海兵ルウタとREDの世界線との邂逅1

海兵ルウタとREDの世界線との邂逅1


海兵ルウタとREDの世界線との邂逅1


偉大なる航路、それは摩訶不思議な現象が起こる海域である。

赤い大陸と偉大なる航路に分断された4つの海の常識には当てはまらない。



「ルフィいいいいいいいいいいいい!!」



ある日、軍艦の執務室から女の怒鳴り声が聞こえて来た。

何事かと海兵たちが駆けつけると両手を腰に当てているウタ准将。

そして申し訳なさそうに床に座り込んでいるルフィ大佐が居た。



「あんた、タール塗れの軍服を下着置き場に入れたわね!?」

「ごめん、急いでたんだ!!」

「ふざけないでよ!!おかげで私の下着がタール塗れになったんだけど!!」



汚れを落とすのに一苦労したウタは元凶のルフィを叱っていた。

だが、これを聴いた海兵たちは1つの疑問が湧いた。



「えっ、ウタ准将!?大佐の洗濯物を洗っているのですか!?」

「当然でしょ!こんなだらしない義弟に洗濯させるわけないでしょ!!」

「いえ、そういう事を言っているのでは…」

「はい!ルフィ以外は解散!持ち場に戻りなさい!!」



部下達は歌姫である准将が大佐の洗濯物を一緒に洗っているのに衝撃を受けた。

道理でルフィ大佐の軍服がウタ准将と同じ香りがするわけだと納得自体はできた。

それは別として異性の下着を洗っている歌姫を想像して興奮してしまった部下達。

そんな内心を読んだのか強制的にお開きとなった。



「しかし、ルフィ大佐の下着を准将殿が洗っているとはな…」

「お二方とも過去を語らないから良く分かんねぇんだよな」

「でも今の話を聴いて【あの噂】に信憑性が出たな」



海兵はウタ准将の誕生日にルフィ大佐が彼女と結婚する与太話を信じてしまった。

きっかけは、空島から落下して着水した時に辿り着いたG-8支部ナバロン要塞で悲劇が起こった。

ルフィ大佐がペアリングを持ち歩いているのを目撃した海兵の1人がそれを訪ねてしまったのが歯車を狂わせるきっかけだった。



「すげぇ奇麗だろう!これをウタの誕生日にプレゼントするんだ~!」



この一言がきっかけでその海兵は2人が結婚すると海軍本部に一報を入れた。

当然、ルフィ大佐が結婚するわけないと分かっている海軍上層部はそれを一蹴した。

ところが、その情報を入手して拡散したメディアが居た。



「なーに“海軍の歌姫”と“麦わらのルフィ”が歌姫の誕生日に結婚するだと!?」

「いえ、私の知り合いが勤務中の同僚に与太話として聴いただけですので…」

「クハハハハ!たまんねぇぜ!!さっそく記事にするか!!」



世界経済新聞社の社長、“新聞王”モルガンズは悪乗りで記事を飛ばした。

【活字のDJ】を自称するこの世で一番自由な奴は、世界でウケそうな話題を無視するわけなかった。

むしろ、困惑する2人の英雄の顔を思い浮かべてご満悦の有様だった。



「サカズキ大将!!ルフィ大佐とウタ准将が海軍本部で結婚式をあげるという記事が!!」

「なんじゃと!?すぐさま2人を呼び戻せ!!」



新聞をばら撒かれた以上、海軍や世界政府が無視するわけにもいかず、ルフィとウタの直属の上官である海軍大将サカズキの耳に入り真意を問う為に緊急招集した。

そのせいで2人を乗せた軍艦は、海軍本部があるマリンフォードへと向かっていた。



「しかし本当に結婚すると思うか?」

「元から夫婦みたいな関係だしな。文字通りプレゼントで終わるんじゃねぇの」

「だが世間はこの話題で持ち切りだ」

「良い事じゃねぇか。ここ最近良い噂なんてなかったしな」



甲板員の海兵たちは私語をしながら任務を遂行していた。

ウタファンである彼らは素直に彼女の結婚を喜べないと同時に幸せになって欲しい。

そういった複雑な感情で揺れ動いており、いつもより動きが鈍かった。



「ん?…霧か!?」

「いくら永久指針があるといえ危険だな!おい!艦内に一報を入れろ!」

「了解しました!!」



偉大なる航路で異常事態が発生するのは日常茶飯事で驚きはない。

むしろ、霧だけで済むなら幸運の事だった。

だが、今回の霧は別次元とはこの時、誰も気づく事は無かった。



「あれ?」

「どうした?」

「子電伝虫が念波を送れていないようです」



最初に異変に気付いたのは、結婚話に盛り上がっていた通信兵だった。

艦内の通信室に一報を入れようとしたが、何度やっても通信が繋がらなかった。



「霧で念波が使えなくなるなんて聴いた事が無いぞ」

「忘れたか?ここが偉大なる航路だぞ。ささっと走って連絡しに行け」

「りょ、了解しました!」



通信兵は走って通信室に行くと同僚達も通信できないのに困惑している有様だった。

既に上官たちには連絡済みであるが、彼らは不安を隠せなかった。

かの有名な “魔の三角地帯”に侵入してしまったのかと考えてしまった。



「安心しろ。この海域には “魔の三角地帯”なんて存在しない」

「1級航海士殿!」

「曹長殿!!」



不安がる海兵を励まそうと1級航海士が通信室に遊びに来た。

彼の一言でひとまず安心した海兵たちは何が起こったか尋ねる事にした。



「曹長、あの霧の見解についてお尋ねしたいのですが…」

「今見てきたら外の環境では発生しない霧が見えた…あれはただの霧じゃないぞ」

「と言いますと?」

「偉大なる航路で発生する霧はな…船乗りにとって縁起が悪いという伝説がある…」



励ましに来たのか脅しにきたのか。

彼が何をしたいのか分からない通信兵たちは必死に彼の言葉に耳を傾けていた。



「なんてな!今は永久指針があるし、ここ一帯は穏やかな気候のようだ」

「曹長、脅かさないでくださいよ…」



やっぱりおちょくりに来た航海士に一同は脱力して椅子に座り込んだ。

そして音貝の殻頂を押して歌姫の曲を流して雰囲気を明るくさせた。



「ウタ准将から伝達!!甲板員以外は外に出る事を禁ずる!艦内ではスリーマンセルで行動せよ!」

「えっ?何かあったんですか!?」

「【虹色の霧】が出た!!」

「なんだと!?」



【虹色の霧】という単語を聴いて顔を真っ青にした1級航海士は慌てて通信室から飛び出して甲板に向かって行く。

伝令兵も彼を追って甲板へと向かって行った。



「ウタ准将!!」

「遅いわよ!!何をやっていたの!?」

「申し訳ありません」

「言い訳無用!ひとまずこの海域から脱出するわよ!!」



1級航海士が甲板に上がると腕組んでいたウタ准将と目が合った。

慌てて彼は謝罪するが彼女はルフィの件もあり特にそんな事など気にしていない。

さっさと任務を全うしろという気持ちが大きかった。



「3列砲塔の班は全員艦内に待機させました」

「操舵手班、甲板員以外の兵は全て収容が終わりました」

「よし、次はこの海域から緊急脱出!ここから一番近い海軍基地はどこ?」

「G-9支部であります」

「そこに向かうわ!速やかに方向転換を!虹色の霧から何としても脱出するのよ!」



ウタ准将や航海士が焦っているのは、【虹色の霧】が時間を超えて世界と繋がる伝説を知っているからだ。

海軍本部は、眉唾物と判定してるが東の海や一部の海域で知られている伝説だった。

伝説は何もなければ人々の記憶に残されず現代まで紡がれない。

故に彼女達は何としても濃霧から脱出したかった。



「なんかみんな大騒ぎしてるけど何かあったのか?」

「この濃霧がただの霧じゃないってさ」

「そうか、じゃあ皆が迷子にならないようにしないとな」



ルフィは自分以外が大騒ぎしていて話題から取り残された疎外感を味わっていた。

よって幼馴染の顔を見た瞬間、何が起こったか聴いて事情を把握したルフィはウタの無防備になっている背中に抱き着いた。



「きゃっ!……どうしたの?」

「霧でみんなが見えないんだろ?おれが一緒に居てあげるよ」

「ありがとう、しばらく一緒に居てね」



見聞色の覇気を駆使して軍艦内に居る部下の気配を感知している。

それは途方も無く疲労が蓄積される行為であり、精神的に何かが削られていた。

そこにルフィの体臭と感触により、少しだけ落ち着いた彼女はルフィに感謝した。



「ルフィも見聞色の覇気を駆使してみんなを見守ってくれない?」

「よし任せろ!!」



見聞色の覇気を使えるのはルフィとウタしか居ない以上、甲板員を行方を見逃さないようにしていた。

2人ともこの海域で何が起こってもおかしくないと分かってるからこそ油断しない。

それはそれとしてルフィはウタに抱き着いた感触を恋しがっており、濃霧のおかげで堂々と彼女に抱き着けるのは感謝していた。

伝令兵も航海士も『やっぱり結婚する噂は本当ではないか』と思ってしまったが…。事情が事情なのであえて黙り込んだ。



「報告申し上げます!!」

「どうした!?」

「複数の永久指針が狂いました!!もはや我々は濃霧で遭難しております!」

「なんだと!?島の磁気を記録した永久指針が狂うわけが…」

「これが証拠です!」



1級航海士の前に操舵手班が駆けつけて指針が定まらない永久指針を見せつけた。

証拠まで見せられれば怒鳴る事も隠蔽する事もできない航海士は黙るしかなかった。



「クソ!なんで狂うんだ!?」

「狂ってしまったならしょうがない。問題なのはこれからどうするのかという事!」

「ウタ、おれに良いアイディアがある」



ウタ准将と航海士4名は絶望しつつも大佐の意見を聴こうとした。

どうせ碌な事を言わないだろうが、絶望した時に見るルフィの笑顔は格別という物。

少しだけでも希望を持ちたい彼女達は彼が発言するのを待った。



「みんなで歌っておれらの居場所を知らせれば良いんだ!!」



予想通りの答えを聴いた海兵達は脱力したが1人だけその提案に乗った人物が居る。



「ルフィ!ナイスアイディア!!さっそく歌うわよ!」

「「「「ええええっ!?」」」」



歌姫が歌を否定するわけもなく純粋な気持ちで彼の意見に乗った。

これは幼馴染フィルターで美化されたのではないのだから困る。

さっさりとルフィの提案を受け入れたウタに海兵は困惑の声をあげた。。



「お待ちください!この緊急事態に歌っている暇は…」

「大丈夫、能力は発動しないから!むしろ音で軍艦の周りがどうなってるのか確認したいの」



異様に聴力が良いウタは、音の反響によって空間を把握する技能がある。

彼女が音によるセンサーでまず自分たちを取り巻く環境を把握したかったようだ。

ウタに自分の提案を採用されて嬉しそうな彼は、更に手を繋いで離さないつもりだ。



さあ、手を繋ごうぉ♪一緒に居よう♪私の夢、みんなと居たい♪味わう温もり……

「ウタ准将!!」

「ああ!!良いところなのにー!!」



久しぶりに〈太陽の温もり〉を歌い出したのにすぐに部下から制止されてしまった。

せっかくの歌を邪魔されたウタは途端に不機嫌になって頬を膨らませた。



「操舵手班がここに勢揃いしてますが、誰が本艦を操縦しているのですか!?」



集合した航海士が同じく勢揃いした操舵手の班員を見て当然の疑問を口にした。

「言われてみればそういえば」と声をあげて現状に気が付いてしまった一同。



「あ?」

「い?」

「う?」

「え?」

「むきゅ?」

「そこは、『お』でしょうが!!」

「准将殿!ツッコむところが違いますよ~!?」



気まずくなった操舵手班の内、1名がボケたので律儀にツッコミを入れたウタに部下が更にツッコミを入れた。

ルフィからすればどうでもいいが、ウタの歌が妨害された事だけは不満だった。



「じゃあ、舵輪の前で歌えば解決ね!みんなついて来てね!」



開き直った歌姫は、全員を連れて舵輪の前でライブをするつもりだった。

航海士と操舵手が居ればとりあえず何かあってもすぐに対応できるからだ。



「濃霧が更に濃くなってきました…」

「ゴムゴムの~~~“命綱”!!」



濃霧が濃くなって前が見えなくなって不安がる海兵たちにルフィは手助けをした。

指を器用に伸ばして航海士と操舵手全員に1周巻くように結び付けた。

これならルフィを中心として行動できて、うっかり海に落ちる事故はないだろう。



「行くわよ!!」

「「「「ハッ!!」」」」



海軍本部の軍艦の舵は、船首楼に剥き出しに設置されている。

目の前には三列砲塔があり、視界を遮っているがそれはもはや問題ではない。

むしろ、その砲塔がうっすら霧の中から見えているから方向を見失わずに済んだ。



「航海士!今の状況は?」

「湿度、海流、気圧は問題ありません。ただ、この霧が得体が知れません」

「霧の感覚ではありません」

「まるで幻影みたいに実体がないんですよ!」

「へぇそうなんだ…」



ウタが航海士に質問すると頼りがいにならなそうな情報が次々と飛び込んできた。

しかし、そんな事でビビっていたら偉大なる航路を生き乗れない。



「つまり不思議な霧だな」

「つまり不思議な霧ね」

「意外と楽しんでいませんか…お二方…」



呑気にティカップを持って、ルフィとウタは呑気にお茶を啜った。

「ホント、どこから持ってきたんだ?」とツッコミたくなる光景である。

伝令兵はそれを見てツッコミを入れる事自体億が億劫になりつつあったが指摘した。



「あれ?」

「どうなされたのですか?」

「音が聞こえやすくなったわ」

「えっ?」



ウタは部下のツッコミを聴いて自慢の聴覚で音が聴こえやすくなったと判断した。

それを受けてウタ派の航海士が音響弾を込められた専用銃を取り出した。

准将の首振りを見逃さなかった航海士は、上空に向けて音響弾を放った。



「うわっ…!?やっぱうるせぇな!」

「やっぱり霧が少し晴れてる」

「良く分かんないんですけど霧で音が変化するのってあり得るんですか?」

「私がそんな事知る訳ないじゃない!そこに航海士が居るんだから聴いてきなさい」



さきほどの音で軍艦の周りに霧が晴れ始めているとウタは直感で理解した。

伝令兵の問いに対してウタは航海士に訊いてこいと返答をした。

ルフィの為に一生懸命雑学を覚えてきた彼女も分からない事などいくらでもある。



「大変です!!」

「今度は何!?」

「本海域では存在しない島を発見しました!!」

「えっ…」


1級航海士の曹長からこの場に居る全員に衝撃的な話を聞かされた。

存在しない島が見えたという事は幻覚か、わざと隠された島としか思えなかった。



「って事は、その島は【幽霊島】って事か!?」

「大佐、確かにそうなりますが何か違和感があるんです」

「そっか【幽霊島】か…しししし!ワクワクしてきたぞ!」



記録には存在しない島、すなわち幽霊島と思ったルフィは報告を受けて満足した。

…と断言したいのは山々だが、彼はそれだけで退き下がる漢ではなかった。



「まさかルフィ大佐上陸する気では!?」

「その通りだ!!どうせ霧が漂っているんだしあそこでお世話になろうぜ」

「確かに異常気象が収まるまで寄港して停泊した方が良いかもね」

「ヨシ!決まりだ!先に行って準備をしてくるぞ」



ルフィの提案に乗った一同だったが、最後の一言で不安になった。

現に海兵は伸びた指から開放されてウタに至っては彼の抱擁から開放されてしまった。

絶対、ルフィがアホみたいな行動をしてトラブルを起こすのは想定済みだった。



「待ってルフィ!!一緒に行こうよ!!」

「ウタ!幽霊島を調べて報告するからなー!」

「聴いてよルフィいいいいいいい!!」



彼女は必死に馴染みを制止するが興奮しきった彼の意見を曲げる事はできなかった。



「ゴムゴムの~~“ロケット”!!」

「ルフィいいいいいいい!!」

「「「「大佐!?」」」」



一番乗りをしたいルフィは霧の中で島影が見える段階で飛んで行ってしまった。

これには海兵はおろかウタでさえ慌てて柵を掴んで飛んでいった方向を見た。

どうやらルフィは島に到達したようだが見聞色の覇気で居場所を感知できなかった。



「い、いかがなさいますか!?」

「もちろん、ルフィを追うの!!全速前進!!」



自分の許可なしで飛んでいったルフィに激怒したウタは罰を与えるつもりだ。

ただでさえタールのせいで自分の下着が酷い事になった彼女は決して許さない。

ルフィに全身をマッサージしてもらって寝室で子守唄を歌わない限り許すつもりはなかった。

世界一の歌姫の寝室で彼女をマッサージできるのはご褒美ではないか。

そんな男の劣情など知らない19歳児は、部下に命じて詳細不明の島に向かった。



「絶対にルフィを捕まえるのよ!!」



しかし、ウタは気付かなかった。

いや、この場に居る海兵も気付くわけがなかった。

自分たちが居るのは並行世界だという事に。



「私の指示なく離れた事を後悔させてやるんだから!!」



この世界線は、“赤髪海賊団の音楽家”のウタがフーシャ村に置いて行かれなかった。

代わりに音楽の島だったエレジアに置いて行かれていた。

そしてルフィが突っ込んだ島は、よりによってそのエレジアだった言う事。



「いきなりやる気になったな…」

「そりゃあ、ウタ准将とルフィ大佐は10年間も一緒に居た仲らしいからな」

「ウタ准将が大佐と離れ離れに暮らすなんて考えられないもんな」



この世界のウタは12年間も孤独に過ごしており、色んな意味で暴走している事に。

自分の歌を愛してくれるファンを辛い現実から楽しいウタワールドに閉じ込める計画をしていた事に。

なによりルフィと一緒に過ごせない自分が居るなど海兵ウタが分かる訳が無かった。



【海兵ルウタとREDの世界線との邂逅2】に続く


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