんのパンツが!!」

「見るな!!」



ちょうどナミの下に拘束されていたと気付いたブルック。

ミニスカートの中にあるパンツを見ようと試行錯誤しているとナミに蹴られた。



「ねえ、もしかしたら楽譜になっているんじゃないかしら?」

「どういう事だ?」



1人だけ冷静に思考に耽っていたロビンは口を挟んだ。

ウソップは彼女が最後の希望と思って縋る様に質問した。



「私たちを拘束しているのは、五線譜、つまり音楽になっているって事よね」

「もしかしたら頭の位置がドレミになっているんじゃないかしら」



ロビンも確信はない。

ただ悪魔の実の能力は何かしらの弱点が存在する。

音楽関係の能力ならそれが弱点かなと思って発言しただけだった。



「さすが麦わらの一味ですね」

「え?」



若い男の声がした方をロビンが見下ろすとエアドアを開いて待機している2人が居た。

ドアドアの能力でエアドアを作った諜報員のブルーノとコビー大佐だった。



「なんでブルーノと一緒に居るの?」

「説明は後程……ブルックさん歌ってみてください!」



予め五線譜をメモしたコビーは、ブルックにその写しを見せた。

ブルックが歌声を奏でると1人、また1人と五線譜から開放されていった。

やはりウタの能力は音楽関係であると間違いないだろう。

解放された麦わらの一味は全員そう思った。



「おい!妹だけでも解放してくれ!!」

「お兄ちゃん…」



クラゲ海賊団と一緒に拘束されているオーブンがコビーに本音を告げた。

自業自得という単語は頭に浮かんでいるが、彼は妹だけは自由にさせたかった。



「海軍に協力するのが条件だ」

「チッ!」



エアドアの中でヘルメッポが条件を出した。

海賊が海軍と共同戦線を築くなどあり得ない。

しかし、プライドか妹、どっちを取るかと問われれば答えは1つしかない。



「選択する余地はないな。良いだろう一時的だが海軍と手を組んでやろう」

「「「オーブン様!?」」」

「お前たちも従え!責任は全て取るから俺の顔を立ててくれ」

「「「分かりました」」」



ビックマム海賊団の下っ端もオーブンの意見を肯定するしかなかった。

失態を映像配信でマムに見られた以上、汚名返上しなければ帰る事ができない。



「どうする?」

「どうしようか?」

「どうしようもねぇよ」



クラゲ海賊団も海軍の提案に乗るしかなかった。

ウタを攫う計画だったが、予定を変更した。

すなわちクラゲ海賊団を舐めたウタに痛い目に遭わせようと考えた。



「おいそこの海兵!俺たちも組んでやるぜ」

「えぇ!?」

「俺たち3人は腐っても億越えだ。その辺の海賊よりは腕が立つぜ」



コビーはさすがにクラゲ海賊団を仲間にするか迷った。

ライブを妨害したどころか、ウタを攫おうとした海賊団。

彼らの言葉を信用していいのだろうか。



「分かりました。ブルックさん続けてお願いします」



ここでクラゲ海賊団の提案を断っても良い。

しかし、ビッグマム海賊団が約束を信用してくれなくなる。

頬を掻きながらコビーは、彼らの提案を受け入れるしかなかった。



「ライブ会場は閑散としているのう」

「ウタが海賊捜索ゲームをやってますからね」



ジンベエの言葉にコビーは律儀に応答する。

元七武海ジンベエが麦わらの一味に所属している。

ついにあのルフィさんが世界に直接影響を与える存在になった。



『僕も負けていられないな』



“ロッキーポート事件”のおかげでコビーは英雄として讃えられるようになった。

だが、それは当然の事をしたことであり、彼としては守れない物があった。

それを守るためにはまだ階級や実績が足りていないとコビーは感じている。

樽で漂流していたルフィが成り上がっていくのを見て負けじと頑張るつもりだ。



「よお!」

「ゾロさん、久しぶりですね」

「挨拶は良い。それよりウタの能力について知っているようだな?」

「えぇ!僕たちはウタの計画を阻止する為にここに来てますから」



数少ない“弱い自分”を知っているゾロに話しかけられてコビーは感激していた。

すぐに気持ちを切り替えて大佐の威厳を見せる様に受け答えをした。



「あちょー!」

「それは『レ』だな。ミになるように合わせてくれ」



一方その頃、ゴードンも五線譜から脱出しようと試みていた。

ウタもそれを想定していたようで1人じゃ外れないようになっていた。

そのせいで彼は子熊に頭を下げて協力してもらって合唱をしていた。



「ミー!」

「あちょ~!」

「もう少し高く!ミー!!」

「アチョー!」



何回か同じことを繰り返してようやくゴードンは五線譜から開放された。



「ありがとう!君は素晴らしいクマだな」

「アイアイ!!」



近寄って来た子熊にゴードンが感謝の言葉を告げた。

それを受けたベポは武闘家として拱手をして喜びの構えを見せつけた。



「い、行かなければ…うぐっ!?」



ゴードンはウタの暴走を止めようとするが身体がうまく動かない。

魂だけの存在とはいえ、この世界は物理法則が働いている。

錯覚とはいえ五感はしっかりと働いていた。



「…そうか、君もウタの暴走を止めてくれるか」

「アイアイ!!」

「そうだな、君の様なファンが居てウタも幸せだな」



ベポはゴードンの話を聞いてウタを助けたいと思っている。

だから彼はこの場に残ったし、なんなら彼を背負って連れて行くつもりだ。



「待て待て、さすがに体格差があり過ぎる。そこに台車があるからそれを使おう」

「あい!!」

「すまないな……私がしっかりしていればこんな事にならなかった」



ゴードンの人生は失敗続きだった。

特に12年前から彼はずっとウタの接し方を間違え続けた。

ウタが生き残るためなら喜んで首を捧げてみせる。



『シャンクス、みんな…約束通りウタを世界最高の歌い手にしたが…救えなかった』



あの焼け野原でシャンクスとエレジア国民に誓った。

可能性の塊であり最高価値がある原石を磨いてみせると!

それがエレジアの悲劇を上書きする償いになると!!



「アチョー?」

「どうかしたかね」

「アチョ?」

「ああ、ウタを止めてみせるさ!今後も生きて歌い続けてもらう為に!」



ベポに心配されたゴードンは自分が悲観的になっているのに気付いた。

まだウタが死んでいない以上、希望などいくらでもある。

二度と選択に後悔しないように初めてウタに反抗しようと彼は歩み始めた。



海兵ルウタとREDの世界線との邂逅12に続く

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